美しい少女
排水溝はすでにズルズルに詰まり、溢れた油は石の廊下へ流れていく。
コーシは少女の薄い服を剥ぎ取り頭の先から丹念に洗い流した。
拾いあげた時には止まっていた呼吸が、今では安定して聞こえてくる。
どうやら気を失ってから海に沈んだようで、口の中には油が入り込んだ形跡はない。
油が落ちれば落ちる程、コーシは微妙な顔つきになった。
露わになった少女の肌はきめ細やかで美しく、肩の下まで伸びた長い髪は淡い薄水色を取り戻している。
何より瞳を閉じていても際立つ愛らしくあどけない顔は、吸い寄せられる程瑞々しい。
加えて緊急事態であるとはいえ、自分も少女もほぼ丸裸だ。
「……なんだよ」
隣で大人しく伏せていた犬と目が合うと、コーシは悪態をついた。
「仕方ねぇだろうが。大体お前のせいだろがこのクソ犬」
比較的油被害の少なかった自分のシャツをすっぽりと少女にかぶせると、少し離れた綺麗な床に横にした。
「おら、お前の番だ」
素早く犬の首根っこを掴むとがしがしと乱暴に洗い始める。
犬はギャンギャン吠えて大暴れしたが、コーシは八つ当たりのように真水をぶっかけてやった。
大体洗い終えると、洗いざらしてまだ乾いていない自分の服を身につける。
少女が起きる気配はまだない。
ここは廃ビルの中とはいえ完全にシェルター外だ。
長時間放っておくと間違いなく汚染物質に体がやられる。
しばらくどうしたものか悩んでいたが、そうこうしているうちに酷い眠気に襲われた。
そういえば三日もろくに寝ていない。
考えることが億劫になり、一刻も早く自室で転がりたくなった。
「…後のことは後で考えりゃいいか」
コーシは朦朧とする意識を押しやり、気力で少女を抱き上げると慣れた道をフラフラと戻り始めた。




