誕生日、〇〇〇〇〇
八歳の誕生日。アルバムの中の私は、欠けた歯で笑っていた。写真の下には、母のコメントが書いてあった。
「春奈、今日で八歳だね。春奈が大きくなるのを、お母さん、楽しみにしています。おめでとう」
十八歳の誕生日。アルバムの中の私は、病室で、ベッドの上の母と一緒にピースをしていた。写真の下には、何も書かれていない。でも私は、その日言った言葉を覚えている。
「お母さん。今日は、お母さんが、私を生んでくれた日だよね。だから……お母さん、ありがとう」
二十八歳の誕生日。アルバムには写真が無い。たぶんその日、私は一人だった。身内は誰もいなくて、仕事は異常に苦しくて。だから私は、パーティーの代わりに、ある儀式を選んだのだった。
「もう、次の誕生日を祝うことは無いよね。死人の歳は数えるなって言うし。うん……さようなら」
三十八歳の誕生日。また写真がある。あなたが隣にいた。写真の下のコメントは、あなたの文字だよね。
「君と出会って、今日でちょうど十年目。ずっと、隣にいさせてください。来年も、よろしくね」
四十八歳の誕生日。それは、私が十八歳の時の母と、同い年になった日。写真に写るのは、私の娘。
「お母さん、いつもありがとう。それに、おめでとう。でも、最近風邪続きだよね。だからもう一つ、おだいじに」
五十八歳の誕生日。十年前の写真には写っていなかった青年が、困った顔で笑っている。
「……ただいま、母さん。テレビ見てくれたの? そっか……どうだった? まだまだ……はは、相変わらず厳しいな。うん……そうだね、ひさしぶり」
六十八歳の誕生日。白髪の私は、小さな子供を抱えて、自分でも恥ずかしいくらい嬉しそうにしている。
「ばぁば、けーき、たべう? ゆうがたえさせてあえう! あい、めしあやえ!」
七十八歳の誕生日。それは、明日だ。
さて……どんな言葉が、似合うだろう。




