感染したコーシ
翌日の朝、コーシは不快な気怠さで目が覚めた。
頭と体が妙に重く、呼吸をするのでさえ億劫だ。
「まずい…やられた…」
昨日通り抜けた地上の湿地には、独特のウイルスがいる。
そこを通る者に即高熱をもたらすと有名な場所だ。
なるべくそこを避けながら通ったものの、まんまと感染したようだ。
「コーシ、まだ寝てるの?」
あまりにもコーシに起きる気配がないので、セーラはそっと顔を覗かせた。
「いや…、今起きる…」
なんとか体を起こそうとするがすぐに沈み込む。
セーラはすぐに異変に気づくと駆け寄った。
「コーシ!!すごい熱!!待ってて…誰か呼んでくる!!」
慌てて飛び出そうとしたが、コーシはその手を掴むと引き戻した。
「いい…。原因は分かってるから。これは、二日ですぐ引く熱だし、その後は、すぐに回復するから…」
ぜいぜいと喘ぎながら声を出す。
セーラは心配そうに頷くと、コーシを一つしかないベッドに横にさせた。
割れるような頭の痛みに堪え、べたつく汗に苛つく。
コーシは久々に出した熱に苦しみ、何度も寝返りをうった。
しばらくすると、ふと頭の痛みがましになる。
うっすら目を開けると、よく冷やされたタオルがかけられていた。
不思議に思いながらもぼんやりとしていると、今度は首元に温められたタオルが当てられた。
「あ、ごめんね。起こしちゃったかな。汗がすごかったから…」
セーラは手を引っ込めたが、コーシは目を閉じると荒い呼吸の中で言った。
「…気持ちいい」
セーラは目を見張ったが、少し安心した笑みを浮かべるとコーシの襟元に手を伸ばし、そのまま汗をぬぐい始めた。
セーラの手つきは慈愛に満ちていて、献身的な母親のようにコーシを看病した。
コーシはもちろん母親なんてものは知らないが、いたとしたらこんな感じなのかとぼやける頭でなんとなく思った。
熱が少し落ち着くと、セーラはすりおろしたおろしに蜂蜜ときめ細かい氷を混ぜ、コーシの口に運んだ。
喉が酷く痛むので何も口にしたくはなかったが、これは特に負担もなくするりと喉を通過した。
「…うまい…」
コーシがちゃんと食べてくれたので、セーラはほっとした。
「食べられそう?お水もレモン水にしたからちゃんと飲んでね?」
コーシの世話をするセーラは、充実感に溢れていた。
これが自分の本来の役目なのだ。
コーシが再び横になると、寝付くまでそっと髪をなで続ける。
愛しくて愛しくてたまらない。
「コーちゃん。ゆっくり眠ってね」
昨日の葛藤などころりと忘れ、すっかり母親モードのセーラは、動けないコーシにやりたい放題甘やかした。
翌日の朝、昨日よりだいぶ体が起こせるようになったコーシはなんとか自力でベッドから出た。
「…あのやろう…」
小さく悪態をついていると、洗濯物を手に持ったセーラが部屋に入ってきた。
「コーシ!起き上がって大丈夫!?お水なら持ってきてあげるから待っててね」
くるりと踵を返すと、コーシが何か言うよりも早く部屋を出ようとする。
「…っセーラ!」
なんとか声を出すと、返事の代わりに洗濯カゴが床に転がる音が響いた。
顔を上げると、セーラは膝から崩れ落ち床に手をついている。
「セーラ!?」
ふらつく体を引きずりながらセーラの元に寄ると、荒い呼吸が聞こえる。
「バカお前…、うつってんじゃねーか!!」
感染力の高さがこのウイルスの特徴だ。
コーシはセーラを抱えるとベッドに戻ろうと力を振り絞った。
だが流石にその途中で崩れ落ちる。
「やばい…。無理…」
そのまま二人で床に転がる。
コーシは玉の様な汗を浮かべるセーラを見て舌打ちした。
なんだかんだいってもセーラは生身の人間だ。
ウイルスが感染することも、なんら不思議ではない。
渾身の力で手を伸ばし、上掛けをベッドから引きずり下ろすと、コーシはそれをセーラにかぶせた。
「そうだよな。おまえは、俺と同じなんだ…」
小さくつぶやくとそのままコーシも意識を手放した。




