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君に届け! 愛ある拳をカウンターに込めて!   作者: マメ太郎
借金を抱えた少年と格闘技
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第一話


歓声がいまだ鳴り止まない会場に背を向け、二人の男女は連れ立って会場の外に出た。


「目ぼしい選手はいませんでしたね」


 男の隣を歩く水鳥 恋歌≪みずとり れんか≫が溜息混じりに、隣を歩く初老の男性結城 源内≪ゆうき げんない≫にポツリと呟く。


「そうじゃのぉ、関東大会ともなれば無名でもそれなりの選手がおると思ったんじゃがのぉ.....些か今年は不作のようじゃ」


「まぁ、去年が去年で凄過ぎましたからねぇ。 世界大会の上位10人のうちの4人を我が国で占めていて、その四人はいずれも世界ランクで上位に入ってしまいましたからねぇ......世間では、黄金世代何て呼ばれてメディアもそっちに集中しているようですしね」


「うむ、確かに去年の選手達はどの子も優秀ではあったが、流石にそれ以外の者とでこうまでも実力差が出来てしまうとのぉ.....今後の選手達が心配じゃわい」


「先の子の事を心配するのも良いですけど、うちのこともちゃんと考えて下さいよ。 どうするんですか? 約束の日時まで後1週間もないんですよ?」


「……うむ、それについてはのぉ……」


「私が出れればいいんですけどね」


「それは無理と言うものじゃろ。 何せ、ワシとお前の退団で揉めてのことじゃからのぅ」


「多少の事は有名税として納得は出来ます。 ですが、あれのやり方はまるで私がアイドルであるかのように扱い自分達の地位と金の事しか考えていません」


「まぁ、ワシもその辺りの方針の違いでお前を連れてあそこを出ようとしたのじゃが思いの他あれもしつこくてこの有様じゃ。 お前にはスマン事をしたのぅ」


「いいえ先生。 私は先生の指導さえ受けられれば何処に所属し試合に出ようと構いませんので先生について行くだけです」


「ほんにお前はワシには勿体無い弟子じゃわい。 お前の為にも早く環境を整えてやりたい所じゃが、ワシの技はワシの見込んだ奴に教えたやりたい。 じゃから、結果はどうあれうちの門下生として迎える以上は半端者は入れたくないのじゃ」


「分かっています。 まだ日はありますし先生が納得出来る者を探しましょう。 私はそれに従います」


「すまんのぉ、お前さんにはワシのせいで苦労をかけて........ふぅ、何ぞ都合よくワシの目に叶うような奴が現れんもんか……」


 その時、歩いていた二人の目の前に、横合いの道から吹っ飛ばされるようにして数人の男が転がってきた。

 見れば、髪を染め腕にイレズミを入れた男達であった。

 喧嘩? 或いはチーム同士での縄張り争いでの小競り合いか.....兎に角、ならず者同士のいざこざであろうと、二人は吹っ飛んできた男達を通行人の邪魔にならないように角に移動させ、巻き込まれるのを避けて立ち去ろうとしたのだが……


「むっ!」


「どうかしましたか先生?」


 突然源内が横合いの道の向こうを見つめ止まったことに、恋歌も足を戻し源内の見つめる先に目を向ける。

 そこには、先ほどの男達と同様に地面に転がっている者が複数いて、それを成したと思われる者はその中央で2m近くある大柄な男と睨みあっていた。

 しかも、よく見れば相手はまだ中学生位の少年であった。


「先生、まさかあの子がこの人達を一人で?」


「じゃろうな。 ワシが見る限り、あの歳でバランスの取れた筋肉の付き方をして良く鍛えられおるのぉ」


 源内は一流の目と技を持つ武術家であり指導者だ。 その指導を受けようと、所属している団体には毎日のように入門者が訪れているが他人を褒める事等滅多にない程厳しい鍛錬からやめていく者が殆どである。 


 「才能だけで生きている者などいない。 1%の天才とて、99%の凡人に負けまいと常に高みを目指して日々修練を積んでいるからこそ天才なのだ」と、源内は門下生にいつも言い聞かせている。

 だからこそ恋歌は知っている。

 例え、たかが筋肉一つの付き方にしても源内がそれを褒めると言う事は、彼の過ごした日々を思わば彼に少なからずの興味を抱いているのだと。

 

「ですがこれは、流石に止めに入らないとマズイのではないですか?」


 恋歌の視線の先、大柄の男の方の体にはまるで煙を纏うかのように男の体を包み込んでいた。

 BIチップの発動兆候である思考加速。 それをVR空間を用いない現実で使用すると現れる兆候だ。

 それを見せているという事は、この男は脳にVR対応用のBIブレイン インプラントチップを埋め込んだBLAZERブレイザーだ。

 BIチップとは、脳の領域拡張を目的とする医療用に開発されたものだ。 

 その主な効果としては脳で扱える情報量を増やす事で発生する思考の超加速。 簡単に言うと、通常の10倍の速さで脳が活動する状態となる事でその人物が行う思考・演算・記憶・反射・反応全ての事象が加速した世界で処理されるようになる。 

 つまり、通常の人の10倍の速さで活動する事が可能な加速世界を再現したのがこのBIチップだ。

 これにより、老化による思考・反射・認識力の低下防止や脳に問題のある病気の改善にBIチップは大きく貢献してBIチップは『第二の脳』と呼ばれる事もある。

 また、現在ではその用途は医療現場に限らず様々な場面に使われている。

 その用途の最たる一つが、VR.....仮想現実を現実に利用して行われるスポーツイベントだ。 これをVRのVを取ってVスポーツと呼び参加者をゲームにちなんでプレイヤーと呼ぶ。 そして、BIチップを体に埋め込んだプレイヤーの事をBLAZERと呼んでいる。

 Vスポーツは野球やサッカー等の公式スポーツ競技とは違い、ルール上BIチップを埋め込んだプレイヤーなら誰でも参加可能な非公式スポーツ競技イベントなのだが、その競技性は公式のものとは違い現実では再現不可能なマンガやアニメの必殺技のような事がVRでは再現できてしまうので今では公式スポーツよりも人気だ出てきてしまい、非公式ながらお金も絡む大会や専属的にプレイヤー契約を結んでネットでその選手の試合を配信してVスポーツをビジネスにする者も増えてきている。

 もっとも、BIチップは主な目的が医療用に開発された物なのでその仕様には厳しい制限が設けられていて、BIチップを移植された患者、Vスポーツ用にBIチップの移植手術を受けた者がその使用法で問題を起こした場合BLAZER特別法というBLAZERの為に作られた法律が適応される。

 

 それは当然の事だ。


 何せ、BIチップは日常的に脳の情報量を増やし超加速状態を作る事が可能なのだから、BIチップを移植した者とそうでない者の間には時間にしても10倍の差が生まれてしまうのだからその時間の中で犯罪を犯そうと思えば実に簡単に出来てしまうのだから・・・.。 また、BIチップの移植手術は現状で特に規制はされていない。 

 だからこそ、BIチップの日常生活での使用にはきちんとした規制が掛けられていて喧嘩でそれを使うのは当然法律で禁止されている。


「……止めに入ります」


「いや、少し待ちなさい」


「先生?」


「見ていれば分かる。 なぁに、本当に危ないようならワシがすぐさま止めに入るさ」


 恋歌に思う所がないわけではなかったが、源内がそう言うならば従うしかない。

 最も、恋歌も源内もBLAZERである上に、源内はVスポーツのプレイヤーの指導資格を持っている。 この指導資格保持者は、BLAZERが暴走しないように監督をすると共にBLAZERの不正を見つけた場合に限り特別な権限を有している。 

 それは一種の臨時警察みたいなもので、指導資格保持者は思考加速状態で対象を鎮圧出来るだけの戦闘訓練を資格所得段階で受けている。

 源内がやろうと思えばものの数秒足らずでこの場を収めることが可能。 さらに言うと、源内の専門は格闘技系のVスポーツであり思考子加速をしなくても古流武術を達人の域まで習得した武の達人である。 

 ならば、この場に源内がいるからこそ万に一つも間違いは起きない。


 二人の視線は自然と少年へと向けられる。

 結果から言ってしまえば、源内が言ったように注意する必要はなかった。

 

 案の定、男の方は加速状態の中で常人には視認出来ない速さで動き体格差に任せた大振りな一撃を放つが、少年の方は加速もしていないのにまるで男の動きが正確に見えているかのように小柄な体を生かしてスルスルと避ける。

 しかも、ただ避けるのではなくしっかりと相手の攻撃を目で見て観察し相手の攻撃の距離やタイミングを把握して決して危険な範囲に身を置かないように上手く立ち回っている。


「彼はあの動きが見えているのでしょうか?」


「おそらくははっきりと見えておるじゃろうな。 でなければあそこまで相手の攻撃を綺麗にかわすことは出来ん」


「でも彼は加速していませんよね?」


「相当良い目を持っているのじゃろうな」 


「いくら目が良いからって10倍の早さにあそこまで対応出来るものでしょうか?」


「稀におるんじゃよ……ああいう天性の才能を持った天才がな」


「天才ですか?」


「ウム。 何も目が良いだけではない。 あの少年は戦い慣れしておる上に、自分に何が出来て何が出来ないかを、どうしたら目の前の相手に勝てるのかを良く考えそれを理解しておる。 その証拠に絶対に相手の間合いに入ろうとせん」


「確かにそうですね」


「時期に決着もつくじゃろう。 恋歌よ良く見ておきない」


 しばらくすると、男の方は額から玉のような汗を滴らせ目に見えて疲労が現れだす。 BLAZER状態での思孝加速は10倍の速さで脳が思考して体に指示をだして人間のそれを超えて動く分、脳と同時にしっかりと体も鍛えていなければ体は加速に絶えられず疲労も10倍の速さと量でやって来てしまう。 勘違いしている者が多いが、BIチップはあくまで加速世界を作りだす事が出来るのであって決してそれだけで万能ではない。 素となる体はBIチップを使ってBLAZERになってもそれまでの自分のものとなんら変わりはないのだ。 少年の方も男の状態を見て攻勢に転じ始める。

 一発一発はそうたいした威力がなくとも、相手の攻撃の隙をついて相手の攻撃に合わせるようにカウンターで攻撃を合わせ徐々に相手にダメージを与えて押し込んでいく。 

 そして、男の足が疲労とダメージの蓄積で踏ん張りきれず膝がガクリと折れ少年の手の届く距離までアゴが下がった所で少年は男の懐に勢いよく飛び込む。 鳩尾に肘で一発、返す刀でそのままアゴに飛び膝蹴りをかまし、後ろ回し蹴りで側頭部から男を蹴り飛ばすと、男は真横の壁に体を激しく打ち付けられ膝から崩れるように地面に大の字に転がった。

 男の意識は完全に飛び、白目を剥いてピクリとも動かなかった。

 少年の方は、あれだけ激しく動いていたというのに息一つ乱れておらず、地面に転がる男に目もくれず何事もなかったかのように歩き出す。


「……はぁ、思わず見入ってしまいましたけど、洗練されたいい動きでしたね。 あの子、何処かの流派に所属しているのでしょうか……先生?」


 恋歌が隣に目を向けるとそこに源内の姿はなく、


「少年よ、ワシの弟子になってくれ! 」


 ようやく見つけたと言わんがばかりに源内は少年の前に立っていた。


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