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Secret Force  作者: 日元ひかげ
ゴッドハンター
5/13

雷球(らいきゅう)

 山勢は半壊した源太郎の家で、源太郎が帰ってくるのを待っていた。

 しかし、いくらなんでも遅くないだろうか? もう日が沈んでから四時間近く経っている。

 隣では田元と関谷が鼾を掻いて眠っている。あちこちに包帯やガーゼが巻きつけられているが、たいした怪我じゃない。

 もうヘリの修理も終わったし、あとは隊長の帰りを待つだけなのだ。

「はぁ……」

 何気なく吐いたため息は闇に吸い込まれた。前にも、こんなことがあったような……だが、もう記憶には残っていない。

 変な気分だ。思い出そうとすればするほど薄くなっていく。

 そんな時、後ろで何かが動く気配がした。

「誰だっ!」

 慌てて銃を構えた。そこには十歳くらいの少年が一人立っているだけだった。

 それにしてもよく目立つ。全身が白い服に包まれているからだろうか? 髪も白く、唯一色の付いている部分といえば瞳だけだった。

 だが、その瞳も虚ろで焦点が合っていない。それに何だか光っているような、薄い膜に包まれているようだった。

「おい、坊や。どうしたんだ? こんなとこで、迷子か?」

 その瞬間、山勢の背筋が凍りつきそうになった。

 少年は目の焦点を山勢に合わせて、物凄い剣幕で睨みつけた。しかも、よく見ると足が地面に着いておらず。浮いた状態になっている。

 山勢が驚き、眠っている二人を足で起こそうとしていると、少年は突然笑い出した。まるで本当に悪魔に取り憑かれたかのように……

「ヒャヒャ……ックク。……イヒヒヒ! ね、アソボ!」

「ん? ……なんだ?」

 田元が目を覚ました。すると同時に、少年の体が光り始め、白い光が体を覆ってゆく。

 田元は関谷を担いで叫んだ。

「逃げろ!」

 少年の体から発せられた白い光が少年の胸の前に集まり、光の粒が作られた。

 その粒が瞬く間に分裂を初め、数が増えていく。その分裂が止まった頃には光の粒が集まって球体を作り出した。

 山勢は逃げるのを止めた。いや、逃げられなかった。足が震える、能力者との実戦は初めてなのだ。

 その後、球体は回転を始めた。最初はゆっくりと、そして少しずつ速くなっていった。

「逃げろ!」

 再び田元が叫んだ。

 一瞬だった。球体を作っている光の粒が弾丸のように飛んできたのだ。

 山勢はその場を飛び退いて、それをかわした。幸いなことに、こっちは家の裏側なので待機させてあるヘリに被害が及ぶことはない。

「イヒヒヒッ!」

 少年は笑いながら光の粒を撃ち続けた。着弾地点からは小さな雷が地を()うように四方八方に散らばっている。

 田元達は家の中に飛び込んで光の粒から逃れた。

 光の粒の威力はあまりないが、弾数が多い。

 山勢も手持ちのグロック17で応戦しているが、まるで歯が立たない。それに加え敵の攻撃は少しずつ威力が上がってきている。回転速度に比例しているようだ。

「おい! 他にも武器はねーのか?」

 田元は山勢に聞いたが、返ってきたのは

「ヘリに置いてあります! 何なら取りに行きますか? ……そんなことより、あの少年は?」

「ああ、多分三年前に誘拐された『能力者』だろう」




 夜も更けて来たというのに、空が明るい。一体何なのだろうか?

 警察署から逃げ出した源太郎はその光を見ていた。薄く、球形の光、少しずつ大きくなってないか?

 確かこの方向は……俺の家の近くじゃねぇか!

 できるだけ速く、かつ静かに。銃声、ダンッ……と一発。

 これは……グロックだ! 山勢か!

 できるだけ白い光に近づいて、茂みから様子を見た。

 光の粒が集まった球体が回転して、その粒を遠心力で機関銃のように撃ちまくっている。源太郎にはまだ気付いていないのか、こちらには何の攻撃も来ない。

 まずは本部だ。本部に連絡しなければ。

 源太郎は一旦この場から引いてヘリに向かった。ヘリの中に入ると無線機を

掴み取った。

「こちら源太郎! 本部、応答せよ!」

『こちら本部、如何(いかが)なされました総官?』

 女性の声、オペレーターの伽耶(かや)だ。

「少し厄介な『能力者』だ! 今から手の空いてる奴を呼んでくれ。何人でもいい。できるだけ多く。頼んだぞ! 照明弾も用意してくれ。逃げられるかもしれないんでな」

『了解!』

 やる気の入った声だ。恐らく数分で何人かがこちらに着くだろう。それまで持ち堪えねば。

 源太郎はヘリの中に置いてあったMP5A5を二丁、手榴弾(M67)を一個持って外に出た。

 M67のピンをはずして光の球に投げつけた。途端に爆発が起き、砂埃が巻き起こった。その隙を突いて光球(こうきゅう)が攻撃していた塀の裏に回った。

 案の定、そこにはグロックを構えている山勢の姿があった。

「た、隊長! 今までどこに?」

「うるせぇ! んなことより、二人はどうした?」

「家の中に隠れています。二人とも丸腰なので、自分一人で応戦してました」

「そうか。で、二人はもう起きているのか?」

「ええ、さっきまでグッスリでしたが。今は起きてます」

 それを聞き終わると源太郎は裏口から家の中に入っていった。だが、その途中で、飛んできた光の粒が源太郎の足を貫いた。

 電撃が体中に走った。視界が白くなり、手は痙攣(けいれん)している。

「があっ!」

「隊長!」

 崩れ落ちそうになる(ひざ)を必死の気力で持ち堪えた。

「来るな! 山勢! まだ、歩ける……」

 源太郎は覚束無(おぼつかな)い足取りで、物陰に身を潜めた。

「おい、田元、関谷、居るか?」

 源太郎が座り込んでいる場所から少し後ろで田元が顔を出した。

「ここにいます」

「そうか」

 手に持っているMP5A5を一丁、田元に投げた。

「ほら、感謝しろよ。武器持って来てやったんだからな」

 笑って言ってはいるが、頼りない笑い方だった。

「隊長は休んでいてください」

「へっ! テメーらみたいなヒヨッコに言われたくねえよ」

 銃を構える田元に元気付けるように言った。

「気ぃ付けろよ。ありゃあ多分、電子だ。一発喰らっただけで、このザマさ」

「はい、忠告ありがとうございます」

 田元は銃を構えて、戦闘に加わった。タタタンッと軽い発砲音がして、光球を貫通し、向かい側の壁が崩れた。壁には銃弾の丸い痕が残っている。

「おいっ! 中に誰かいるのか?」

 源太郎に聞かれ、田元は焦ったように言う。

「はい! 確かに十歳くらいの少年が……でも変なんです。弾が当たってな

いみたいなんで……」

「だろうな……」

「どういうことですか!?」

「あれは抜け殻だ。恐らく本体はあれから抜け出して別の所から操ってんのさ」

 この言葉に田元は戦意消失したみたいだった。

「なら、どうすれば……」

「うろたえるな馬鹿っ! まずはこの近辺の住民の避難が先だ! 今は俺の家の庭だけで納まっているからいいものの、外の町に出てみろ。何千という市民が暮らしているんだぞ!」

「了解しました!」

 田元は敬礼すると、玄関から出て行った。

 二十九歳という若さでよくやってきたと思う。他の者もそれくらいの若さだが、彼はその中でもかなり優秀だ。若さで源太郎が自分のことを棚に上げているのは言うまでもない。

「さてと、俺も戦うかな……」

 MP5A5を杖代わりに立ち上がり、庭の方を見る。まだ中身が空と気付いていない山勢は、勇敢にも一人で応戦していた。

「山勢、無駄撃ちは止めろ! その中身はもうどっかに行っちまった」

「では、一体どこに?」

「さぁな、照明弾でも使ったら分かるが。ま、仲間が来るまで慌てず待て」

 ちょうどその頃から上空でヘリ(Ka‐50)二機のエンジン音がしていた。


『こちら本部、アサルト5(ファイブ)、アサルト3(スリー)、聞こえますか?』

『こちらアサルト5。目標を視認(しにん)! これより攻撃を開始する』

『その前にアサルト5は照明弾を、アサルト3は援護をお願いします』

『こちらアサルト3、了解した』

『了解! 照明弾、発射!』

 ヘリから放たれた照明弾は夜空を明るく照らした。その星空の中に少年が一人、浮かんでいた。

『目標を発見! 市民の避難報告は聞いてないぞ』

『田元隊員が誘導済みです』

『了解! これより目標への攻撃を始める』




 ジャジャン♪ デケデケデン、とんとん♪ タッ♪

 湯気の立ち込める洗面所で優意はバスタオルで体を包み、鳴り響く携帯電話に出た。

「はぁい、もしもし。優意でぇす」

『伽耶よ。至急エリアB、三二二番地に向かってください』

「それって、仕事ですか? しかも三二二ってあたしの家の近くじゃ……」

『そうよ。あなたの家の庭が戦場になってるわ』

感情のこもっていない声。命令を出す人には打って付けってわけね。

「どんな内容?」

『敵は『能力者』一人ですが、強力な力を持ってます。外見は十前後の少年。恐らく電気を操る能力です』

「そんな奴を倒しに行かせたいの? お風呂上りたてのあたしにもう一度『汗を掻け』って言っているようなもんじゃない」

『では、健闘を祈ります』

「ねえ、聞いてんの? ……ったく、人の話を聞かないから結婚できないのよ。あのおばさん」

『何か言いましたか?』

 少しだけだが、怒りが込められたような声だった。

「あ、まだ切ってなかったんだ……ま、とりあえず現場には向かいまぁす」

 慌てて電話を切った。

 そしてクローゼットから真っ黒な戦闘服を取り出した。

「うへぇ、埃っぽい……」

 優意は埃を払うとそれを着た。ピッタリと肌に密着するアンダーシャツのような防具、これはこれでとてつもなく頑丈なのである。

 この服に戦闘機が突っ込んでも傷一つ付かないとか。だが、それは着ている人間は無事では済まないだろう。いくら服が丈夫だからといって、衝撃が伝わらないわけではない。

 その点を全てクリアしたのが優意だった。なぜなら、彼女は類希なる体の造りを持っており、人体をサイボーグ化させる実験に許可が下りたのだ。その実験に成功した優意は『能力者』を除いて人類最強の力を手に入れたといえる。

 優意こそ対能力者の最終手段ということだ。つまり、かなり危険な『能力者』が現れたということになる。

 着替えを終えた優意は、壁の向こうにいる祐一達に言った。

「あたしはもうお風呂でたから、後はよろしく~。ちょっと出かけてくるね」

「分かった」

 その返事が聞こえた途端に優意は玄関の扉を開け、三階の高さから飛び降り夜の闇へと姿を消した。

戦闘を楽しんでくだしあ。

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