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Secret Force  作者: 日元ひかげ
ゴッドハンター
11/13

対面

 祐一は泣いていた。両手で頭を抑え、地面に蹲っていた。

 拳を固く握り、何度も地面を殴った。指には血が滲んだ。

「俺は……」

 ――くそっ、くそっ、くそぉっ!

 手が痛い。体が熱い。胸が苦しいっ!

「俺は……家族一人守れないなんて!」

 再び地面を殴った。手が震えている。

「うあ……ああぁぁ!」

 祐一は怒りにまかせて腕を振り上げた。

「もうやめてください!」

 振り上げた手を柔らかい何かにそっとやさしく包み込まれた。

 ……り……な……?

 祐一が振り向くと理奈が立っていた。顔をぐしゃぐしゃにして、今にも泣きだしそうだった。

 なんでここにいるんだよ? なんで……そんなに泣きそうなんだよ。

「俺に、近づかないでくれ」

 理奈は首を振った。

「俺に、近づくな」

 まだ首を振っている。

「俺は……最低な奴なんだ! 化け物なんだ!」

「違います!」

 こんなに細くてか弱そうな女の子から発せられたとは思えないほど鋭い声だった。

 理奈は泣いた。これまでに溜まっていたものが一気に爆発したのだろう。

「えっ?」

 理奈が祐一に接近する。そして理奈は祐一の耳元に囁きかけた。

「……祐一さんは、祐一さんじゃないですか……」

 数秒して、理奈の顔がゆっくりと遠のいていった。

 涙が止まっていた。もう枯れてしまったのか、出なくなったのか……それは分からなかった。

 それに、祐一を取り巻いていた感情が嘘のように消えていた。

「……ありがとう」

 祐一は素直に礼を言った。顔が熱い。

 照れてるんだろうな、俺。

「あ、いえ……」

 理奈の顔が赤い。普段なら色白の肌なのでそれがよく分かる。

「さあ、行こうか」

 ごめん親父。あとで、絶対帰ってくるから。絶対優意を助けるから。

 祐一は心の中で源太郎に謝り、立ち上がった。

 後ろにはもう離れまいと理奈が立っている。

 さらにその後ろに髪の白い少年がいる。……ってあれ?

「誰だお前?」

「え? 気づいてなかったんですか?」

 理奈の驚いたような声。少年はにっこり笑って口を開いた。

「僕は祐樹。お兄ちゃんは?」

「ん、ああ。俺は祐一だ……じゃない! だから何なんだお前はっ」

 そこに理奈が割り込んできた。

「あの、ええと……祐樹君にはここまで案内してもらって……それで」

「そうか。で、『能力者』か」

「すごいね。その通りだよ!」

 祐樹は感心したように言った。

「なあに、ただの『勘』さ……」

 祐樹はそれに対し、ただ「へぇ」と言っただけだった。

「そんなことより、早くこの部屋を出よう」

「出よう」と言ったのは、祐一は死体が転がっている部屋に、理奈を長居させたくなかったからだ。

「ちょっと待って。この部屋で作戦立ててこうよ」

 祐樹は祐一の心遣いを見事なまでに打ち砕いた。祐一はそんな祐樹の肩に手をまわした。そして少し理奈と距離をとった。

「あのなぁ、祐樹。お前は理奈をこんな部屋に長く居させる気か?」

 祐樹の耳元で囁いた。祐樹はそれを聞いて納得したようだった。

「分かった! じゃあ、外で歩きながらだね」


 祐一たちはホールの外に出た。直線の長い廊下、それが右と左、両方に伸びている。あまりにも長くて途中から先が見えない。

「どっちに行く?」

 祐一は後ろにいる二人に聞いたが、返事は返ってこなかった。

「ねえこれ、地図みたいだね」

 祐樹の言った方向を見た。ご丁寧に全体の見取り図が描いてあった。

「よし。じゃあ祐樹と理奈は右に、俺は左に行く」

「あのさ、お兄ちゃん。作戦の立て方って知ってる?」

 人を馬鹿にしたような目と口調だった。

「ああ、知っているとも」……そう言ってやりたかったが、そんな場合ではない。

 何か、嫌な予感がする。予感というよりも本能かもしれない。人間が本来持っている直感とか何とか……。

「悪いけど、俺が一人で左に行くよ。その間に二人は右に行って優意を助けて来てくれ」

 ただの勘だけど、多分こっちに組織のリーダーがいる。

「頼んだ!」

 祐一は走った。返事も待たず、振り返りもせずに。これ以上理奈を危険な目にあわせるわけにはいかない。もし、リーダーがいなかったら、全力で戻るだけだ。

 祐樹と理奈はそんな祐一の背をただ見守っていた。




 壁には幾つものモニターがある。その一つに目的の少年が移っている。ここに、この場所に向かって走っている。

「ついに来るか……」

 関谷はその画面を見ながら独り言を漏らした。瞳には画面の光が映って燃え盛る炎のように揺らめいている。

 部屋の真ん中の席に座っている。元々ここは伽耶が座っていた場所だ。だが、彼女はもうこの世界にいない。死んでしまったのだから。

 関谷は短くため息を漏らした。

 ――そうだ。失敗は許されない。この日のために俺は生きてきたのだ。

 関谷は立ち上がると、自分が座っていた椅子に掛けてある背広の黒いコートを纏った。特注のそれは関谷の肩にぴったりだった。

 やはりこれはいい。気分が落ち着く。

 関谷はこれまでになかった高揚感を感じていた。それを落ち着かせるためのコートだ。

 しばらくすると、次第に気分が落ち着き、いつものように無表情になった。

 何も考えるな。

 心の中から少しずつ『声』が消えていった。

 関谷は鈍く光る目をモニターに映る少年に向けた。

 その時、関谷は自分の口元に笑みが浮かんでいるのに気づかなかった。




 理奈は怒っていた。

 なぜこんなにも祐一は自分を置いて行くのだろうか? そのことで頭の中はいっぱいだった。

 確かに自分が付いて行ったところでただの足手まといになるかもしれない。それでも、連れて行って欲しかった。少しでも力になりたかった。

「……ちゃん。……お姉ちゃん」

「あっ、何ですか?」

 祐樹の言葉にはっとした。

 理奈たちは祐一に言われた通りに右に曲がったのだ。今丁度、曲がり角に突き当たるところだった。

「お姉ちゃん。そこ、曲がらないでね」

「え?」

 祐樹は理奈を見て人差し指を口に当てた。そのまま曲がり角を曲がらずに壁に背中を張り付けた。理奈もそれに倣って祐樹の隣に立った。

 数秒すると男たちの話し声が聞こえてきた。どうやら二人組らしい。

 祐樹を見ると掌を開いて上に向けている。すると小さな光の粒が掌の上に浮かんだ。それは少しずつ大きくなりゴルフボールくらいになると掌から離れて声のする方に飛んでいった。

 光球が男の胸に入り込むと、その男は悲鳴を上げ、倒れた。もう片方の男も先ほどと同じようにして倒れた。

 もうピクリとも動いていない。死んでしまったのだろうか? その気持ちを察した祐樹が安心させるようにニッコリ笑って言った。

「大丈夫だよ、死んでないって」

 本当に生きているのだろうか? それほど不安にさせる叫び声だったのだから。

「う、あぁ……」

 ほんの少しだが、男から呻き声が聞こえた。

「ね? 言ったでしょ?」

「は、はい」

「そんなことより、早く優意お姉ちゃんを助けに行くよっ!」

 祐樹は走りだした。理奈もその後を追って行く。

 祐一さんは自分勝手ですっ!

 理奈は心の中で少しの憤りを感じていた。




 祐一は走っていた。ただ真っ直ぐに伸びている廊下を走り抜け、突き当たりに下に伸びている階段を駆け下り、一気に地下四階に辿り着いた。

 エレベーターを使えば早かったんだけどな……

 だが、そういうわけにもいかなかった。祐一は源太郎に幼い頃に戦い方、罠の作り方などの知識を有り余るほど教えられていたのだ。

 パソコン一台でエレベーターを動かせる時代なので。機械よりも人力の方が安全、安心ということだ。

 ようやく廊下も終わりが見えてきた。大きな扉が行く手を阻んでいる。その前に立つと、自然と音もなく扉が開いた。それはまるで自分に「入って来い」と言わんばかりである。

 祐一は一応、銃を構えた。

「入って来い」

 本当に声がした。少し驚いていたが、扉の奥から声がしたのだと後になって分かった。

 中を見ると男が一人立っていた。

 その男は真っ直ぐに祐一を睨むと「ついてこい」とだけ感情の籠っていない声で言って、身を(ひるがえ)した。疑いながらついて行き、扉を抜けると、急扉が閉まった。

 閉じ込められた?

 扉を叩くが、ピクリともしなかった。

「何をしている? こっちだ」

 男が不機嫌そうに後ろを向く。祐一は仕方なくそれに従った。

 祐一の入った部屋は何かの研究室のようだった。壁にはよく分からないメーターや、グラフを映したモニターなどがひしめき合っていた。

 扉の正面の壁に一部だけ抜けている所があった。階段のようだ。

 階段を下りると、さらにもう一人の男がモニタールームのような部屋の真ん中に立っていた。

 コイツ、どこかで見たような……

 祐一がそんなことを考えていると、部屋にいる男、関谷が言った。

「また会ったな、祐一。お前はもう下がっていいぞ」

 すると祐一の前にいた男が頭を下げ、もと来た階段を上って行った。

「お前、俺と会ったことあんのか?」

 祐一は階段を男が上りきるのを見届けると、話し始めた。

「二日前に一度。……だが、そんなことはどうでもいい。今は祐一、お前と話がしたくてな」

「何の話だ?」

「五年前の真実を語ろう」

 そういった関谷の顔は無表情で、声にはもちろん何の感情も表わされていなかった。

ついにラスボスと……次回、真実!


「ゆ」から始まる名前のキャラ多いよね。べつに「ゆ」って字が好きなわけではないんだが、こうなってしまいました。

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