後悔
俺は液晶画面をじっと見つめる。
メールの受信を伝えるメロディはまだ俺の耳には聞こえてこない。
いやな夢を見た。
あまりにいやな夢すぎて、まだ朝の5時過ぎなのに飛び起きてしまった。
リアルな夢だった。夢の舞台も、彼女の服装も、俺の立ち位置も、昨日の風景そのまんまだった。
夢の中のあなたは突然言った。ため息混じりの小さな声で。
「もう私たち、別れましょう。」
意味を頭の中で吟味するよりも早く、俺はベッドから飛び起きた。
寝汗をタオルで拭きながら、なんであんな夢を見たのかを考えた。
理由を見つけるのは簡単だった。絶対に昨日の喧嘩が原因だ。
昨日、彼女と初めて喧嘩した。というより、彼女と呼べる人と喧嘩するのが初めてだった。
2ヵ月前、初めて彼女という人が出来た。20年生きてきて初めて彼女が出来た。
その彼女と初めて喧嘩した。喧嘩の原因は些細なことで、些細なことすぎて忘れてしまった。忘れてしまったというより、そのあとに彼女が
「もう知らない!帰る!」と言って、走って大通りに出て、タクシーをつかまえて乱暴に乗り込んで、俺の見えない遠くに行ってしまったことが衝撃的で、他の事なんか憶えている余裕は無かった。
しばらく、彼女のいなくなった道を見つめていたけど、ため息をきっかけに家へと帰った。
今さらになって冷静に考えてみれば、この時に彼女を追いかけてごめんと一言、まぁ実際はもっと言うことあるかもしれないけど、まぁ実際はどっちも酒を飲んでいたからそんな深い話はできないかもしれないけど、とにかく謝ればその時に解決していたかもしれない。
でも、何故かその時は変なプライドっていうかつまんない意地みたいなものがあって、とぼとぼと家路に向かった。
家に着くと、余計にみじめな気持ちになって、余計にどうしていいか分からなくなって、とりあえず友達に電話を掛けた。
友達は親身になって話を聞いてくれた。
「大丈夫だよ。んなこと心配すんなよ。」と慰めてもくれた。
だけどその内、
「そんなことで心配するなんて、お前もピュアだねー。」とか、
「熱いねー。」とか冷やかしてきて、だんだんそれに俺もいらついてきて、そんな俺にもいらついてきて、俺は黙って電話を切った。
電話を切るとまたみじめになって、こうなりゃ寝るしかないって感じになって、ベッドにそのまま飛び込んでふて寝をした。寝れるはず無いよ、こんな気持ちじゃ、とも思ったけど。だけども横になるとすぐに睡魔が襲ってきて、あぁ人って案外寝れるんだなぁって思ってみたりして…
いやな夢を見た。
あまりにいやな夢すぎて、まだ朝の5時過ぎなのに飛び起きてしまった。
リアルな夢だった。夢の舞台も、彼女の服装も、俺の立ち位置も、昨日の風景そのまんまだった。
夢の中のあなたは突然言った。ため息混じりの小さな声で。
「もう私たち、別れましょう。」
意味を頭の中で吟味するよりも早く、俺はベッドから飛び起きた。
寝汗をタオルで拭きながら、なんであんな夢を見たのかを考えた。そして、昨日彼女に謝らなかったことをひどく後悔した。
今ならまだ間に合う。そんなことを思うより早く、俺は携帯電話を握り締め、指をしきりに動かした。
携帯電話の画面には電話の絵と彼女の番号が並ぶ。俺はそれを確認して、携帯電話を耳に当てる。
彼女への呼び鈴が何回か聞こえたあと、どこの誰だか分からない女性が彼女の留守を伝える。
俺はため息だけを残して、また指を動かす。
携帯電話の画面は彼女への手紙を確かに送り届けたことを報告する。
題名;昨日は
本文;昨日はごめん。
シンプルなメールだった。本当はもっと伝えたいことがあったけど、それを全部書くと文章にならないんじゃないかと思ってやめた。本当に伝えたいことは、彼女からの返信がきてから、今度は直接会って話そうと思う。
携帯電話がメールの受信を伝えるメロディを流す。
すぐさま、携帯電話を掴み取る。
題名;昨日は
本文;昨日はごめん。言い過ぎた。てか、調子乗りすぎた。でも、お前は本当に心配しすぎなだけだって。謝ればすぐに許してくれるって。頑張れよ!
読んでいる途中で彼女ではないと気付いた。それとほぼ同じに、昨日友達に相談したことを思い出した。
いい奴なのだ。彼もそして彼女も。そして、それに俺は今まで甘えていたのだ。ちょっと後悔した。今頃になって気付いた。今からじゃ遅いかもしれないけど、今度あなたたちに会ったら、この後悔をそのまま言葉で伝えよう。
俺は、彼に『ありがとう。』と短いメールを送って、短いため息をした。
俺は液晶画面をじっと見つめる。
あなたからのメールの受信を伝えるメロディは、まだ俺の耳には聞こえてこない。
御覧頂きありがとうございます。