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Secret Force  作者: 日元ひかげ
ゴッドハンター
10/13

勝利を得る者

 海斗は驚愕した。

 祐一が起き上がっている。目に光など宿っておらず、死人のような目だ。

 ――バカなっ! あり得ない!

 背中をいやな汗が伝っていくのが分かる。

 しかし、口元の笑みは消えなかった。

「いいぜ。そうこなくっちゃあな。これからがお楽しみってもんだ!」

 海斗は『力』を込めて、立ち上がって間もない祐一を壁まで弾き飛ばした。

 壁に当たると、祐一の体は霧のように消えてしまった。

 さすがの海斗も驚きを隠せなかった。

「何だと?」

「お前――」

 背筋が凍りつくような低い声。背後に気配を感じ、振り返ったが、誰もいなかった。

 いきなり目の前に足が出現した。あまりにも突然だったので、海斗は避け切れなかった。

「――死ねよ」

 頭に蹴りを喰らった。地面で何度かバウンドし、数十メートル吹っ飛ぶ。

「ウソ……だろ?」

 血の塊を口から吐き出した。視界が少しぼやけている。

 飛び起きて辺りを見渡すが、誰もいない。視覚ではそうだが、何者かの気配は感じる。

 この部屋の中に確実に存在するのだ。

 背後で物音がした。海斗はそこに意識を向けた。

 やはり何も見えないが、足音は聞こえる。海斗は『力』を使い、『見えない敵』を吹っ飛ばした。確かな感触があった。

 壁に何かがぶつかったような音がした。その音の中心で祐一が壁から姿を現した。

 よしっ! 視覚しかごまかせないのか?

 海斗に笑みが戻った。

「おいおい、どーしたよ? これで終わりか?」

 その言葉に反応したように祐一は身体を起こした。フラフラと、揺れ動きながら歩いている。

 海斗が目を瞬いた。視界の隅が暗くなっている。目を擦っても、それは取れなかった。それどころか、徐々に広がってきている。

「なんだこりゃあ? どうなってんだ!」

 やがて海斗の視界は黒一色になった。どこを見ても、何を見ても黒。ただそれだけの世界だった。

 祐一はゆっくりとこちらに向かってきている。見えないが、それは分かる。あまりにも強大な、人間離れした力の波動が津波のように海斗に押し寄せた。

 ――恐怖!

 あまり鮮明な記憶がない幼少期を除けば、これが海斗にとって初めての恐怖だったかもしれない。

 迫り来る得体の知れない化け物。

 海斗の口元には、もう笑っていた痕跡すら見えない。知らず知らずの内に後退りをしていた。その途中で小さな亀裂に(つまず)いて転んだ。

「チキショウ! 化け物め!」

 一瞬だったが、祐一の動きが止まった。だが、海斗にはそれは見えない。

「くそっ! 死んでたまるかよ!」

 海斗は所構わず『力』をぶつけた。『力』は地面を抉り、クレーターのような跡を残した。しかし、祐一の足音は止まなかった。

 ついに祐一は海斗が倒れている前まで来た。足音が止まったのだ。

 頬に汗を感じる。

 ――こんな奴に……俺が……

 乾いた銃声がして、海斗の意識は途絶えた。




 祐一は正気に戻った。手に持った銃口からは硝煙が立ち上っている。

 目の前に転がる死体、眉間に穴が開いている。完全に死んでいるだろう。

「俺は。俺は……俺がっ!」

 海斗が最後に言った言葉。それが祐一を正気に戻した。


 ――化け物め!

 祐一は銃を構えていた。真っ直ぐに海斗の頭を狙って。そして、引き金に指を掛け……撃った。


 そうだ。俺が殺したんだ。

 その感覚が蘇った。

 未だに頭の中は真っ白だった。

 手から銃が滑り落ちた。

 ――ガシャンッ

 祐一は目を閉じた。(まぶた)の裏にこれまでの出来事が走馬灯のように一気に駆け巡った。

 頬を何かが伝った。それを触ってみる。指先が濡れた。

 涙だ。

 祐一は地面に膝をついた。涙が止まらなかった、止められなかった。

 幾つもの水滴が地面を濡らし、黒い染みを作っていく。

 ――親父……

 あの時の光景が蘇った。ゆっくりと、本当にスローモーションを見ているみたいに倒れた源太郎。

「俺は……無力じゃないか!」

 祐一は叫んだ。何度も、何度も。ぶつけ所のない悲しみ。それが祐一を覆っ

ていった。




 理奈は横に老人を連れて歩いていた。道の至る所に黒く焦げた跡がある。それに加え、道を挟んでいる両脇の住宅の屋根に穴ができていた。

 爆発して、燃えた物がここまで飛んできたとか。

 理奈は「なんだか目的地に近づくほど焦げた跡が多くなっているような……」と、至極あたりまえのことを考えていた。

 老人はニコニコしながら歩いている。そんなに楽しいのだろうか?

「ほれ、着いたぞ」

 老人が指を向けた方を見ると、その道の先が黄色い『立ち入り禁止』と書かれたテープに雁字搦(がんじがら)めにされている。その先の様子は見えなかった。

 その黄色いテープの壁の前には理奈を捕まえようとしたCSPの隊員と同じ格好をした男が立っていた。自分と会ったことはないが、怖かった。

「あの、すいません。ここで何があったんですか?」

 理奈は勇気を出してその男に聞いた。

「え? ガス漏れだけだけど……」

 幸い、男は理奈のことを知らないみたいだ。

「あの、じゃあ、祐一さんを知っていますか?」

「祐一君?」

 男は声を潜めた。

「総官の息子さんの知り合い?」

「はい」

 男は頷くと、他の隊員を呼んだ。

「おい、ここの見張りを頼む」

「はっ」

 男は手招きしてテープの中に入った。

 理奈はそこに入る前に老人に振り返った。

「おじいさん、ありがとうございました」

 老人は笑っていた。

「いや、礼を言うのはこっちじゃわい。本当に孫ができたみたいで嬉しかった。ありがとう」

 老人はそう言って後ろを向き、帰って行った。

 テープを抜けるとその先には祐一の家があった。家を囲んでいた塀は所々に穴が開いていた。男は理奈が入ったところのすぐ横に立っていた。

「で、祐一君がどこにいるかだったね?」

「はい」

 男は顔をしかめた。

「すまないが、俺も知らないんだ」

「そう……ですか。じゃあ、ここで何があったんですか?」

 男は腕を組んだ。話そうかと迷っているのだ。

「お願いします」

 男はため息を吐いた。

「この話は内密に頼むよ」

 そして昨晩の、電気少年との戦いのことを話し始めた。




 病院の一室で田元たちを襲った少年は眠っていた。することもなく、何かをしようともいう気になれないので眠っていた。

 いや、眠ろうとしていた、と、言うべきだろう。実際は眠れずにいた。

 それというのも外が騒がしいせいだ。

 『赤い光を回転させている白い車』や、その中から出てくる『ベッドに寝かせられたままの黒い服の人』が大勢いるからだ。

 おかげで少年は眠れなかった。そこに、再び先生が来た。

「調子はどうだい?」

「よくない!」

 自分は怒っているのに先生は笑った。

「ははは、いいみたいだね!」

 この先生は頭がおかしいのだろうか?

「よくないっ!」

 もう一度言ってやった。

「うんうん。それだけの返事ができるってことは、元気があるってことだ」

 先生は一人で頷いた。

「それでね、坊や。君に会いたがっている、理奈っていう女の子がいるんだけど……どうだい?」

 この先生と話し相手が代わるのなら誰でもよかった。

「いいよ」

 少年がそう言うと先生は部屋から出て行った。そこに入れ替わるように女の子が入ってきた。女の子と言うにはもう遅いだろうか? 少女と言うべきだろう。

「何かな?」

 理奈は戸惑っていた。首を揺れ動かすたびに長い髪が揺れた。

「ええと……あなたが昨日の……」

「そうだよ」

「あの、祐一さんの居場所、知りませんか?」

 少年は呆気にとられた。

 ゆういちって誰?

「ゆういち?」

「知らないんですか?」

「……うん」

「じゃあ、優意さんは?」

 あれ? この名前……どこかで……

 少年の頭の中に映像が飛び込んできた。




 ――二年前……

 少年は腕に点滴の針を刺されて、ベッドに寝かされていた。その横に白衣を纏った男が二人立っていた。

「被検体A‐3番の様子はどうだ?」

「はい。能力強化剤を打ち込んでも変化なし。うまく適合したかと……今は眠っています」

「うむ。そちらはどうだ?」

「B‐8番はショックで死亡しました」

「やはり、強化剤はAのグループのみにした方がいいな……よし。お前はこのことを報告して来い」

「はっ」

 片方の男は敬礼してその場から立ち去った。

「おや? 起きたのかA‐3番。よし、いい子だ。もう一度眠りなさい」

 男に言われた通りに少年は目を閉じて眠った。


 少年が目を開けるとそこは病室だった。

 広い一部屋に四台のベッドがあった。そのうちの一台に女の子が座っていた。少年の隣りのベッドである。

「ねぇ、君、名前は?」

 好奇心に充ち溢れた目だった。女の子は少年の顔を覗き込むと明るく笑った。

「名前? ぼく……名前なんて無いよ」

 女の子は黙った。首を傾げている。

「……え? 無いの? 名前」

「うん」

 すると女の子はニッと笑った。

「じゃあ、あたしが付けてあげる!」

 今度は少年が黙ってしまった。

「いや、かな?」

 不安そうに女の子が聞いた。

「ううん。いやじゃないよ」

 その言葉を聞いた女の子の顔が一気に明るくなった。

「それなら、祐樹(ゆうき)! ね? これはどう? お兄ちゃんの字使ってるけど……」

「祐樹かぁ……うん! いいと思う」

 少年は初めて笑った。

「お姉ちゃんは?」

「あたし? あたしの名前はねぇ、優意って言うの。よろしくね、祐樹!」

 数週間の間、CSP内の病室で優意と祐樹は一時(ひととき)を過ごした。




 少年、祐樹は全てを思い出した。

「……お姉ちゃん」

 自然と口が動いた。

「行かなくちゃ……」

「あの……どこにですか?」

 理奈が訊ねた。祐樹はそれを無視して言った。

「僕の名前は祐樹。お姉ちゃんは?」

「わたしは、理奈って言います」

「ついて来て」

「どこに……行くんですか?」

「優意お姉ちゃんのところだよ」

 ベッドから起き上がり、腕に絡みついたチューブを抜き取った。警報器が鳴った。祐樹はそれに手を置いて電撃を放った。警報は止み、誤作動だと思わせられるだろう。

 祐樹と理奈は部屋を出た。そして優意と初めて会ったCSP本部に向かう。そこに優意がいる。

 祐樹は歩き始めた。場所なら分かっている。あとは前に向かって進むだけだ。

ウォォオオオオオオオオ!

クライマックスまで走り抜ける!

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