19・一難去って・・・
魔獣討伐の旅に出て早くも四ヶ月が経った。
順調に魔獣たちを殲滅させ、最終目的地である、土の国の国境付近まであと数日、というトコロまでやってきた。
当初の予定よりも若干遅れ気味であるのは、予想以上に魔獣が発生しているからである。
まぁ、コレも創造主様たちから頼まれた、ウェランにとっては予想の範囲内である事柄であるが。
「あら、今度は土蜘蛛ねぇ」
地面から出てきた八本足のソレに向かって精霊術を行使。
地面から出る瞬間に、地面を固めて拘束。
動けなくなったソレを、ギルジェモたちが殲滅。
毎日同じことの繰り返しで、既に戦闘ではなく作業になってきている討伐に、初めの頃の感動は無い。
そろそろお昼だなぁ、などと思いながら周囲の探索。
魔獣の気配が無い事を確認し、進行開始。
ひらりと身軽に馬上に戻ってくるギルジェモにも慣れ、大人しく腕の中に納まる。
「ウェランツァイ様、そろそろ休憩を」
馬を休憩させるのに丁度良い川辺を指して、ザンゲルが促すままに休憩に入る。
プダムラが馬の世話をしている間に、昼食の用意を手早く行うザンゲル。
自然とできた役割分担に、しかしウェランは含まれない。
ギルジェモによって整えられた休憩用の簡易天幕に入れられ、大人しく食事を待つ。
食料が無い場合はウェランが精霊にお願いして木の実などを用意するが、一度ソレをやったら、二度目からは道々でいつの間にか食料を採取するようになっていた。
ギルジェモなどは休憩中に獲物を狩り、下処理まで済ませてしまうのだ。
保存用に燻製にしたりはウェランが精霊にお願いするが、言いかえればソレだけである。
おかげで、食料事情はすこぶる良い。
飲み水だけはウェランが精霊にお願いして賄っているが、ソレも水筒を開ければ自然と清水が満タンになる仕様になっている。
用意された食事を摂って、食休みを挟んで出発。
探索に引っかかった魔獣を殲滅して、国境に向かって馬を進める。
次の砦までは距離があるため、この調子ですすめば今日は野宿だろう。
既に何十回と経験した野宿も、ウェランにかかれば普通とはかけ離れた快適なものとなる。
夜行性の魔獣を警戒して常に見張りを立てるのが普通だとすれば、ウェランは精霊によるセキュリティに護られた合宿だ。
寝る前に精霊にお願いしておけば、翌朝には魔獣の氷漬けがオブジェのように周囲に散乱している。
ソレを翌朝ギルジェモたちが片付けという名の破壊をするだけの、簡単なお仕事である。
ザンゲルもプダムラも、正騎士になるために魔獣討伐の訓練を積んでいる。
勿論その訓練には野宿も含まれるのだが、通常の野宿を知る二人にとって、この野宿は野宿ではないらしい。
こんなに楽をしていいのか、と真剣に確認されたのも記憶に新しい。
さくさくと作業を終わらせ、討伐の旅の最終目的地に着いたのは、ソレから十日後。
森に入れば昆虫系の魔獣に、湖で休憩をすれば水棲生物の魔獣に、多種多様の魔獣にこれでもかと遭遇しソレをきっちり処理をして。
ウィン様から、『もう大丈夫よ~』という何ともユルい終了のお知らせを頂いた。
事実、魔獣の数は劇的に減り後は騎士やハンターたちで十分対処可能だ。
私たちが壊滅してしまっては色々と問題がでてくるので、このへんで作業は終了。
ゆっくり王城に帰るにあたって、今度こそ宿泊施設の使用が厳命された。
「で、何事かしら?」
頑張ったザンゲルやプダムラの為にも、きちんとした場所で眠った方がようだろう、と正規の街道を進み街へ入ると、何故かお祭りムード。
街の代表が恭しく出迎え、迎賓館に迎えられる。
どこからどのような話が漏れているのか、手厚い歓迎を受ける。
気持ちが悪いのですが。
ウェランが王城から離れていることは、一部分の人間しか知らない極秘事項である。
そのうえ、どの街に入るかは事前に決めていない。
ウェランの気分で、入る街を直前になって決めるのだ。
そんな中で、この歓迎。
うん、やっぱり気持ち悪い。
「陛下の御名でウェランツァイ様のご婚約が発表されましたので、このように祝福ムードとなっております」
おめでとうございます、とニッコリ笑って祝辞を述べるこの街の代表に、絶句。
ちょっとまて。
誰が何時誰と婚約したって?
背後から漂ってくる殺意にも似た怒気と、正面から伝わってくる邪気のない祝福。
温度差がすごいが、それどころではなく。
(ウィ、ウィン様ーーーー!!!)
犯人であろうウィン様を、力一杯呼びつけた。
強行軍で帰ってきた王城。
父と叔父を神殿で待たせるように指示して、身支度を整えてこちらも神殿に向かう。
ザンゲルとプダムラには付き添い不要を伝えて、ギルジェモのみを連れて行く。
加護持ちではないギルジェモは神殿に入れないため、こちらも付き添い不要を伝えたのだが、ソレは軽く無視された。
出来ればギルジェモに知られないようにしたかったが、まぁ、何とかなるだろう。
「おかえり、ウェラン。お疲れさま」
神殿の入り口にギルジェモを放置して中に入れば、にこやかな叔父上に出迎えられる。
叔父上の隣にたつ父上も笑みを浮かべている。
帰城後すぐに神殿に呼び出した理由は、どうやらわかっていないらしい。
「ただいま戻りました」
とりあえずは討伐終了の報告をして、今後の対策を指示しておく。
数の調整はしてきたが、しばらくは被害地の処理があるため、送り込む術師団の人数を増やすように告げて。
被害状況は明日にでも宰相を交えて報告することに決定。
さて、いよいよ本題である。
「わたくしの婚約が発表されたそうですが、一体どういうことでしょう?」
にっこりと笑って、真正面から威圧する。
ほら、私怒ってるのよー、みたいな。
わかりやすさって大切だと思うし。
とたんに、顔色の悪くなる二人。
ここにきて、なぜ神殿に呼び出されたかわかったのだろう。
ってことで、ご期待にこたえて。
(ウィンさまーーーーっ)
神官長や国王であろうとも最高礼をとらなければならない御方を御呼びして。
(なぁにぃ~?)
地味な嫌がらせを決行。
最高礼を長時間は、キツイ。
筋肉ぷるぷるしてくるからね、アレ。
まぁ、それは単なる副産物的な嫌がらせなので、本題をさくっとな。
「無事討伐が完了いたしましたこと、ご報告いたします」
精霊王さまのお力をお貸しいただいたこと、御礼申し上げます、と口上を口にして。
ぶっちゃけ、わざわざ声に出す必要もないし、むしろウェランがお礼を言われる側だが。
まぁ、様式美は大切ってことで。
「精霊王さまに御啓示いただいた、わたくしの婚約の件でお伺いしたいと思っております」
先日、ウィン様には事の詳細を確認した。
どうやら、ウィン様はこの婚約話には関わっていないらしい。
ウェランが普通に会話できるからうっかりしていたが、普通はウィン様の声は聞こえない。
それなのに、ウィン様が啓示できるはずがない、とご本人に言われて初めて気づいた。
もっとも、本人は常のゆる~い感じで無理よぉ~などとおっしゃっていたが。
では、誰が何のためにそんな事をしたか。
考えるまでも無く、犯人はこの二人である。
(だからぁ~、しらな~い)
この間も言ったでしょ~、などとかる~い感じで言いながら、ふよふよ。
別に、ウィン様に事実確認をしたかったわけではなく、二人に対する証拠みたいなものである。
ほら、ウィン様がいれば、嘘つかないし。
「父上、叔父上、精霊王さまは、わたくしの婚約には一切関知していない、とおおせですが」
さも、今確認したかのように振る舞うのも追い詰めるために必要なことである。
帰城中、行く先々でお祭りムードの祝福を受けた。
不思議なことに、婚約は発表されたが相手は一切不明だと言う。
一体誰と婚約したのか、と行く先々で聞かれるのは正直疲れたのだ。
「一体、わたくしは、どなたと、婚約しているのでしょう?」
にっこりとイイエガオを浮かべて、二人に声をかける。
ウィン様に最高礼を取っているために顔は見えないが、こちらの雰囲気は伝わっているはず。
さて、精霊王様の前で、ハッキリさせようじゃないか。




