11 少女はイケメンズに教育的指導をする
何時ものように自転車を漕いで登校する。
自転車置き場に自転車を置いてから生徒玄関に向うけど、何時もとは違い玄関先にはいくつかの女子生徒のグループがたむろして、何かを話していたのを横目で見ながら通り過ぎようとすると
『……イチゴ……』
『知らない……イチゴ……』
何だかやたらとイチゴという単語が耳に飛び込んで来てぎくりとする。
イチゴって私じゃないよね……きっとイチゴの新製品のお菓子の話題に違いないと思い込む。
何時も以上に空気になりながら自分の下駄箱に向うが
「よっ! お早う白鳥」
ビック!
振り返れば朝から爽やかな笑顔を振りまく疫病神君……朝から不吉な奴に出会ってしまい嫌な予感。
「お早う……落合君」
陰鬱に返事を返して早く内履きに履きかえようとするが
「どうしたんだ、 元気ないけど?」
心配そうに尋ねて来るがあんたが話しかけるとHPが減るんだよ~~と内心毒づく。
「これがイチゴか」
知らない声が疫病神の更なる背後から不吉なキーワードを漏らす。
「私は白鳥瑠璃だから! 瑠璃!」
ヤバいと思って速攻でイチゴを否定。
生まれて初めて自分の名前を声高らかに主張するが、その相手の顔を見て後ずさってしまう。
そこには落合君より更にイケメンな見覚えのある男子生徒が肩越しから私を見降ろしていた。流石にこれだけのイケメンを1度見れば覚えている。確か書記としてステージに立っていたスポーツマンイケメン!!
周囲を見れば登校してくる生徒達が私達をジロジロ見ながら通り過ぎて行くので早く逃げなければと本能が知らせ、急いで内履きに履き替える。
「それは知っている。 しかし会長はなんで構うんだ??」
不思議そうに呟く
どうせ地味で普通ですよ!
それより会長の名前を出すんじゃないーーー!
こいつは二番目の疫病神に違いないと確信する。
そうしている内に、四人の女子生徒達が私達を遠巻きに眺めてヒソヒソと見ており雲行きが怪しい
ヤバいです~~~~~
「会長様になんて会った事無いし~瑠璃分かんない~~」
少しアホっぽいが周囲を欺く為だと無関係を必死にアピール
「なんか悪い物喰ったのか」
きょとんとする疫病神その1
「ぷっ… 一哉の言う通り面白い奴」
煩い! 疫病神その2。
お前達の所為でいらない苦労しているのを理解してくれ~~~
朝から目の保養になるけど私は遠くから眺めたいの!
「いや~ それじゃあお先に」
愛想笑いをして二人から離れる為に急いで立ち去ろうとするが
「同じ教室だろ、一緒に行こうぜ」
絶対に嫌だ!
「俺は隣の2組」
そんなの初めて知ったし、それ以前に名前を知らないから!
普通に考えれば両手に花だけど実情は両手に疫病神だよ~~~~(涙)
「それは御免こうむりたいんだけど」
「良いから行こう」
「行こうぜ」
私の意見など完全無視。
「無理…」
何故かガッシリと背の高い二人の間に挟まれてしまい周囲には羨ましそうに見る女子生徒達の視線に徐々に嫉妬が含まれて行く。
『なんであんたみたいのが』とそら耳が聞こえてきそう…
イケメンは空気が読めない人種なのだと初めて知り――こいつ等には直に言わないと分からないと悟る。
そのまま強制的に階段を登り2階に到達しようとしていたが、このまま1年の教室がある4階まで登れば注目の的は必至!
幸い2階には職員室や特別教室ばかりなので話を付けるには今しかない
「厄病神その1、その2、話があるから特別教室に顔貸してくれる」
二人にだけに聞えるようにぼそりっと囁く。
「「えっ」」
疫病神と呼ばれた二人は驚いたように階段を登る足を止めるが私はそのまま2階に行って空き教室に向い二人が付いてこなければそれはそれで良かったのだが……後ろからの気配で来ているのが分かりガッカリするのだた。
空き教室を捜して二人を連れ込み、教室の戸を閉める前に廊下に人気が無いのを確認してから戸を閉めると、不思議そうにする二人のイケメン。
なんだろうとばかりに私を見詰めており、少しドキリっとしてしまうのは乙女として仕方が無い。
だが絆されてはいけない!
こいつ等は疫病神だ!
キッと睨みつけ
「これはお願いなんですけど、今後一切私に話しかけないで。 出来れば私がイチゴだというのも黙って貰えると嬉しいんで宜しくお願いします」
ペコリと軽く頭まで下げる。
本当は怒鳴り付けたいが平和主義者な私は、ここは低姿勢でお願いしてみる。
「どうしてだ? クラスメートだし話すぐらいいいだろ」
何故か拗ねたような寂しそうな顔をする。
そんな乙女がキュンとしそうな顔は禁止!!
やっぱり自分達の周囲に及ぼす影響を理解して無いようなので説明してやる事にする。
「私は見ての通りの地味な少女Bで落合君達は目立つイケメンズ。もしこの組み合わせでが親しそうにしていると周囲はどう思うか分かる」
「仲が良い友達?」
「普通はそうだけど、周囲の女子達はあの程度落合君達に近ずくなんて身の程知らずな女。 目障りだから無視しようかな~~っと徐々にエスカレートして行きイジメに発展するの!」
「はぁ?? そんな訳ないだろ」
人気者は妬みと言う暗い思考が薄いから理解できないよう。
「落合君達のグループって目立つ子ばかりでしょ」
「そう言えば」
「不思議とクラスの中に自然とヒエラルキーが出来上がっていて似たようなタイプのグループに分れちゃって、それを乱す生徒はイジメという淘汰を受けるの」
「そんな馬鹿な、皆良い奴ばかりでイジメなんかしない」
「それは落合君が勉強が出来て性格も良いイケメンだからだよ」
全員がそうだとは言わないけど少なからず容姿によって対応の差別があると私は思っている。
「なんだよそれ…白鳥ってそんな奴だったのか」
見損なったと言わんばかりの態度。
嫌われるのは嫌だけど、親しくされても困るのので無言で流すが
「待て、一哉」
何故か疫病神その2が割って入る。
「なんだよ」
「今の白鳥の話で思い出したんだが、中2の時に佐伯ってメガネを掛けた女が居ただろ」
唐突に中学時代を話し始めるが、どういう展開??
「居たか?」
「いたんだ。席が俺の隣で良く本を読んでいる大人しい子だったんだが読んでいる本の作家の趣味が俺と同じで良く話をするようになったんだ。だが何時からかイジメに遭うようになって不登校になったのは、今思えば俺の所為だったかもしれない」
成程、既に被害者がいたか…そのメガネっ子ちゃんに同情してしまう。
「それは白鳥の話を聞いたからそう思ったんだろ」
「いや、3年の時に偶然保健室登校していた佐伯にばったり会った時に『来ないで! 私に近づかないで』って顔を真っ青にして泣きだしてそのまま保険医に追い出されたんだ。その時はまるで俺がイジメをしていたみたいな扱いでムカついたんだが、どうやら勘違いしてたんだな俺……」
そう言って落ち込む疫病神その2。
それは確実にお前の所為でイジメに遭っていたと罵ってやろうかと思ったけど、反省しているようなので止めておく。
しかし
「別に馬渕が悪いんじゃ無くてイジメをしてた奴らが悪いんだろ」
友達を優しく慰める疫病神その1の言葉を聞いた私はプチッと切れてしまう。
「今のスゲームカつく!! そもそも原因は周囲の反応に無関心で不用意に近づいて来るあんた達が悪い! 自分達がもててる自覚ぐらいあるでしょう」
「「まあな」」
当然とばかりに肯定――一瞬殴りたくなる。
「だったら、私はイジメの標的なんて嫌だから近づかないで」
「でも白鳥なら大丈夫そう」
「確かに」
それはどういう意味だろう?
もっ…もしかして!
「えっ!私って美人だったの!?」
「そう言う意味じゃなくって、イジメなんて撥ね退けそうというか」
「気にしなさそう」
ブッチ!
「この疫病神野郎!! 二度と話しかけるなーーーーー!!」
渾身の力を腹に込めて怒鳴る。
なんて失礼な奴ら!
私は地味な大人しい生徒でイジメにあったら速攻に登校拒否してしまう繊細な心の持ち主なのに
怒りを込めてドアをビシッと大きな音を立てて閉めて、一層の事つっかえ棒でもしてやろうかと思ったが時間が勿体ないので教室に急ぐのだった。
取り残された二人は怒り心頭の瑠璃に呆気にとられていたが
「俺って疫病神その1?」
「俺はその2らしいな…」
酷い呼び名に少したそがれる。
「なあ……俺達って結構デリカシーが無かったのか」
その2が呟く。
「うーん…俺達が普通の奴と話すだけで、そもそもイジメが始まるなんてあるのか?」
未だ疑わしそうにするその1。
「実際に佐伯が被害にあってる。 俺は全く気が付かなかったけど…俺らに話しかける奴ってそれなりに目立つ奴ばっかりで地味な奴らには距離を置かれてたかもな。俺は選んでる心算は無かったが相手は選んでいるって事だったんだろう――俺 佐伯の人生変えちまった?」
疫病神その2は心の中は後悔――自分が頻繁に話しかけなければ、少女は地味ながら同じタイプの友達と静かな中学生生活を普通に送れたのにイジメにあって最悪の中学生時代を過ごしてしまったのだ。 罪悪感が沸いって落ち込み、思い出すのは保健室での少女の恐怖の顔。過去には戻れないし謝るのも今更だ……
「俺って最低……」
「馬渕…… 」
「一哉も、白鳥に構うのは止めとけ。 あの女はへこたれそうに無いが、イジメになんて遭わせたくないだろう」
「そうだな…なんか人間不信になりそう」
「俺は自己嫌悪だ」
イケメンズは地味な瑠璃に指摘されれた事で我身を振り返って落ち込むのだった。