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意地悪な片思い  作者: 下駄
ブラック
7/25

鼓動の言いわけ(2/2)

 

 すっかりそれから長嶋さんの話を聞く役に回った私は、

車の話に加えて、彼の趣味であるダーツにビリヤードなどの話も聞き始めた。


といっても長嶋さんと飲みに行くと大体話すのはそれらの話だったりするわけで、

別段珍しいというわけでもない。


「それでこーね、パーンとやったわけ俺!」

お酒の力もあっていつもより饒舌。


「はい、聞いてますよ。」

 笑いながら私は彼のジョッキにお酒を注いだ。


私も長嶋さんにつられてお酒の減るペースが速い。

長嶋さんが帰りに困ってはいけないと私は合間合間にお水も差しだした。



 速水さんたちはどんな感じだろう。

話に一区切りついたところで私は彼らを見ると内川くんの頬は一層赤い。


速水さんも一見変わらないように思えるけど、よく見るとほんのり頬に紅がさしてある。


「はー、やっぱり先輩はお酒強いですね。」

 内川くんの頼りない声。


「お前に負ける奴はいねーよ。」

 速水さんは口の端を緩め、またお酒をごくっと含む。


「おらお前もうお酒飲むなよ、酔いすぎだから。」


「あー返してくださいよー!」

 無理やり速水さんが取り上げようとしたジョッキを内川くんは自身のほうに寄せた。


「内川くんもうやめた方がいいよ、

長嶋さんのお水ちょっと貰ったらどうかな。」

私もつい間に入ってしまう。



ためらいながらも堪忍したのか内川くんは

「…市田さんが言うなら。」 

 そう言ってジョッキをテーブルに置いた。


「うん。」

 空になっていた内川くんのコップに私はお水を注ぐ。


「市田さん僕のお酒飲んでいいですよ。

まだ余裕ありそうですし。」

 一気になくなる内川くんのお水。

速水さんには強気だったけど、やっぱりもうきついんだな。


「私は内川くん達よりコップが一回り小さいから。

でも勿体ないし貰うね、まだ飲めるから。」

 このまま内川くんの前にお酒を置いていたら意地でも彼飲みそうだし。


私はそう思って彼のジョッキをコトンと目の前に移動させた。


「あー飲んだ飲んだ。帰る前にお手洗いっと。」

 長嶋さんはそうしている間に食べていたらしい唐揚げを、平らげてしまうと席を立った。


内川くんは残っていた後の少しのポテトをもしゃもしゃと食べている。


「おい内川も行っとけ、この間帰りそれで困ったんだから。」


「大丈夫ですよー。」


「この間もそう言って結局だめだったじゃねーか。」


「はーい。」

 しぶしぶ立ち上がった内川くんの背中も見えなくなる。



すっかりお店の中もお客さんが少なくなったようで、入店したときの活気な感じはもうない。

たくさん頼んだ注文も、

テーブルの上にはちらちらしか残っていないおかずの数々と、開けられたお酒の瓶、それからジョッキ。


いるのは酔いが回り始めた私と、まだ余裕そうな速水さん。



おかしいな、さっきまで表情見れてたはずなのに。

二人きりになった途端、……見れない。





 私は一つだけ残っていた餃子に箸をつけた。

一方の速水さんは内川くんのコップを奪い水を飲む。


「飲みすぎちゃいました?」


「いつもよりね。」

 濡れた唇を彼はぬぐった。


「内川くんが心配ですね。」

 苦笑する私。


「まあ俺が途中までついてるからなんとか。」


「あ、速水さんもそっち方面なんですね。」

 同期で飲んだとき、内川くんと途中まで帰ったことを思い出した。


「じゃぁ長嶋一人か、

まぁあいつはなんだかんだ大丈夫だしね。」


「お店出て風当たった途端、長嶋さん酔い覚めますもんね。」


「うん。」

 速水さんの表情がくすりと緩む。



普通に話してたらいい人なんだけど。

でも、ちょっと油断すると噛みついてくるというか。


しまうまがらいおんに襲われるみたいに、

獣みたいに―――


って何ばかなこと考えてんだ、私は。



私は内川くんが飲みかけのお酒に手をかけた。


「ばか。」


「あっ。」


 ジョッキを持った私の手、

上から速水さんの手が覆いかぶさる。



そのまま、1秒。


2秒。



3秒目、するりと私は手を抜かした。



「お前も飲むな。

ったく、内川追い出した意味ないじゃん。」

 速水さんはそのまま口にジョッキを当てた。


「す、すみません。」

 言葉が私の口からこぼれる。


あーあ、食べられたかと思った。

だってほら、触れられたとこがばかみたいに熱い。




「無理して飲まなくていいから。

好きなもんだけ食べな。」


こくん、私は頷く。


「えらい、えらい。」

 ハハハっと彼の笑い声。


「餌付けはされないですからね。」

絞り出した一言は今できる、私の精一杯の虚勢。


でもあっけなく彼は「そうだね。」って言って負けを認めた。


狡猾な表情で私を見てくると思っていた私は拍子抜けしたように目を丸め、


「餌付け、私されてないんですか?」

 思わず聞き返してしまった。


彼はお酒をぐいっと飲む。


「餌付けどころか、俺のこと避けてたでしょ?」

 じろりと見た瞳が私を捕まえた。


気づいてたんだ。


「……さ、避けてないです。」

 私は彼から目線を外した。


「嘘。」

 彼の視線をまだ感じる。



「避けてないです!」

 持っていた箸を私はお皿にパンと置いた。



だって速水さん答えてくれなかったじゃん。

からかうばかりで。


速水さん、そのからかいは好きって気持ちから?

それともただ年下をからかってるだけ?



他のお客さんの声しか響かない中、彼が口を開いた。



「市田は、


変な人だ―――――なんて俺は言ってあげないよ。」



あぁ、本当に


ずるい人。







「無理して飲まなくていいから。

好きなもんだけ食べな。」


こくん、私は頷く。


「えらい、えらい。」

 ハハハっと彼の笑い声。


「餌付けはされないですからね。」

絞り出した一言は今できる、私の精一杯の虚勢。


でもあっけなく彼は「そうだね。」って言って負けを認めた。


また狡猾な表情で私を見てくると思っていた私は拍子抜けしたように目を丸め、


「餌付け、私されてないんですか?」

 思わず聞き返してしまった。


彼はお酒をぐいっと飲む。


「餌付けどころか、俺のこと避けてたでしょ?」

 じろりと見た瞳が私を捕まえた。


気づいてたんだ。


「……さ、避けてないです。」

 私は彼から目線を外した。


「嘘だ。

現に久しぶりに話してるじゃん。」

 彼の視線をまだ感じる。


「それは…たまたまですよ、

私たちそもそも普通に仕事してたら会話なんてするときないじゃないですか。


避けるも何も話さないのが普通です。」



筋は通ってる。

これなら彼も何も言えないはず。



「…じゃぁこういうよ。」



「俺は話したい。」



しまったと思った。

大事なところに牙が突き刺さった感覚がした。




「給湯室全然市田寄り付かないし、

サンドイッチ頼むどころか昼間ばかみたいにおにぎり食ってるし。」


「…仕事が手いっぱいで休憩避けてたんです。」


「昼食は?」


「お、おにぎりブームです。」


「違うだろ、だってサンドイッチっていうか

パン自体避けて、おにぎりおにぎりおにぎりおにぎり。」


「おにぎりブームですもん、

おにぎりおにぎりおにぎりおにぎりおにぎりおにぎりおにぎりおにぎりおにぎりおにぎりおにぎりですよ!」


「なんだよ、それ…。」


 強気でわがままな末っ子みたいに反論、


すべてばれちゃってるのに。


速水さんってやっぱりすぐ私のこと分かっちゃうんだ。

給湯室に一度も行っていないのも

ここのところお昼がおにぎりばかりなのも―――。


今だってむちゃくちゃなことを言っている。

そう分かっている、それでも―――誤魔化すにはちょうどいい。


恋じゃない、恋じゃ、ない。

全然気になってなんか、ない。


あなたのその危ない香りの虜になんてなってない。



「俺のこと少しは気にしてるのかなとか思ったけど…。」

 

淀む彼の声。


「……全然、そんなことなかったか。」


ハハハと彼は小さく笑った。


「そうですよ…。」


私も笑い返す。



このまま飲み会が終わってほしい、

90パーセント。


透視してよ、

その気持ちは10パーセント。


「長嶋たち遅いね。」


「本当ですね。」

 

 また料理の話が始まった。


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