トレッカの元へ
コーシの連れて来た少女の噂は、瞬く間にレイビーに広まった。
「上流階級のお嬢さんなんでしょ!?いやーんやっぱ禁断の恋!?」
「極上の美少女なんだろ?コーシさんて年上の方が付き合い多いのにまたえらく違う趣味連れて来たんすね」
「トレッカも大げさよね。見たこともない可憐さだなんて想像つかないわ」
「でもそういう女って、絶対高飛車というか性格良くないイメージだわ」
朝からざわざわと興味本位なざわめきで賑わう。
トレッカがつかつかと歩み寄るとパンパンと手をたたいた。
「ほらほら、必要以上に集まらないの。あ、来た。コーシ!!こっち!!」
トレッカが大きく手を振ると、全員の視線がその先に集まった。
コーシが近づくにつれて、ざわめきは静まり返る。
「トレッカ、頼む」
一言だけ言うと、コーシは後ろ手に引いていたセーラを前に出した。
ふわりと躍り出た少女は、全く物怖じせずにお辞儀をした。
「よろしくおねがいします!」
その笑顔は嫌味がなく、まるで春の光のように香しい。
まさに可憐という言葉がぴったりだった。
「皆待ってたよセーラ。ほら、挨拶しな」
「うん!」
トレッカに促されると、セーラは惜しみなくその魅力的な笑顔を振りまいた。
「セーラです。コーシのおんなです。よろしくお願いします!」
コーシは本気でこけそうになったが、腹筋に力を込めてなんとか堪えた。
トレッカは吹き出すとセーラの頭をぽんと叩いた。
「何を仕込まれたかは知らないけれど、心配せずにここにいな」
コーシは痛む頭を押さえながら好奇の目にひたすら耐える。
「今日は、夕方までには戻ると思う」
セーラの額を指でぴんと弾くと、くるりと背を向けさっさと歩き出した。
レイビーの者たちは、コーシが去るのを見届けると、沈黙を爆発的に破った。
「セーラちゃん、セーラちゃんはどこ出身なの!?」
「うわー綺麗なお肌ね!!赤ちゃんみたい!!」
「コーシとどうやって知り合ったの!?」
主に声をかけたのは少女たちだったが、そばにいた男たちは残らず耳を傾けている。
トレッカはセーラを後ろに隠すとじろりと周りを見渡した。
「この子はあたしが預かったんだ。皆、変なマネしたら容赦しないよ!!さぁ仕事に行った行った!!」
女も男も未練たらたらで文句を言いながらも動き始めた。
「セーラ、何かされたらすぐあたしに言いな。そんなヤツ捕まえてとっちめたげるから」
セーラは不思議そうに瞬いた。
「何をされたら、言ったらいいんですか?」
トレッカは面食らって思わず言葉を飲んだ。
セーラをまじまじと見つめると、一つため息をつく。
「とんだ箱入りだねこりゃ。昨日今日動きだした人形じゃあるまいし。いいかい、自分がされて嫌なことをしてくる奴がいれば、あたしに言うんだよ?それから、敬語なんてのもいらないよ。あたしは堅苦しいのは嫌いなんだ」
トレッカの言葉を一つ一つ受け入れ終わると、セーラはしっかり頷いた。
「…うん!わかった!」
セーラの素直さには好感が持てたので、トレッカはとりあえず色々教えながら皆に馴染ませていこうと考えた。