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死神様の雑用係り!(改訂版)  作者: 海野 真珠
ウェランツァイ編
71/74

17・テンプレですな



 さて、ここでこの世界における「魔獣」の説明をしておこう。

 魔獣は、生き物を主食とする凶暴な性質のケダモノである。

 数種類の種族に分けられており、種族ごとに数年に一度繁殖期を迎える。

 種族によってそのスパンは様々で、猿人系の種族の魔獣などは毎年のように繁殖期があり、竜族などの種族は数百年に一度だといわれている。

 繁殖期に入ると「つがい」での行動が増え、繁殖のために「餌」を求めて見境なしに生物を襲うようになる。

 生態系が狂うどころの話ではなく、絶滅も十分に有り得る話なのだ。

 それをくい止めるため、各国は騎士団を魔獣討伐に当てており、またソレを専門にしている「狩人」と呼ばれる者達も居る。

 しかし、狩人の人数は需要に対して絶対数が足らず、新たに狩人となる者たちも決して多くはない。

 ナゼか。

 理由は至極簡単で、狩人は騎士とは違い何の保証も無いのだ。いわば、ボランティアで魔獣討伐をしているようなもの。


 ハッキリ言って、危険と比べて実入りが悪い。


 ファンタジーの王道である「ギルド」のような物はその概念すらなく、また魔獣の肉は毒があり食することはできず、皮や骨なども加工ができず、金銭的価値がない。

 ようするに、魔獣とは百害あって一利なし、の存在なのだ。

 では、どうやって狩人たちは生活しているか。

 繁殖期の情報を得た国が一時的に狩人たちを雇い、つがいの魔獣の討伐を依頼するのだ。

 だいたい狩人三人に対して、お目付け役に騎士が一人のチームを組ませて討伐に当たらせる。

 討伐数に対して報酬を支払い、能力値の高い者は騎士にスカウトしたりする。

 好き好んで狩人なんてやっている者達は騎士団のように上下関係や規則に縛られるのを良しとしない者達が多いので、実際にスカウトできるのはほんの少数なのだが。

 そんな狩人たちと協力し、どこの国も騎士や第二術師団を派遣して魔獣の討伐を行っているのだ。

 普通であれば、それで十分魔獣への対応は足りていた。

 しかし、本来なら重ならない魔獣達の繁殖期が重なったため、どこの国も魔獣が狂暴化し、被害が拡大中。

 早急の対応が求められている。



「ウェラン、考え直さないかい?」


 お願いだから、と懇願する叔父上。


 これ以上魔獣の被害を出さないために、より効率的に討伐する必要がある。

 それには、能力の高い者を討伐に向かわせるのが最良。

 白羽の矢が立ったのがウェランの護衛であるギルジェモ。

 本来なら数名のチームで当たらせる討伐を、一人で行える実力者。

 しかし、その本人はウェランの側を離れるのを了承しなかった。

 ならば、ウェランも同行しよう、となったのだが。


「あら、わたくしであれば騎士以上に魔獣を討伐できますわ」


 叔父上をはじめ、陛下やツェギエットも難色を示しているのだ。

 まぁ、普通は次期の地位の者が危険な魔獣討伐などに出ることはないのだが。

 しかし、ウェランは普通ではないのだ。

 精霊王の寵児であるウェランは、精霊術の行使に何の縛りもないうえ無詠唱というチートだ。

 危険なんて欠片も無い。


「そうだろうけど、ほら、危険が」


 魔獣討伐は最優先。

 ギルジェモだけでなく、ウェランも出ればそれだけ早く脅威は去る。

 頭では理解しているが、感情が追いつかない状態の叔父上たち。


「危険は承知ですが、万が一もございませんのでご心配なく」


 繁殖期で狂暴化している魔獣の危険は理解しているが、それが脅威になることは無い。

 無用な心配だと笑って、侍女によって用意された荷物を持ち、既に用意を調えて待っていたギルジェモたちと合流する。

 ザンゲルとプダムラは通常の騎士服に鎧をつけた討伐隊の装備、ギルジェモはいつもの服に外套がプラスされていた。


「ウェランツァイ様、お荷物を」


 ザンゲルが渡した荷物を騎乗する馬に括りつける。


「フードを」


 プダムラが、纏っているフード付きのマントを整え、フードをかぶせる。

 道中、無用な混乱を避けるために顔を隠した方が良い、とウェランの衣装は一見怪しげな魔法使いコスだ。


「では、叔父上。いってまいります」


 ギルジェモに抱きあげられ騎乗。

 一人で乗馬もできるが、職業軍人にはとうてい及ばないためギルジェモと同乗する事になった。

 ウェランの引っ付き虫のギルジェモが、ザンゲルやプダムラよりも乗馬技術に長けているという不思議。


「ギルジェモっ ザンゲルっ プダムラっ  くれぐれもウェランを頼むよ!!」


 最後まで説得を試みていた叔父上の悲痛な声に見送られ、出発。

 ウェランが魔獣討伐にいくのは公然の秘密のため、見送りは叔父上だけで裏門からの出発だ。



―――さてさて、冒険の始まりですよ。







 さて、今回の魔獣討伐。無計画にただ旅をするわけでは無い。

 国に報告されている魔獣の巣の情報から、既に討伐隊が向かっている場所を除き、危険度の高い所から潰していこう、というもの。

 最終目的地は土の国との国境付近に設けられた対魔獣用の砦。

 その間にある砦を宿代わりにしつつ、魔獣討伐をしていくのだ。

 もちろん、討伐隊との連携も視野に入れている。


「報告は確認してきたけれど、本当に多いわね」


 王都を出て、街道を移動中に突然聞こえた悲鳴。

 テンプレ!! と思いつつ駆けつければ、馬車が襲われていた。

 狼型の魔獣が三匹馬車を囲むように威嚇しており、馬車の護衛であろう者達と交戦中。

 護衛は七人のようだが、既に三人の意識は無い。絶命しているかどうかは不明だが、期待はできないだろう。


 ざっと状況を確認し、命令。



「あの魔獣達はわたくしが。ザンゲルとプダムラはあの方々の救援を」


 短く返事を返し、二人はウェランを追い越して馬車に駆け寄っていく。


「ギルジェモ、速度を上げて近づいて」


 気配に気づいた魔獣達が意識をこっちへ向けた。

 その一瞬。

 ぱきり、と魔獣達が凍り付く。


「ギルジェモ、破壊できる?」


 あのまま氷のオブジェとして放置するわけにもいかないし、と凍らせた魔獣を指して背後のギルジェモに問えば、肯定の後手綱を渡され本人はひらりと馬上から飛び降りた。

 きちんと馬を減速させていくあたり、ギルジェモの優秀さが伺える。

 減速した馬を追い越し剣を片手に駆けるその姿に、風の精霊による加速を施す。

 舞うように剣を操り、氷のオブジェと化した魔獣を破壊していく。

 完璧に凍らせているソレを一撃で破壊するギルジェモを、馬車の護衛たちが唖然と見つめる。



―――うん、人間離れしてるよね。



 破壊が終わったのを確認して馬車に近づけば、中から身なりの良い初老の夫婦が降りてきた。

 護衛と話をしていたザンゲルにまず礼を言い、倒れている護衛の生死を確認しているプダムラに近づき言葉を交わす。

 やはり事切れていたのであろう護衛に黙祷を捧げ、馬から下りたウェランと背後に控えるギルジェモに深々と頭を下げた。


「このままでは、魔獣の餌となってしまいます。ここで、火葬してしまいたいのですが」


 だから遺品を取ってほしい、と言えば老夫婦は生き残りの護衛たちに伝えに行った。


 食料を求める魔獣たちにとって、人間の死体は格好な餌となる。

 魔獣が持つ毒は魔獣同士でも有効なため、魔獣の死体は放置しても構わないのだが。

 なので、討伐中に仲間が死亡した場合もその場で火葬するか持ち帰るかを徹底している。


「お願いいたします」


 遺品を取り終わったのだろう。老紳士がウェランに向かって頭を下げる。

 点在する三つの亡骸。その、一つ一つに火葬の炎を放つ。

 骨すら残さないような高温の炎。一瞬で焼き尽くすための蒼い焔。


 仲間の死を悼み、冥福を祈る残された四人の護衛たち。

 自分たちを守るために散った三人に、冥福と感謝を捧げる老夫婦。

 ほんの一瞬の火葬。その間の沈黙を、誰も破ることは出来ない。


「騎士様方、ありがとうございました」


 痕跡すら残さずに焼くつくしたソコを確認し、老夫婦と護衛たちは謝辞を述べる。

 せめて馬だけでも、と襲われたときに放した馬も呼び戻し、馬車に繋いで出発の用意を進めさせる。

 行き先を聞けば、王都へ行く途中だったという。

 休憩の為に街道から外れた所で魔獣に襲われ、ここまで入り込んでしまった、と。


「王都までご一緒は出来ませんが、街道から外れなければ襲われることは無いでしょう」


 ここから王都へと向かう街道は一本のため、街道へ出てしまえば多くの者たちが居る。

 いくら魔獣でもそのような所へはでてこないため、街道さえ外れなければ危険は無いだろう。


「騎士様方も、道中お気を付け下さい」


 老夫婦を乗せた馬車と街道の右と左に別れ、本来の目的地に向かって馬を走らせる。




 さて、今夜の予定地まで夕暮れまでにたどり着けるのか?




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