16・冒険って憧れません?
時の流れは早いもので、あの騒動から五年。
晴れて本日義務教育を修了し、王家の習わしによって家庭教師をつけるように指示されたウェラン。
相変わらずギルジェモは傍らに控え、ウェランの護衛を務めている。
驚いたことに、ギルジェモは専門学校へは進まなかった。実力的に、専門学校で学ぶことなど何もない、と各職業軍人共からのお墨付きを頂いたらしい。例外的に義務教育終了と同時に騎士団への入団が認められ、正式にウェランの護衛騎士へとなった。
そして本日。正式に各種政務に携わる事になるウェランのため、陛下より二人の騎士が新たに護衛として与えられたのだが・・・。
「ギルジェモ、ザンゲルもプダムラも先輩ではなくて?」
そんなに敵意を剥き出しにして睨むな、と苦言を呈する。
陛下から新たに付けられた護衛は、将来を有望視されている若手の騎士。専門学校卒業後、見習い騎士として魔獣討伐のため郊外を回り、その実力で正騎士にまで上った者達。ギルジェモとはまた違った、才能ある者たちだ。
本来ならば騎士として魔獣の相手をするべき者達を、陛下は躊躇いもなくウェランの護衛とした。
王族の護衛は王宮詰めの警護兵がその任に就くのが普通だ。危険のある王族は、国王か神官長か、次期の地位にある者のみ。その者達は当然精霊術が使える。一般の護衛が不要な程の実力があるため、護衛も盾程度の役割しか果たさない。にもかかわらず、大切な対魔獣戦力である騎士を二人もウェランに付けた。
さて、陛下は一体何を考えているのやら。
「ウェランツァイ様の護衛は、私一人で十分では?」
何故わざわざ二人も新たに付けるのか、と陛下に言うギルジェモ。
そう、ここは陛下の執務室。
主である陛下と相変わらずな笑みをたたえた叔父上と、正式に宰相補佐の地位にたったツェギエット。
そして、呼び出されたウェランにくっついてきたギルジェモ。
新しい護衛だと紹介されたザンゲルとプダムラ。
―――何このカオス・・・。
陛下は護衛を増やすのを決定としていて、どうやらザンゲルもプダムラもそれに否やはないようで。
ツェギエットも賛成していて、叔父上は静観する模様。ギルジェモは真っ向から反対している、と。
まぁ、ここにウェランの意見が取り入られないのは今更として。
「叔父上。詳細を」
たぶん、この騒動ともいえる状況の現況に説明を求めれば。
「うん、ウェランには正式に公務代行してもらうから」
「・・・はいぃっ?」
何とも求めていない答えが、いや、答えともいえない発言でもって返された。
「ウェランツァイ様?」
「ウェラン、いかがした」
にらみ合っていた陛下とギルジェモがウェランの奇声に反応してこちらに視線を向けるが、とりあえずそれどころじゃない。
今、この叔父上は何と言った?
「叔父上。わたくしの聞き間違えでなければ、公務代行、と聞こえたのですが」
お勉強ではなく、お手伝いではなく、見習いではなく、補佐ではなく。
正式に、公務代行と、この叔父は言った。
「あぁ。今更ウェランに何も教えることはない、というのが教師達の一致した見解でね。なら、私や陛下が補佐となってウェランに実務経験を積ませようって」
いやぁ、ウェランは優秀だねぇ、などと言う叔父にメラっと殺意。
どこの世界に現役を補佐にする後継が居るのか。
「叔父上、おかしいでしょう。わたくしが陛下や神官長の補佐となって経験を積むのでは?」
何らかの理由で公務ができなくなった、というのならば代行として次期が立つのは道理だが、今回はそうではない。
代行である次期の補佐に今代が就く、と言っているのだ。おかしいだろう。
「いや、誰よりも地位が高いのはウェランだしねぇ。成人と同時に戴冠するなら、今の内から実務経験積まないと」
この世界では、精霊の加護の強さでその地位が決まる。
精霊王に愛されている、精霊王の寵児たるウェランツァイは、この国の、この世界の頂点に位置する存在である。
そんなウェランが、いつまでも次期でいてはいけない、とこの叔父は言っているのだ。
まぁ、わからないでもないが。
「でしたら、補佐でよろしいではないですか」
普通、次期の地位に在る者は成人してから数年間、補佐として実務経験を積む。
義務教育終了後、家庭教師によって政治経済外交帝王学と王族に必要な諸々を学び、ある程度の基礎知識と応用を覚えたところで実務経験を積むために陛下や神官長の下に付く。
そして、成人して初めて正式に補佐としての地位が与えられるのだ。
百歩譲って、家庭教師による勉強が不要であるというのなら、正式な補佐という地位を与えれば良いと思うのだが。
「ウェランが誰かの下に付くなんて、許される事じゃないだろう?」
しかし、叔父上の言葉であえなく却下。
いや、まだ成人してないから、普通は親の庇護下に入っているものですが。
むしろ、入らせていただきたいのですが。
「ウェランツァイ様、決定事項でございます」
ツェギエットが申し訳なさそうに、しかし揺るぎない口調で言えば。
「諦めなさい、ウェラン」
叔父上がイヤラシイ笑みを浮かべる。
「ウェランツァイ、そなたを支え、補佐しよう」
良き国主に、という陛下の言葉に、ツェギエットも、ギルジェモも、ザンゲルも、プダムラも、叔父上でさえも臣下の礼を取る。
決定されていた未来が、少し早くなっただけ。
あと数年の猶予が、消えただけ。
別に、大した事ではないが。
「賜りました。まだまだ至らぬ身でございますれば、ご指導よろしくお願いいたします」
まぁ、ゴネてもしょうがないし。
ある程度の権力は必要だと感じていたのも事実。
思うところがないわけではないが、拒否するような事柄でもない、と思考を落ち着ける。
「で、ソレとコレと、一体どんな関連性が?」
コレ、とザンゲルとプダムラを指す。
貴重な魔獣討伐の実力者をウェランにつける、という明確な理由は何だ、と聞く。
ハッキリ言って、ウェランに危険はないのだが。
「うん、とりあえず、ギルジェモには魔獣討伐に出てもらおうと思って」
本日二度目の爆弾、投下。
いい加減、驚くのも疲れたのですが。
「叔父上、詳細を求めます」
魔獣被害は切迫した問題である事は事実だ。
精霊達の守護で守られているとはいえ、集落単位の被害がまったく出ていない、というわけではない。
食料村への被害を食い止めるため、専用の部隊を編成して警護に当たらせているハズだ。
「ここ最近、魔獣達が元気でねぇ。どうも、数年に一度の繁殖期が数種族で重なったみたいなんだ」
いやぁ、まいった。と軽く言う叔父上。
いや、ソレ、結構大事なんだけど、と心の中でつっこんで。
「討伐隊だけじゃ手が回らなくてね。それで、ギルジェモに助けてもらおうかな、と」
ほら、ギルジェモ強いし、と。あくまで軽くのたまう叔父上。
チラリと視線をズラせば、陛下もツェギエットも頷いている。
あぁ、コレも決定事項なわけですね、わかります。
「ですから、私はウェラン様のお側を離れることはいたしません」
しかし、それになお異を唱えるギルジェモ。
ウェランの護衛の任を離れるようなことは承伏できない、討伐ならばザンゲルとプダムラを向かわせろ、と言う。
ザンゲルとプダムラ二人よりも、ギルジェモ一人の方が戦闘力は高い。
二人で二匹倒す間に、一人で三匹は倒せるだろうギルジェモを使いたがる気持ちはわかる。
コストパフォーマンスが桁違いなのだ。
「ねぇ、ギルジェモ。わたくしが側に居ればいいのかしら?」
魔獣の討伐は必須。
色々考えれば、ギルジェモを動かすのが最良。
ならば、考えるまでもない。
「ウェラン、何を考えているのかな?」
常の笑みをひきつらせ、叔父上が声をかけてくる。
「ウェランツァイ、まさか・・・」
信じたくない、というような顔で見つめてくる陛下。
「ウェラン様、おやめくださいっ」
もはや悲鳴に近い声を上げるツェギエット。
「考えるまでもございませんでしょう。魔獣の討伐に、わたくしも同行致します」
にっこりと笑って、宣言。
もちろん、反論は許しません。




