大震災
いくら消しても、通知はやってくる。既に38個。私の今いる地区も入っているようだ。
「震源予想地:横浜港沖120km」
120キロ?マグニチュード12?これはどのくらいの地震なのだろうか。地震など私の中では地理の時間に聞く程度のものである。想像もつかない。焦りと緊張が上限に達しつつある。
どこからか、サイレンのようなものが聞こえてくる。それは大きく反響して、人々の叫び声のようでもある。もしかしたら本当にそうなのかもしれない。
母に電話をしよう。私はぼんやりと見つめていたケータイの画面をいじりだした。通話履歴から母の電話番号を探す。もちろん一番上にあるその番号を押す。
しかし、一向に母は出ない。プープーという音が虚しく響く。ケータイを家においてきたのだろうか。まだ職場にいて、地震のことにも気づいていないのだろうか。母にもう一度電話をかけようとした。
しかし
ドドドドドドドドドド
大きな音が頭に響く。大きくて低い音。脳が締め付けられるような感覚がする。ずしりと重たいその音に本能的な恐怖を感じる。その音はだんだん大きく太くなる。
私はケータイをバックにしまい、さらに森の中を駆け上がり始めた。数年前に見た、東北大震災の古臭いビデオが頭に浮かぶ。
黒い流れに飲み込まれる人々。大きな船が大きな家を押し倒す。私は夢中で走った。今日ばかりは、無骨にはみ出した木々の枝枝が不快に思われた。
やがて、お墓の前につく。ここから上はもう無いと思うと、不安で仕方がなかった。大きな音はその大きさを更に増し、私を締め付けてくる。いつもはうるさい鳥達の声はもう聞こえない。少し前に避難訓練でやったようにかばんを上にしてうずくまる。
その時だった。足元がグラグラと揺れ、周りの木々が互いにやかましく音を立てだした。お墓の大きな石がガクガク叫びだし、バタリと木の葉を散らしながら倒れる。遠くからメキメキという音が聞こえる。
木が揺れで裂け、倒れた音に違いない。墓石は落ちたあともガタガタと言っている。私の近くの木々も、中で避けるような音を立てだした。私の周りで様々な音がごっちゃになってワンワンと頭に響く。緊張のせいか耳鳴りもしているようだ。今手が震えて動かないのは揺れのせいだろうか。
すると、急に揺れが止まった。人間は危機に瀕した時、頭がいつも異常に冴えるというが、この時はまさにそうだったのかもしれない。地学教師の腑抜けた声が思い浮かばれた。
「地震にはS波とP波があってですね。いわゆる、横波と縦波というやつですね。この2つはですね。早さが違うんです。S波が縦波。P波が横波ですね。で、縦波のほうが早い。つまり、S波の揺れが来て、チョットしてP波の揺れが遅れてまた来ちゃうんですね。そんなことだから、一度目の揺れのあと油断しちゃって死んじゃう人が多いんですね。みなさんも気をつけてくださいね。」
S波。P波。遅れてまたやってくる。私はうずくまた姿勢を崩さず、その場にとどまった。さっきよりも低い音がまた聞こえてくる。ギュッと目をつむって、次の波を待つ。次は横波で、さっきより大きい。そう思うとだんだん、頭の中で「死」が横切る。死ぬのか?
次の揺れが来た。周りの木々は悲鳴を上げる。さっきとは違い、上下に体を揺さぶっている。数秒おきに私の体が宙に舞っている。なるべく動かないように、足元の草を思いっきりつかむ。必死でつかむ。
ついに、木々の一つが限界を迎えたらしい。聞こえるはずの悲鳴も、他の音でほとんど聞き取れない。幸い木は私と逆方向に倒れた。しかし、他の木々もそう長くは持たない。また次の木が倒れていいく。今度はちょうど私の方に向かってきているらしい。さっきよりも亀裂の音が大きい。
私は更に力を込めて、体を丸めた。すると、サァっと冷たい何かが体を走る感覚がした。次の瞬間、体に全く力が入らなくなった。不思議な感覚。目の前の風景が何層にも重なって見えるかと思うと、急に何も見えなくなった。指が冷たい。頭が軽い。いつの間にか何も感じなくなっていた。何も。
第二話。順調に更新出来て嬉しい。意見等待ってます
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