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17 少女の災いは増幅するか

 週末に豪華な料理を堪能した私の胃袋だったが、週明けの月曜の朝は消化不良のようで、しくしく痛みと最悪な気分で始まる。


 「うっうう……、学校行きたくないよ」


 いつも以上に自転車のペダルが重く感じる。

 美紅に相談して少し気は楽になったけど、行動の読めない会長だから不安が尽きない。もし手を講じる前に、あの会長が接触すれば私がイチゴだと女生徒にばれる。そうなれば地獄の青春ライフが待っていた。

 もしかすると、この周辺の女子高生達を敵に回すかもしれないのだ。

 そして学校に行きたくない気持ちとは裏腹に漕ぎ続け、とうとう地獄坂に来てしまった。


 真面目な自分が恨めしいぜ~~~



 自転車から下り立つと山頂にそびえ立つ学校を見上げる。


 ――今日はやけにかすんで見えるな? あっ、自分の涙か……


 「はぁ……」思わずため息をつくと、背後から声を掛けられる。


 「瑠璃ちゃん、お早う」

 「あっ、珠ちゃんおはようー。登校中に会うのは初めてだよね」

 「そうだね。一緒に行こう」


 ニコニコと言われて心が和む。


 「うん」


 珠ちゃんが横に来てくれたお蔭で、少しテンションが上がる。私は自転車を押しながら一緒に歩き始めた。


 「立ち止まって何してたの?」

 「ふっ…、この世の無常を憂えてたのさ」

 「なんか大変なんだね」

 

 一人で毎朝登る坂道も、友達と話ながらだとすんなりと登れるから不思議だ。そのお蔭か学校の校門まではあっという間だったがあるモノを見て一気に血の気が引いた。


 げっ! 何故あの男が居るんだ。

 

 校門の前に女子生徒に囲まれた生徒会長が苦虫を噛み潰したような顔で立っていた。


 「会長様がいるけど瑠璃ちゃんどうするの?」

 「えっ!? 何の事」

 「私、イチゴの正体知ってるよ」

 「えっえ~~~」

 「取り敢えず隠れよう」


 私が戸惑っていると、珠ちゃんに腕を引っ張られて、校門から見えない位置に移動してからすぐさま訊く。


 「イチゴって誰の事を言ってるのかな?」


 ドキドキしながら訊く。もし珠ちゃんが会長のファンクラブの一員かも知れないと緊張してしまう。ばれたら折角できた友だちを失いそうだよ~~。


 「瑠璃ちゃんでしょ」

 「ひ、人違いだよ~~」


 誤魔化すかしかない。


 「安心して、私はファンクラブの会員じゃないもの。会長様は憧れてるけど、妄想のネタ的にだから」


 メガネの奥にある円らな目には嘘が無かった。それよりも珠ちゃんが腐女子だと知っていたので信用できる気がした。

 思い起こせば、中学時代のコアな腐女子友人Aの思考もそうだった。

 恋愛的対象より、周囲の男たちを萌えの餌食にするのを何度も見て来た経験があったから、大丈夫だと思えた。


 「そ、そうなんだ。 良かったー。でもなんで分かっちゃったの?」

 「お昼に会長様が来た後に美紅がそれとなく」

 「美紅め、それなら昨日言っておいて欲しかった」

 「それよりどうやって門を通るの。あの前を通ったら大変だよ」


 珠ちゃんの言うとおりだ。私は少し考えて正面突破を諦めて横から侵入する事にする。


 「仕方ないから、横にそれてフェンスを越えるよ。だから自転車をお願いしていいかな」

 「うん。いいよ」


 自転車を快く引き受けてくれた珠ちゃんに預けて、私は青葉の茂る桜の木の奥に入る。下草が結構生えていて歩き難かったがずんずんと進み、気分はすっかり山登り。そして学校の敷地を取り囲む高さ1メートル程のフェンスに辿り着く。人気のない校舎横で、1年の玄関も近かった。


 「何が悲しくて、乙女がフェンスを越えなきゃなんないのよ! 」


 文句を言いながらフェンスを跨ぎ、飛び降りようとしたが長い足が引っ掛ってしまう。


 「ぎゃーーーっ!!」


 そしてドスンと顔から真っ逆さまに落ちてしまった。

 幸いかどうか知らないが柔らかな土の上で衝撃は抑えられた。でも地味に顔面が痛くてその場でうずくまる。


 「そこの破廉恥な女子生徒。フェンスを飛び越えて登校するのは校則違反だ。生徒手帳を出せ」

 「!?」

 

 突然、男の声で顔を上げるとメガネを掛けた男が私を見下ろしていた。


 「パンツが丸見えだ馬鹿者」

 「えっえーー!?」


 顔を振り向かせるとお尻が丸見えになっていた。そして白地にサクランボのプリント柄のパンツが露わになっている。


 「げっ!」


 私は急いで飛び跳ねて、捲れ上がっていたスカートを直しながら、死にたくなる。


 ――よりによって、なんで2回もパンツを見られるの? せめてお洒落なパンティーの時にしてくれ~~~(持ってないけど……)


 「氏名と学年、クラスを言え。それと生徒手帳」


 問答無用な口調で言って来る男を恐る恐る見ると、目の前にはメガネを指でブリッジしているインテリ系イケメンの副生徒会長が立っていた。


 なんでこんな所にいるのよ!

 絶対に悪い展開だ!

 ラブコメなら出会いのイベント発生なんだろうけど、私の場合は更なる災厄の種だよ~~。


 「おい、聞いてるのか?」


 相手の苛立った声を聞き、ハッとする。


 「すみません。事情がありまして見逃してください。もう2度としませんから……」


 泥だらけの顔に涙を浮かべ訴える。この際、女の武器である涙を使ってみる。


 「泣いて許されると思うな女。その下心が顔から透けて見えるぞ」

 「えっ、うそ」


 私は顔を両手でペタペタと触るが、泥が付くだけだった。


 「お前……」


 副会長は蔑んだ眼差しで私を見下す。


 「ぷっ……、うふふふっふー。 翔也さん、それぐらいにしてあげて。瑠璃は私の大事な相方なんだから」


 何故か美紅が現れる。


 「美紅??」


 「美紅、お前も少しは友人を選んだ方がいいんじゃないのか」

 「あら? あのKYな男を生徒会長に押した翔也さんに言われたくないわ」

 「ぐっ…、煩い」


 どうやら痛いところをつかれたようだ。

 そして、美紅と副会長が従兄だったのを思い出す。

 こうやって並んでみれば、確かに賢そうな顔と腹黒さが良く似ていると納得した。


 「大丈夫、瑠璃。顔が泥だらけじゃない。これで拭いて」


 美紅が優しくハンカチを差し出してくれるので受け取って遠慮なく顔を拭く。しかし疑問も湧いてくる。


 「なんで二人揃っているの??」


 あまりにもタイミングが良すぎて思わず訊いてみる。


 「昨晩、携帯で瑠璃の事を相談したら、本人とも会いたいって言うからココで待ってたの」

 「なんでココ?」

 「門には会長が立っているし、瑠璃ならこの辺から入って来るだろうって当たりを付けたの。私の言った通りだったでしょ翔也さん」

 「フン。偶然だ」

 「違うわ。私はこれまでの瑠璃の行動を自分なりに分析した結果よ」

 

 何だそれ……。 魔王だよ~~。 ガチ魔王がここに居る。

 私の行動を完全に読まれていた。

 心の底から震え上がった私は、美紅の心の底から友人である事を辞退したくなった。


 「しかし、この如何にも一般女子生徒Cに黒羽はこうも構うんだ? 解せん」


 まじまじと私を見詰めながらそう言う。

 どうやら私は一般生徒Aでなく少し格下のCだと受け止める。

 全て卑屈に受け止めてしまう自分が悲しいぜ……。

 それより目の前の副会長は私の危機を救う希望の光なので下手に出るしかない。


 「私もそれが知りたいくらいです。秘密結社ばりのファンクラブを抱えているご当地アイドルに追っかけられて、私は生きた心地がしない。会長をなんとか私に近付くなと説得して下さい」

 「ご当地アイドル……」

 「ねっ。瑠璃って面白いでしょ」

 「確かに。フェンスからの落ち方といい、あのパンツのセンスはタダモノじゃないな」


 サクランボのパンツってタダモノじゃないのか?

 それに乙女のパンツを見て健全な青少年の反応はもっと違うはずだーーーーーーー!


 「異議あり!」

 「どうしたの瑠璃」

 「普通の男なら女子高生の生パンツを見たらちょっとドギマギしたり、ドジっ子萌えの恋の始まりみたいな展開じゃないでしょうか」

 「ふっ。 あの無様な姿に恋するどころか土に埋めて葬ってやろうと思ったくらいだ」


 くっ……、そりゃあグラビアアイドルには及ばないが、生足は鈴のお兄ちゃんが絶賛してるんだ!


 「美紅、私にあんなひどいこと言う。 何か言ってよ」

 「瑠璃、悪いけど私も思ったわ」

 「酷いよ~~~美紅……」


 なんて冷たい奴だ!

 思わず涙ぐんでしまった。


 「全く、なんで朝からこんなレベルの低い会話に俺が付き合わねばならんのだ。教室に戻るぞ」

 「そ、そんな~~、会長の不祥事は副会長が責任取ってよ~~~」

 「俺に関係ない」


 冷え冷えとした声でバッサリ私を冷たく切り捨てられてしまう。

 横にいる美紅は当てにならなさそうだし絶望していると、やっと友人らしく助け舟を出してくれる。


 「いいのかしら翔也さん。このまま放置すると桜花の秩序は乱れるんじゃないかしら。苛めを苦に桜花生徒が自殺なんて不祥事が起きたら大変」

 

 えっ! 私はイジメで自殺するの? と思ったが、美紅の話に合わせ真っ青な顔で何度も頷く。


 「相変わらず、あざといな美紅。イジメぐらいで死にぬような女に見えないが、黒羽のFCが騒がしくなるのは困る。俺が立ち上げてバカな女どもを折角まとめ上げたのが無駄にされるのは許せないな」


 立ち上げた??

 もしかして会長のファンクラブ「ラ・ロズノワール会」を作ったのは副会長?


 「一番簡単なのは、お前が退学すると言う手があるぞ」


 私は拒否する意思を明確にする為に首が千切れんばかりに横に振る。 

 転落人生はご免だよ~~~。


 「瑠璃は被害者よ。それよりあの迷惑な会長を退学にしたらどうなの」


 おおーー、美紅の意見に賛成!


 「それが出来たら1年の時にしている。何故か人を惹き付けるのは上手い男で周囲を味方につけて、何度陥れようとしたが邪魔される」


 おいおい、実行したんかい――しかも失敗してるなんて案外無能?

 私は静かに心の中で突っ込むが、美紅は違った。


 「あら、きっとそれは翔也さんに人徳が無い所為よ」

 

 さらりとキツイ突っ込みを入れる美紅は、美しい微笑みを浮かべていた。

 流石の副会長も押し黙り美紅を軽く睨むが無言だ。

 どうやら痛いところを突かれたらしい。

 二人の間に冷たい空気が流れた。


 ひぃえぇーーーーーーーーーー!

 何て恐ろしい従弟同士の会話。

 私にも従兄妹はいるけど、みんな仲良しだぞ……。

 

 「ふーっ……まあ今はいいだろう」


 怒るかと思った副会長は以外にも引き下がる。


 「一番手っ取り早いの解決法は黒羽とお前が会って直に話し合え」

 「嫌です! 会長は直ぐ頭をガシッて鷲掴みにするし、怒鳴るし、意味不明だし、とにかく怖い!」

 「俺が立ち合うから大丈夫だ。あの自分勝手に解釈する男に姑息な手は遠回りなだけ。直に話し合え」


 それは自分の経験からですか副会長……。


 「そんな……」

 「諦めろ。これまで女に無関心だった男がここまで興味を示すのを始めてみる。これ以上、奴の行動がエスカレートしない内に手を打っておくのを勧める」


 興味じゃなくて逆恨みだよ~~~~。

 あれ以上エスカレートするってどんなんだ?!

 恐怖が増した私は、腹黒副会長のアドバイスに素直に従う事にした。

 

 「分かりました……宜しくお願いします」

 「それなら今日の放課後に早速会う手筈をたてよう。生徒会室で会うのは拙いな……どこか一般生徒の立ち入らない場所か」

 「あの……、校舎裏の温室はどうですか」

 「ああ、あそこか。良い場所だ」


 どうやら副会長は、お気に召したようだ。


 「それと園芸部の部長とハル先輩も一緒にいて貰いたいんですけど」


 放課後にハル先輩とも会う約束になっていた。この際、会長に対抗するために一人でも多くの見方が欲しい。


 「園芸部の部長は確か長瀬、ハルは書記の桐野か」

 「はい。私は園芸部なんです」

 「成程。まあ頼りないメンバーだが、いないよりいた方がマシだろ」

 「私も同席してあげるね瑠璃」

 「うっ…ん、ありがとう美紅」


 会長VS美紅の構図が頭に思い浮かびカオスな不安が……でも断れなかった。



 それから副会長が全てお膳立てしてくれることになり、放課後を待つことになるのだった。

 


 



久しぶりのコメディだからノリが今一かも。

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