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ぼくとあたしの|恋物語《ラブストーリーズ》

It's Magic!

作者: 濱澤更紗

 第一印象は、正直「変なやつ」だった。

 おちゃらけてて、つまらないギャグばかりいっていて。

 でも、彼は大きな夢を持っていて、その夢を嬉しそうに、楽しそうに語ってくれた。

 初めて会った人間に対して。

 それすらも「変」と思うのだが、私は何か心に引っかかったのも事実だった。


 それから何回か、彼と会った。

 最初の「変なやつ」という印象は変わることがなかった。あいかわらず、おちゃらけてて、つまらないギャグばかり言っていて。生真面目な私とは、どうにもこうにも相性が合わない。のらりくらりと風任せな彼は、私にとってイライラの元。

 だったら、会わなければいい?

 そう。私もそう思う。

 だけど、なぜか断ち切れない。

 何かがあるんだ。何かが……。


 ある日。私はふうとため息をついた。

 なんでこんなやつのところにいるのだろう。本気で考え込んでしまった。

 うーんうーんと悩む私に、彼はいつもどおりのらりくらりと馬鹿なことを言っている。

 私はいらいらしてきた。そして、ついに言ってしまった。

「馬鹿なことばかり言ってないでよ! 私は考え事してるの!」

 声を荒げた私に、彼はビクッと肩をすくめる。そして、しょぼんとうなだれてしまった。

 ひどいこといっちゃったな、と思ったが、いらいらしていたのは事実で。

 ふうとため息をつく私。そんな私を見て。

「……ってほしかったんだ……」

「なんて言ったの?」

 私の声は尖っている。彼はうつむいていたが、やがて顔を上げて、きっぱりといった。


「あなたに笑ってほしかったんだ」


「へっ?」

 きょとんとする私に、彼は真剣なまなざしで言った。

「初めて会ったとき、僕の夢の話、聞いてくれたでしょ? そのとき、あなたは笑ってくれたんだ。暖かく」

 そういえば、微笑んだかもしれない。正直、覚えていない。

「あんなに暖かくて優しくて、かわいく笑ってくれた人。僕は初めてだったんだ」

 へえ、そうだったんだ……。私は無意識に笑ったのだと思うのだけど。

「初めて会った人が、こんなにもかわいく笑ってくれる。だから」

「だから?」

 彼の瞳に私が映る。真っ直ぐな視線。

「だから。もういちど、あの笑顔が見たかったんだ。笑ってほしかったんだ」


 その瞬間。私の中で、何かが解けた。

 どうしてこんな変でイライラの元になるやつのそばにいるのか。


「そう。その笑顔」

 彼が言う。私ははっとした。

「その笑顔を、いつまでも見ていたいんだ」

 彼はニコニコと笑う。

「……駄目、かな?」

 小首をかしげるその姿に、私は思いっきりふきだしてしまった。

 そして言った。

「やっぱり変な人」

「そうかな……?」

 そして、また小首を傾げるのだった。


 彼の印象は変わらない。

 私の中では、今でも「変な人」。

 だけど。

 そんな「変な人」が嫌いじゃないみたいだと気づいただけでも、進歩したのかも。

 だって。

 気づいたら、彼と手をつないで歩いていたのだから。

 もっとも、手をつなぐだなんてその時が初めてだったということに気づいたのは、かなり先の話だったけれど。


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