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Secret Force  作者: 日元ひかげ
ゴッドハンター
8/13

突入

 床が固い。

 ここはどこだ? くっ!

 手足を縛られ、床に転がされていた。目隠しもされている。頭が痛い。

 しかし源太郎はあえて騒がずにしていた。もしかしたらその方が利があるかもしれないからだ。

「おい、狸寝入りなんか止めろ」

 関谷の声だった。暗く、冷ややかなで、何の感情もこもっていない。

「なんだ、バレていたのか……」

 源太郎の視界が急に明るくなった。目隠しがはずされたのだ。辺りを見渡すと幾つもの段ボール箱が積み重なっている。どうやら、倉庫みたいだ。

「おい、優意はどこだ? 無事なんだろうな」

 食い掛かるように訊くと、関谷は初めて笑った。それでも、その笑い方は冷ややかで決して気持ちの良いものではなかった。

「安心しろ。生きている……今はな」

「くそっ! どこにいる?」

「そんなことを教えると思ったか?」

 関谷は冷ややかな表情を崩さずに続けた。

「まあ、まだ殺す気は無い。お前たちには役目が残っているのでな」

 関谷は立ち上がり、部屋から出ようとした。

「待て!」

 関谷は立ち止まった。そして振り返らずに尋ねた。

「何だ?」

「伽耶はどうした?」

「殺したよ。仲間に入ったなら、殺しはしなかった。……惜しい才能だったがな」

 本当に残念そうだった。少なくとも嘘を吐いているようには見えない。

「なら、あの電気小僧は? お前の差し金だろう?」

「ああ。お蔭で、だいぶ時間を稼ぐことができた」

 今度は関谷から尋ねてきた。

「覚えてないかもしれないが……あの時、なぜ俺を殺さなかったんだ?」

「あの時ぃ? んなこたぁ忘れたな。昔の俺に聞いてきてくれ」

 源太郎は嘘を吐いた。

 覚えてらぁ。何年経とうがな。

「んなことより、さっさとこの縄解きやがれ! このクソ野郎!」

「それはできない」

 最後の最後まで、関谷は表情を崩さずに部屋から出て行った。




 そう広いともいえず、かといって、狭いともいえない優意のリビングで理奈と祐一は朝食を()っていた。

 頭を打った祐一を見て心配した理奈が「ご飯はわたしが作ります」と言い、指を切ったり、軽い火傷をしたりと、かなりの天然っぷりを見せられた。

 堪えきれずに「俺が作るから」と言って、交代した。(なかなか代わってはくれなかったが渋々と)

 今考えてみれば優意が帰っていない。昨日からごたごたが続いたせいですっかり祐一の頭から抜けていた。

 そして朝食を終え、これから何をしようかと相談をしようとした時だった。

 プルルルッ、プルルルッ。

 電話だ。それも非通知だった。

 しばらく電話が鳴り響いた後、留守電になった。

『あー、祐一君、いるかな? 俺はよう、海斗ってんだ。今な、CSP本部を占領させてもらってる。お前の親父と妹は人質だ。いいな? 一人で来いよ! ブツッ』

「待て! おいっ、どういうことだ!」

 祐一は受話器を取ったが無駄だった。電話は切れてしまっていたのだから。

 ――あの親父が、人質?

 ありえないっ!

「あの、どうしたんですか?」

 理奈が心配そうに顔を覗きこんできた。

「顔が青いですよ。大丈夫ですか?」

 何を喋ったらいいのかすら思い浮かばなかった。それほどまでに唐突で、一瞬の出来事だったのだから。

「親父が……」

 掠れた声を絞り出したが、それだけしか言えなかった。

 祐一は無言のまま走り出した。彼を追おうと理奈が後ろに引っ付いてきた。

「来るな!」

 理奈は驚いて、足を止めた。目を白黒させている。

 祐一も驚いた。自分でもなぜ言ってしまったのか分からない。

「ごめん。……すぐに戻るから、ここで待っててくれるか?」

「……」

 理奈からの返事は無かった。ただ、一心に首を振り続けている。

 心の中で謝りながら祐一は理奈の首の裏側を軽く小突いた。「あっ」と声を上げて理奈はその場に倒れそうになった。それを祐一が両手で抱えると、ソファーの上に寝かせた。

「ごめん……」

 祐一はそれだけを言うと部屋を飛び出し、CSP本部に向かった。




 辿り着いたCSP本部、表向きにはただの株式会社だ。それなりの外見に、それに似合ったサラリーマンみたいな人が働いている。

 しかし、平日の真昼間(まっぴるま)だというのに人影は無かった。夏休みとうこともあるだろうが、この光景は異常である。

 祐一にはそれがありがたかった。被害(死人)が少なくて済むからだ。

 ガラス張りの立方体のビル(四階)の入り口の目の前。もう自分の姿は見つかっているだろう。

 構うものか!

 祐一は目を閉じて、大きく息を吸い、優意の部屋の中にあった武器を思い出した。それを手元に転送させた。

 目を開けると機関銃(いわゆるガトリング砲)が祐一の前に現れた。

 それを両手で抱え、撃ちまくった。

 着弾地点から砂煙が舞い、ガラスが割れる。無数の弾丸がビルに向かって飛んでいき、ガラスを割り地面を砕いた。

「ぐわっ!」

 人間の声だ。しかしその姿を見た祐一は安心した。迷彩服の軍服を着て、手には銃を握っていた。確実に一般人ではない。

 その男は腹から血を流し、二階から転落した。頭から落ちていったので絶命しているだろう。

 それにしてもおかしい。見張りがこれだけなんて。なぜ反撃してこない?

 機関銃を撃ち尽くした祐一はそれを投げ捨てると、手軽な拳銃デザートイーグルを優意の部屋から転送させた。一応、弾倉の予備も三つ転送させた。

 ロビーに入ると穴の開いた円柱の柱と床に飛び散った血痕が出迎えてくれた。

 油断せずに柱の影から影へと身を移し、少しずつ非常階段に近づいていった。

 非常階段の五、六メートル前まで寄ると、迷彩服の男たちが四人、死体となって積まれていた。

 反撃してこなかったのはもう死んでいたからか……俺の他にも誰かいるのか?

 階段から銃声がした。それも一発や二発ではない。

 まさか!

 祐一は階段に近づいてゆっくりと下を覗き込んだ。

 見た先では何人かのCSP隊員が何者かと応戦中だった。

 銃弾が手すりの金属部分に当たって火花を散らしている。

 祐一はすばやく階段を駆け下りて隊員たちと合流した。

「おお! 祐一君じゃないか!」

「田元さん? あっ! すいませんでした爆弾なんて使ったりして……」

「そんなことより総官は?」

「捕まりました……」

「そんなっ! あの隊長が……」

 その言葉を聞いた他の隊員たちも信じられないような顔でこちらを見ている。それぞれ「あの人が?」などと口にしている。

「祐一君。ここは俺たちに任せて、先に行ってくれ」

「え? でも」

「あんな奴らは、俺たちに任せておけばいいんだ」

 田元は頷いた。祐一もそれに合わせると、小さく礼を言って階段を下りていった。




 暗かった部屋に再び明かりが灯った。源太郎は目を細め、部屋に入ってきた関谷を見た。

「なんだ、俺を出す気になったか?」

「そんなことはない。さあ立て」

 源太郎は関谷に言われるがままに立ち上がった。

「お前の息子が来ているぞ」

「なんだとっ!」

 関谷は笑い声を立てた。

「ふふ……お前も知らない訳ではないだろう?」

「ああ、そうだなっ!」

 突然、源太郎はかがみ込んで、関谷に足払いを仕掛けた。

 関谷はそれを横に跳んでかわし、源太郎を突き飛ばした。そして胸倉を掴むと普段とは違う低い声音で言った。

「息子と会いたければおかしな真似はしないことだ。いいな?」

 源太郎は何も言わずに関谷を睨みつけた。

「おい、海斗(かいと)。こいつを連れて行け」

 関谷の後ろから茶髪で背の高い男が現れた。高いといっても源太郎よりは小さかった。せいぜい百八十センチくらいだろう。

 海斗が人差し指を無造作に上げると、源太郎の巨体がいとも簡単に持ち上がった。それも空中に浮かんでいる。

「おっちゃん。暴れんなよ」

「おい、関谷。こいつは洗脳していないのか?」

「なぜそう思うんだ?」

 答えたのは関谷ではなく海斗だった。

「喋り方さ。あの小僧は変な喋り方だったからな」

「なるほどな。うん、おっちゃんの言ってること当たってるぜ。にしてもすげー頭してんなぁ。それだけでよくそこまで分かるよなぁ」

 この海斗は二十五歳前後に見えるのに、まるで子供のような物言いだった。

「もういいだろう。さあ、そいつを連れて行け」

「あいよ」

 海斗は返事をすると、その場から歩き出した。源太郎はその後を引っ張られるように付いていった。

「海斗……だったか、お前はなぜこんな組織に入った?」

「お? そんなこと聞きてーのか? ま、いいか。俺はな何でもよかったんだ」

 海斗はそう言いながら歩き続けた。

「どういう意味だ?」

「変化を求めてたのさ! こんな力を持っていてもぶつけ所がねぇ! そんな退屈な毎日を変えてくれたのがあの人さ」

「『あの人』ってぇのは関谷か?」

「ああ、あの人に言われたよ。『お前を捕まえに来た』ってな。何か知らねーが危なっかしい臭いがしたね。俺は言った『そんな必要は無い。あんたについ

てくよ』ってよ。ま、そのおかげで俺がこうして力を使うことができるんだからな」

 源太郎はもう何も喋らなかった。

 まずいな。

 恐らく今の自分の顔は想像もつかないほどにすごい形相になっているだろう。

 それと同時に悔しがってもいた。息子たちをこんな危険に巻き込んでしまったのだから。

 無事でいろよ。祐一、優意……

 源太郎は願った。たとえ願っても結果は変わらない。そんなことは分かりきっていたが願わずにはいられなかった。

読み返すと、えう? こんなの書いたっけ? という状態に……睡魔って怖い。

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