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僕達の懺悔録  作者: 日比野サケビ
2/2

恐怖の木下くん

これが取調室か・・・・

思ったより狭いんだな。

そして驚いたことはドアが開けっ放しってことだ。

どうやら暴力的な取り調べや不正が行われないようにとの配慮からみたいだ。

ゴリラのような体躯のオマワリにすっかりブルっていた僕は、これでぶん殴られたりしないだろうななどと考えていたが、すぐにその考えが甘い事だと気付かされた。

僕が捕まった罪はパトカー泥棒だ・・・

なんてチンケな事で捕まることか。


年の瀬も押し迫った12月のある日、僕たちは4人で佐藤聡一そういっさんの家に居た。

テレビでは年末恒例の「警視庁24時」的な番組が流れていた。

すると画面から爆音が鳴り響いた。暴走族特集だ。

画面の中の彼らはモザイク越しに睨みを効かせ、加工された甲高い声でも十分迫力のある声で凄んでいた。

するとナレーションで「彼らはパトカーの事をパンダと呼び、挑発を繰り返す」

と言っていた。

ぶふっ! 誰ともなく僕たちは笑い出す

「そんなダセー呼び方するわけねぇよな!」 

「パンダって(笑)センス悪すぎだろ!」 皆口々に言うと家主であるそういっさんが一人静かにこう言った。

「イヤ、アレはパンダだ・・」

すると平田宗男むったんが「馬鹿じゃねーの?アレの何処がパンダなんだよ」と言い終わるか否かのタイミングで、そういっさんがムッタンに掴みかかった。

元々そんなに折り合いの合わなかった二人だ、些細な事で着火するのは目に見えていた。

僕は田中誠一せいちゃんと必死に二人を引き離し、そこまで言うなら見に行こうと提案した。

幸いここそういっさんの家から三好町の交番まで200メートル程だ。

4人で行ってパトをじっくり見てから決めればいい。

タバコをふかしながら4人は口もきかず交番を目指した。


サビーなぁ・・・こんなくだらないことで表出たくないぜ。

するとせいちゃんが「今日の・・木下くんの呼び出しってなんだろう?」

急に気が滅入ることを思い出させた。

そう今夜僕たちは10時に木下くんに呼び出されていた。

木下くんは3コ上の先輩で高校も行かずプラプラしてる自由人だ。

木下くんの呼び出しには大概ろくな事がない。


いつだったか呼び出されて連れて行かれたのは工務店の倉庫。

そこに有るトルエンをパクってくるのが司令だった。

倉庫に入ってガチャガチャやってると、入り口に人影らしきものが・・・

僕達がじっと息を潜めていると懐中電灯の光とくぐもった声らしき音が聞こえる。

そう、アレは警察官の胸元にある無線から声が漏れ聞こえている音だ。

僕らの倉庫の物音を聞きつけ誰かが通報したに違いない!

幸いオマワリは一人だし相手はチャリだ。

表に出てしまえば停めてある原付きに乗って一気に逃げられる。

僕たちは4人でタイミングを合わせせーので飛び出した。

意表をつかれて尻もちしている警官を尻目に僕たちは猛ダッシュで外に出て

大急ぎでパッソルに飛び乗り難を逃れた。

そのまま木下くんの家に行き、工務店襲撃は失敗に終わった旨を伝え一発づつゲンコツを頂戴し帰ってきた。


木下くんは暴走族でも何でもない自由人だが、その卓越した腕力と胆力で誰も敵わず、僕らの暴走族の先輩らも木下くんには一目置かざるを得ない状況だった。

通常はオナ中(同じ中学)の先輩でも、自分のチーム以外の先輩の言うことを聞こうもんならタップリとヤキを頂く事になる。

以前別の同期のやつ(サボ)が木下くんの用事を頼まれていて集会に遅れたことがあった。

先輩たちは烈火の如く怒り、峻烈な制裁をそいつに与えた。

「プータローなんかにペコペコしやがって!」それがヤキの理由だ。

暴走族の原理原則としては大いに正しいのであるが、木下くんには通じない。


数日後町中でサボを見かけた木下くんが、そのツラをデコボコに整形された理由を聞き、木下くんはヤキを入れたウチの先輩5人を呼び出し全員をボッコボコにした。ボッコボコだ。

サボは5人がかりで木刀まで背負わされてのデコボコヅラだったが、木下くんはたった一人で5人をしかも素手でボッコボコにした。


後日サボからその時の状況を聞いて僕たちは改めて木下くんの恐ろしさを知った。

最後はサボが泣きながら木下くんの足にしがみついてヤキが終わったそうだが、止めなければ先輩たちは一体どうなっていたのか・・・

その後5人の内2人がチームを去った。

それでも会長はじめ幹部たちは木下くんに返しをしようと言い出さなかった。

それ程恐ろしい人なのである。


そんな木下くんからの嬉しくないご招待を数時間後に控え、僕達の気分は一層ブルーになった。

バックれて~なー。 僕が言うと誰も返事をしなかった。

あたり前だ。僕だって言ってみただけだった。


三好町の交番に着いた。

幸い? パトカーが一台停まっていた。

交機や警らで使うようなパトじゃなく、お周りたちが交番間を移動するときに足に使うような1600ccのブルーバードだ。

むったんとそういっさんはココでもパンダだパンダじゃないと口論し始めている。


ここの交番のオマワリとは顔見知りで、騒いでいたりしても割りと我々非行少年たちに寛容な30歳位の色黒のオマワリだった。


するとむったんが素っ頓狂な声を上げた「あれぇ~? こいつ鍵ついてら」

え?まじでまじで? 僕らは代わる代わる運転席を覗き込むと確かに鍵が付けっぱなしだ。

もしかして・・・・せいちゃんがノブに手をかけると「ガチャ」運転席が開くではないか!!!

せいちゃんがヨッシャと乗り込むと同時に僕達も助手席、後部座席のノブに手をかけると全てが開いていた!

僕らも一斉に乗り込んだ。

乗り込むと共に誰からとも無く大爆笑だ

「まじかよ!パトカー乗ってるし!」 「イヤこれやばいでしょ~(笑)」

「ここのマッポ甘すぎ!盗まれるっつーの!」

「ん? 盗んじまう?」「・・・・盗んじまう・・・か?」

「パクっちまおうぜ!」 僕たちは異様に興奮していた。

パトカーに無断で乗り込んでるだけでも前代未聞なのに、それを更に盗む?


この時だれかが「ヤメヨウゼ」って言ってくれれば・・・・

自分で言う勇気は無かった。こいつらに根性ないって思われたくなかった。

多分みんなそうだったと思う。


キュルルル

せいちゃんがセル回している! そして静かにエンジンに火が入った。

僕らはこれまで散々車の窃盗をしてきたから、みんな中学生ながら車の運転はお手のものだった。

しかもこの当時車はまだ殆どがマニュアルだったけど、僕らは意に介さなかった。

ギアをローに入れゆっくり動き出す・・・

僕達のテンションを言い表せない程上がっていた。

そのまま上田橋を渡り町中へ。

まだ時刻は9時だってぇのに上田の街は閑散としていた。

そこで少し早いが上田唯一の歓楽街「袋町」をゆっくり流した。


みんなパトカーをみてギョッとしていた。

そりゃそうだ。 パトカー来たなーなんて見たら中にはマッキン金の頭した中学生が4人乗ってんだもの。


僕らは散々乗り回し河川敷にパトを乗り捨てた。

時刻は夜の11時過ぎ。

木下くんの呼び出しなんてすっかり忘れちまってた!

まぁしょうがないバックレバックレなんて各々口にして

後日来るであろう木下くんのヤキタイムの事はなるべく考えないようにしようとしていた。


しかし神様は居た!

その日木下くんは久々に純トロが手に入って、僕達を呼び出した時間は絶好調にラリっていて呼び出したことはすっかり忘れてたそうだ。





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