14 少女村娘Bは大賢者と神父に救われる。
昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴ると同時にトイレを飛び出して教室に何事も無いように入り席に座るが、周囲はガヤガヤと会長様の話題で持ちきりで「このクラスにイチゴが居るらしいよ」「そんな子居ないよね?」「落合君が知っているみたい」「落合君知らないって否定したけど」など自然と耳に入って来るのを冷や汗をかきながら聞こえて来た。
疫病神もそれなり分かって来たようだ。こうやって人の裏の面を知って行くのも大事だよ~~。かく言う私も幼稚園から始まる女友達関係に揉まれて生きて色々見て来たし~。
そして担任の安部先生が教室に入って来ると静かになり、数学の授業が始まるが今日から2次関数を勉強するのだが、2次関数って1次関数の進化系の様だがまるでわからない。確かに中学で1次関数を習った記憶があるけど理解しないまま来てしまった私にレベルアップした関数が既に未知の言語の様に黒板に数式が綴られ、それに添えられたグラフはそれは見事な曲線の放物線が描かれて素晴らしい出来。
丁寧に書かれたアルファベットが並んでるのを見て、もしかしてこれは英語かな~とバカな事を考えながらノートを必死にとるけど理解して無いから意味は無く、本当に中学からやり直した方が良いみたいと思った。
こんなんで良く受かったと我ながら奇跡だと思っていると
「この例題を前で解いて貰おうかな」
ギック!
安部先生が死の呪文を発動。
今日は私の出席番号の日で安部先生は大体その日の番号の子を当てるので、無駄かと思うがステルスモードを発動して気配を消す。
「それじゃー しら」
「!」
どうやら数学の魔術師にはステルスモードを解除されてしっまた模様!
まさに私の名前が呼ばれようとしたその時
「先生。 私にやらせて下さい」
「!?」
それは美紅が死の呪文を無効化する声!!
「羽田さんが積極的に珍しいね。では前に来て解いて下さい」
「はい」
颯爽と前に出てスラスラと解いて行く姿が神々しく魔王と思ってしまった事を詫びる。本当は賢者様だったんだね~~
「正解です。流石に羽田さんですね。もしかした簡単過ぎたかもしれませんからこれも解いてくれますか」
そう言って先生が新たな問題を書くと、美紅がまたスラスラと解いてしまった。
そしてクラスの中からは
「俺は解けねえぞ……」
「羽田って全国模試で何時もベスト3だしな」
「嫌味な女」
こそこそと賞賛や妬む声があちらこちらから聞こえるが、美紅って改めて頭が良いんだと尊敬。これからは大賢者様と呼ぼう。
「こうも簡単に解くとは凄いですね。これは過去の大学入試で最も正解率の低い問題でした。皆も一度この問題にチャレンジしてみて下さい」
先生がそう言うと皆が必死にノートに書き写して行くが私には無駄かも~と思いながら皆に習うのだった。
危機一髪の数学が終わり速攻で美紅の席に行く。
「大賢者様、さっきは私を助けて頂き有難うございます~ 」
「大賢者?うふっふ。 村娘Bの相方を助けるなんて当り前よ」
やっぱり私は村娘か……しかし相方を今朝からやたらと連呼する。
「そっ、そうかな~~~ 親友だからだよ~~ね」
何だか将来の進路の選択肢が狭まって行く様な恐怖を覚えてしまう。
既に泥沼に片足を突っ込んでいる様な気がするのは気のせいだろうか……
「そう言えば、イチゴ 」
「!?」
心臓が飛び跳ねる!
「のタルトケーキが美味しいお店を見付けたんだ。今度珠ちゃんと行かない?」
ケーキの話かと安堵する。
「行きたいけどお金が無いから無理だよ。 二人で行って」
食べたいけど1千円のお小遣いではそれだけで無くなってしまう。
「残念。 そこのイチゴのタルトは本当に絶品なの」
やたらとイチゴを強調し故意を感じる。
「何が言いたいのかな?」
すると美紅は私の耳元に口を寄せて周りに聞えないように囁く
「イチゴちゃん。 これからも相方宜しく」
「!!」
ばっばっバレてるーーーー!
やっぱり魔王だ!!
「瑠璃の顔は正直すぎるから気を付けた方が良いよ。芸人としてはその表情豊かなのはプラスだけど」
「そうなの……。 なんで分かったの?」
「昼休みにあれだけのリアクションを見せれば誰だって分かるわよ。珠ちゃんは気がつかなかった様だけど」
「もしかして他にも気付いた子居るかな」
「あの派手な生徒会長のお陰で瑠璃の事なんて誰も見てなかったよ」
「そうだよね」
私の行動なんて誰も気にしない~~
こういう時は地味なのが助かる。
「でも落合君にイチゴを生徒会室につれてくるように言ってたから速攻で帰ったら」
何で?????
私の胸を見た事でチャラになって用件は片付いたはず。まだ何か言いがかりをつけようと言うんだろうか!?
ハル先輩に相談してみよう。
「うん。そうする」
「それより人の居ない所でイチゴの経緯を教えて」
「OK~」
と某モデルの真似をする。
そうやって顔を突き合わしてコソコソ話していると
「何を話してるの二人共? 私も混ぜて」
珠ちゃんが寄って来るとニヤリと笑う美紅
「珠ちゃんが腐女子って話」
小声でぼそりと言う。
「きゃぁーー! 美紅のバカ、ばか、 ばらしちゃ駄目」
真っ赤になって可愛らしく怒りだす。今時腐女子だからと恥ずかしがるなんて珍しい。
「私もBLは偶に読むよ」
私の中学では結構腐女子が多く生息していたので男子の側で平気で腐ネタ談議をして男子達に冷たい視線を送られていた。
私は嗜むぐらいで低汚染の腐女子。
「えっ! 本当! 」
「中学の時に腐女子の友達からお勧めの本を貸して貰ってたんだ」
「どんなの読んだの」
珠ちゃんはこれまでに無いくらい生き生きとして私とBL談議に花を咲かせるのだった。勿論小声で。
だけど美紅は興味無さそうで会話に入って来ない。
「美紅はBLを読まないの」
「私って恋愛系が苦手なの」
つまりBL、NL、GL関係無く読まないのだろうか
「ラノベは?」
「軽い文章も苦手」
「何時も何を読んでるの」
「各種辞書や実用書かな。 法令集なんかも面白いよね」
「辞書って読みものなの?」
「当り前でしょ。出版社によって微妙に違うし面白いわよ」
ある意味BLよりオタクな気がする……こんな難しい本ばかり読んでいてどうしてお笑い芸人なんだろう?
法令集なんか読むんだったら弁護士……より裁判官なんか似合いそう。
不可解だ。
会長様同様に不可解で変わった女の子だとつくづく思うのだった。
放課後、美紅と日曜の打ち合わせをしてから別れるが、落合君は私に近づく事無くサッサと部活に行ってしまい会長様の命令を無視するようなので疫病神と呼ぶのは止めてあげよう。
それから一度温室に向い部長に会いに行く。
温室に着くと部長が水遣りをしている最中だった。
「あれ? 白鳥さん今日は用事があるんじゃ無かった」
直ぐに私に気が付いて声を掛けて来る。
「はい。でもハル先輩に聞きたい事があったんですけど今日は来ますか」
「ハルに? 多分来ないけど、どうしたの」
「実は今日の昼休みに私のクラスに生徒会長が来たんです」
「えっ! 大丈夫だった。また乱暴な事された!?」
心配そうに聞いて来る。
「丁度、私は居なかったから大丈夫でした」
「そっか…良かった。 でも会長は何しに来たんだい」
部長も不思議に思ったらしい。
「私に用だったみたいで放課後生徒会室に来るように言われたらしくって、それで相談してみようかと」
「それなら携帯に掛けて聞いてみるよ」
「本当ですか」
「今掛けてみる」
そう言って鞄から携帯を取り出してハル先輩に掛けてくれるが繋がらない様子。
「どうやらハルはデート中みたいだ。 女の子とデートの時は電源切っちゃうから」
流石にリア充~でも電源を切って何をしてるんだ…
「そうですか。それじゃあハル先輩に月曜の放課後に温室で会いたいと伝えて貰えますか」
「いいよ。 それともハルから携帯に掛けさせようか? 」
何気ない言葉だが、私には痛い言葉。
「うっ…私携帯を持ってないんです」
「そ…そうだったの…ゴメン」
さっきも美紅達に携帯番号を交換しようと言われたが無いと言ったら微妙な空気が流れたのも記憶に新しい。
ふっ…これ位で私は挫けない!
携帯が無くても生きていける!
でも……やっぱり欲しいのが本音。
「それじゃあハル先輩に伝言お願いします」
「分かった。 そうだ月曜日にケーキを持って来るから三人で食べよう」
「めっちゃ嬉しいす!!」
ああ~~部長は何て気が利いて優しいんだろう~~~
「何かリクエストはある」
「そっそれではチョコレートケーキなんかがいいかも」
図々しくも言ってしまう。
先日食べ損ねたチーズケーキも捨てがたいが、今の気分はほろ苦いチョコレート気分。
「いいよ」
そしてニッコリ微笑んで心良く了承してくれる。
良いな~~心がほっこりして来る。
部長は癒し系でゲームで言えば神父か司祭だな~~
それから部長と別れ一旦家に帰るのだった。