07・お説教は嫌です
目の前には鬼の形相のジダン王子。
その隣には、笑顔で怒るザット王子。
今、この二人のお説教を受けています。
やはり、政務をしていて、すぐには身動きが出来なかったというこの二人。
それでも駆けつけて来てくれた時には、既にギブロアは退室した後だった。
困惑を滲ませたエイシャにあれ以上言う事無く。
今日はただのご機嫌伺いだから、と席を立ったのだ。
引き際は知っていたらしいギブロスを、引き留めることはせず。
やっと解放されたと安堵していた所へ、二人がやってきたのだ。
「来客予定は事前に知らせる事になっているだろう?」
いくら相手が国賓でも、予定者以外は会う事は無いのだと。
何度目かわからない注意を受ける。
「衛兵にもキツク言っておきましたが、エイシャが自ら扉を開けてはいけません」
ここまで通ってきたのがそもそもの問題だと言うザット王子。
しかし、エイシャの行動にも問題はあったのだと注意を受ける。
「ルードイの王太子を招き入れたと報告されて、どれだけ心配したか」
決してエイシャの意思では無かったが、この部屋に入れたことを咎めるジダン王子。
「せめて、応接室まで行くべきでした。わかっていますか? エイシャ」
断れない状況だったとしても、もう少し対応を考えなさい、とザット王子に諭される。
「申し訳ございませんでした・・・」
顔を伏せて、か細い声で謝罪して。
恐る恐るといった感じで視線を上げれば。
「あまり、心配をかけるな」
「寿命が縮む思いだったんですよ」
幾分か落ち着いた二人に苦笑され。
やっとお説教が終わった事にホッと一息。
怒られるという経験が無いエイシャ。
性格的な物が大きいのだろうが、今まで説教などされた記憶が無かった。
そのため、どんな反応をしていいのか解らなかったのだ。
「しかし、あそこまでますか」
ふぅ、と息を吐いて言うザット王子の言葉に、
「それだけ本気なのだろう」
忌々しい、と返すジダン王子。
「何かあったのですか?」
たぶんギブロアの事なのだろうが、詳細が解らない。
聞かない方がいいかな、とも思ったが、情報は大切です!
「ルードイ国王から、イーガル国王宛に、正式にエイシャを招待したい、という打診があった」
「身分回復云々ではなく、結婚前に祖国へ一度遊びに来てはどうですか? という内容でしたね」
「・・・早すぎませんか・・・?」
思わず口から出た言葉に、二人は頷いて。
さて、どうしますかね、と思案顔だ。
「エイシャ、行きたいか?」
「そうですね、エイシャが行きたいのであれば・・・」
「嫌です」
キッパリと。ハッキリと。
言ってから、しまった、と思ったが・・・
「だな」
「ですよね」
不審に思われなくて一安心。
しかし、このタイミングでの招待はおかしい。
いくらなんでも、早すぎる。
いくら隣国と言っても、王都から王都までは早馬で往復二日の距離だ。
今朝早馬が着いたとして・・・
「ルードイ側は、いつ書状を出したのでしょう?」
単純に考えれば、昨日の早朝もしくは一昨日の昼過ぎ。そのタイミングで出すのはおかしいだろう、どう考えても。
だとすれば・・・
「ギブロアさまが、書いた・・・?」
いや、待て。
でも、ルードイ国王から、と言っていた。
と、いうことは、きちんと王印が押されていた、ということだ。
基本、王印はその王を表す物。新しく国王が就任すれば、王印も新国王を表すソレに変わる。
いくらギブロアが王太子でも、現国王の王印を持ち歩いてはいないだろう。ってか、そんなことは出来ないはずだ。
「事前に用意されていた・・・?」
なら、理解できないこともない。
エイシャの身分回復を断られたルードイは、何としてもエイシャ自身との繋がりを持ちたいはず。
それには、一度ルードイの地を踏ませるのが手っとり早い。
ここが生まれ故郷だよ、と言えば愛着も沸くだろうと考えるのはたやすい。
ギブロアが直接誘ってダメなら、事前に用意していた書状をイーガル国王に渡す。回りくどいやり方ではあるが・・・?
「断れない、わけじゃないのに?」
あくまでも、ルードイは属国。イーガルが属国に従う・・・お願いを聞いてやる必要はない。
ならば、なぜ?
「ジダンさま、ザットさま。招待を受ける理由がわかりませ・・・ん?」
まだ情報が足らない、と二人に聞くために視線をむければ、そこには驚いた表情の二人。
―――やらかしたーーー!!
気づいたときにはもう遅い。
後悔とは後で悔やむことを言う。
エイシャは、こんな事は考えない。
全てをジダン王子やザット王子に任せて、言われたままの行動をするのだ。求められるままに振る舞うのだ。
「エイシャ?」
誤魔化すように微笑んでみても、時既に遅し。
じっと見つめられたまま、視線が逸れることはなく。
「・・・ルードイの国王からの書状では、時間的におかしいのです。今朝着いたならば、ギブロアさまが出発してすぐに出したことになります。それはおかしい。先の申し入れをお断りして直ぐならば、もっと早くに届いているはずですし、ギブロアさまからの報告を受けてからならば明日以降に届くはずです」
じっとエイシャの話をきく二人に、説明を続ける。
「考えられる可能性は二つ。一つは、ギブロアさまが持ってきていた可能性。ギブロアさまの直接交渉如何で、出すか出さないか判断した場合。もう一つは、ギブロアさまがお書きになった可能性。この場合、王印をギブロアさまが持っていることが前提ですが、臨機応変に内容を変えることが出来ます」
どちらの場合も、そこまでするか、という疑問は残るが・・・。
「早すぎる、というのは今調べている。きちんとした物だからこそ、違和感があったからな」
「エイシャの言うとおり、そのどちらかである可能性が高いのも事実ですし」
万が一、ギブロアの独断だった場合は問題になる。
どんな返事をするにしろ、事の真意は調べるべきだろう。
それよりも。
「わからないのは、なぜわたくしに拘るのか、ですが・・・」
先ほど対峙した、ギブロアを思い出す。
妹の復讐のためでも、自国の未来の為でもない。
ただ、純粋にエイシャを求めていた。
―――まさか、そんなことはこの二人に言えませんが!!
自意識過剰に考えれば、ギブロアはエイシャが欲しいのだろう。
理由など何でも良いのだ。エイシャがルードイに渡ってしまえば、既成事実を作って妻にする。もちろん、表だって婚姻など結べないが、方法などいくらでもあるのだ。
最悪、死んだことにされて監禁される。
―――アイツはそういうタイプの人間に違いない!!
秀麗な顔に隠された狂気。さすがはミジャンの兄。
危険センサーがビシビシ反応するわけだ。
まさか、本当にそんな理由じゃないだろう、と思っていたのだが・・・。
二人の顔をみれば、何ともいえない表情。
本気で言ってるのか、みたいな??
「・・・エイシャに一目惚れだそうですよ」
・・・・はい??
「属国の第二王女の身分が不服だったのなら、それすら持たないエイシャはどうなのか、と言われた」
・・・・はいぃっ?!
「エイシャの事を考えるのなら、兄上との婚約を破棄して、自分の妻にするべきだと」
・・・・。
「自分なら、エイシャも幸せになれる、そうだが?」
ギブロアはバカに違いない・・・。
いや、もしかしたら、天才すぎて凡人には理解出来ない思考回路を持っているのかも・・・?
どちらにしても。
「わたくしは、ジダンさまの妻にはなれないのですか?」
うるうるお目目でジダン王子を見つめて。
「わたくしは、いらないのですか?」
泣く一歩手前のお顔でザット王子を見て。
「ルードイは嫌です・・・!」
ってか、ギブロアみたいな危ないヤツの妻は嫌だ!!