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僕達の懺悔録  作者: 日比野サケビ
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呼ばれなき訪問者

トントン

肩をゆすられた? いま寝たばかりだぜ? 気のせいか・・・ドンドンドンドン

今度はハッキリと激しく肩を揺さぶられる。

さっき帰って来たばかりだ、まだ外だって暗いだろう。

しかし昨日は最高だった。

珍しく集会には10人を越す人数が集まり、いつもは糞寒いハズの2月にしてはドカジャンで過ごせるくらいまだ多少ましな夜だった。そして何より苦手な先輩たちがこぞって昨夜は来ていなかった。 そろそろ引退が近いとかで最近一番上の先輩たちが顔を出さない。

ったくハタチ過ぎてんのにノコノコ暴走族の集会くんじゃねぇよ、などと夢見心地で一人ごちていると鼻先に一瞬生臭い嫌な匂いが漂った。

この匂いにろくな事が無いことを僕は本能で知っている。 嫌なヤツの匂いだ。

いや、正確には「嫌な大人」の匂いだ。

すると耳元で小声ながらハッキリと聞こえた「ニシムラ、起きろ!」


夢じゃない。 この嫌な匂いも地獄の底から響くバリトンボイスも現実の出来事だ。 

なかなか目が開かない。 まだ頭は眠ってるようだ、顔だけ少し持ち上げて見ると開いたドアの向こうで母親が手を揉みしだきながら泣いている姿が見えた。

え?なんで? てかさっきのおっさんの声はなんだっt・・・・


瞬間顎をぐいと持たれて無理矢理目の焦点を合わされると、見覚えのないおっさんが目の前まで顔を近づけ口を開いた。

俺はぼんやり「あ、この匂いだったんだ」などとこいつの臭い息を嗅ぎながらノンキな事を考えてた。

おっさんは小さいがよく通る声で「上田警察だ。何しに来たかわかるな?」と聞いてきた。え?いや・・わかんないっすけど・・・

何しに来たかわかるかだと? 分かりすぎて逆にどれの事かわからない!!

まさか昨日の暴走の事か? イヤまさか・・・たかだか数時間前の暴走行為の件でこんな家まで来ることは絶対無い!せいぜい呼び出し位のもんだ。


心臓が早鐘を打つ。ヤバイヤバイヤバイ!!!

しかもよく見るとおっさんは一人では無い、4人もいる。

背は大きくないが胸板の厚いおっさんばっかりだ。 僕は後にこの胸板の厚さを嫌ってくらい身に染み込ませることになるのだが・・・・

何だ何だ何だ?何しに来やがった? 過去傷害と窃盗で2回御用になってる、次捕まったら保護観じゃすまない。

昨日の暴走の件じゃなきゃナンだ? オギノの閉店後忍び込んで短ラン20数着盗んだアレか? むったん達とギターが欲しいっつって、深夜にヤナギヤ楽器のドアを叩き割って侵入したはイイが、ドアをぶち破る「ガシャーン」に異常にビビって何故かスネアだけ4個も持ってきちまったアレか? それともセド・グロなら何台でも買うヨっつーブラジル人不良のカルロスの甘言にそそのかされて、セドリックをパクってったのに「コレは430だから」とか何とか言って結局15万しか寄越さなかったあの事件か?

それともサボの野郎が駅前の交番に火をつけ・・・

などとグルグル回想していると一人のおっさんが何やら紙を取り出し読み上げだした。

俺はぼんやりと聞いていると「12月22日、三好町交番より」と言うワードが出た瞬間ピンときた!

あのパトカー窃盗事件か!! 

すると目の前のオマワリが「記憶有りって顔してるな!」と唇をひしゃげさせて言ってきた。 その通りだった。

2月17日 午前5時9分 僕は逮捕された。


「腕出せ腕!」 坊主頭のオマワリが言う。

きょとんとしてると「あ~もう!」と僕の右手を乱暴に掴んだ。

するとおっさんは自分の腰元からなにやらガチャガチャ鳴る金属らしきものを出してきた。鈍色に輝くそれを開いて僕の右手に巻きつけてきた。とっさに手を引こうとすると「動くなっ!」と大声で怒鳴られた。 ビクッとしてると左腕もぐいと掴まれると同じように左手にも金属が巻かれた。手錠だった。


まさか中学生なのに手錠を掛けられるとは思ってもみなかった。 まして母親の目の前で。

母親はその場でまるで空気が抜けたかのようにヘナヘナと膝を付いた。

ちょ待て待て! 俺だけかよ? オイ!話聞いてくれよ!

俺は暴れて抵抗しようとした。 否、このカッコ悪いザマを母親に見せたくなくてイキガッて見せようとした瞬間「黙れ!!」と大喝された。

腹の底からしびれるような大声に気圧され二の句が告げずにいると、おっさんが母親に色々今後の事を説明していた。

だがまるで耳には入っている様子は無かったが・・・

手錠を掛けられスウェットのまま表に出ると近所のババァが4~5人見えた

今日の茶菓子は西村さん家のバカ息子で決定だ。

僕は白々と開け始める空を見ながら今後の事を考えた。

高校は無理だな・・・・元々公立はとても無理だったしそもそもそんなに高校に行きたいとは思ってなかった。

周りもみんな就職組だしこれで踏ん切りついた「セケンテイ」ってやつさえ気にしなきゃ中卒でジューブンだ。

ただ・・・ドカチンとか汚れる仕事は嫌だなぁ・・・などと考えてるとパトカーは上田警察署の裏口に滑り込んだ。


裏口から入り一階エレベーター横のベンチで座って待ってろとの事。

言われるがままに座ると、左隣に制服の警官が一緒に座った。僕の左腕にカップルの様に腕を絡ませてそいつと一緒に座った。 家に来た4人の内の一人が僕の前に立ち絶対逃げられないフォーメーションになっていた。


すると制服警官が立っているオマワリに向かって「あ、東海林さん手錠の向き逆っすよ」とニヤニヤしながら言うと「イイんだよ」と苦笑いで答えていた。

そうか、こいつショージって名前なんだ・・・とぼんやり考えていた。

ふと「手錠、向き有るんスカ?」と聞くと制服の警官がニコっと笑い丁寧に教えてくれた。

手錠は鍵穴が犯人の体側になるようにしなければならないらしい。つまり犯人の外側に鍵穴が有るとルパンよろしくヘアピンなど小さいもので開けられる恐れがあるので、必ず体側に鍵穴を向けなきゃならないらしい。それをショージは怠ったのだ。

その説明を聞き終わると同時に立て!の号令で4階まで連れて行かれた。

そうここは取調室だ・・・・



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