私だけの場所
ここは私だけの場所。
立入禁止の赤いコーンとその間に生えたすすきをのけて、鬱蒼と茂った森に入る。うるさく喚く鳥の声。ずんずんと草木を分けて、少しだけ人工物の香りがする階段を登っていく。
だんだんあたりが暗くなり、湿っぽくなる。すぅっと息をすると、喉の奥が心地よくなる。木に絡まった木。草に絡まった草。まるで一日中夜であるかのような道を進むと、急に光が指す場所がある。そこが私だけの場所。
いつものように、横たわった大きな木に腰を掛け、かばんに入れた小説を取り出す。「陽はまた昇る」。アーネストヘミングウェイの小説だ。昔、父にもらったものらしい。母に渡された。三ヶ月前から読み進めているが、一向に進まない。少し読んでは、ボゥっとしてしまう。それを繰り返す。いつも本を読むときはそうなのだ。
また三ページくらい読んで、空を眺めていた。空には、半径五メートルほどの穴が開いている。今日は曇り。雨が降りだしてもおかしくない。傘を持ってきて良かった。そんなことを思いながら、また本に戻ろうとすると、バックから聞きなれない音が鳴った。
ピロロン、ピロロン、ピロロン
メールの着信音はこんな音だっただろうか。ノートの間をめくりながら、ケータイを探す。こういう時に限ってなかなか見つからない。やっとのことで、教科書とノートの間に見つけた。
ピロロン、ピロロン、ピロロン
聞きなれない音はまだなっている。そして、ケータイにも見慣れない通知がある。
「緊急地震速報」
これはなんだろうか。誰かのいたずらか?宛先を調べると、気象庁とある。
ピロロン、ピロロン、ピロロン
どうやら、立て続けにその通知は来ているようだ。既に十二個の通知が来ている。
「横浜特別行政区:津波の危険性あり。神奈川東:津波の危険性あり。神奈川西:津波の危険性あり。推定マグニチュード12.1」
「第一東京特別行政区:津波の危険性あり。第二東京特別行政区:津波の危険性あり。大三東京特別行政区:津波の危険性あり。推定マグニチュード12.0」
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