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死神様の雑用係り!(改訂版)  作者: 海野 真珠
ウェランツァイ編
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13・問題だらけじゃない?


 神官見習いの衣装を身に纏い、柔和な表情で見つめてくるハクライス。その正面に座り、こちらも笑顔を張り付けて、用意された食事に手を伸ばす。



―――非常に食べにくいのですが。



 さて、今の現状を簡単に説明するなら、食堂でハクライスとランチ中、といったところだろうか。なぜに??


「ウェランツァイ様、昨夜はお手数をおかけいたしました」


 そんな一言と共に食堂に入ってきたハクライス。ツェギエットとランチの約束をしていたので食堂にやってきたのだが、急務が入ったツェギエットによってキャンセル。せっかくここまで来たのだから、とギルジェモと一緒に食堂で食べることにしたのがそもそもの間違いだった、と気づいても時既に遅く。社交辞令的にランチに誘って、今の状況と相成ったわけだ。なるほど。


 ウェランの正面にハクライスが座り、ウェランの隣にギルジェモ、その正面にハクライスの側近であろう男。楽しいランチタイムとは程遠い雰囲気なのだが、ハクライスはその綺麗なお顔に笑みを絶やさずウェランを見つめ、ウェランも表情だけは微笑みを浮かべている。ギルジェモは相変わらずの鉄面皮で、寡黙な側近の名前は知らない。

 会話らしい会話もせずに黙々と食事を進めるのは以外と苦痛だと思いながら、しかし会話をする気にはならない。色々問題が解決しない現状で一体何の話をしろと。


「ウェラン様は、無詠唱で精霊術をおつかいになると伺いました」


 そんなこっちの気持ちなぞ知らんとばかりに、話しかけてくるハクライス。無視が出来ないことは承知だろうから質が悪い。


「はい。精霊王様の御慈悲により可能です」


 どこに地雷が埋まっているかわからないので、言葉少なく突っ込み所を極力減らして返事をする。意外と神経使うんだよ、これ。


「どのようにしてお使いになるのですか? やはり、精霊語を無詠唱で?」


 精霊たちへの指示は精霊語で、というのが精霊術の基本である。なので、いくら無詠唱でも精霊語の必要があるのではないか、というハクライス。まぁ、そう考えるのが普通だわな。


「いいえ。ただ、願うだけですわ」


 にっこりと笑ってそう言う。理解できるとは思わないが、理解してもらう必要もないので気にしない。


「願う?」


 案の定、わからない、という顔のハクライス。それでも興味はあるようで、問いを重ねてくる。まぁ、このぐらいならいいか。


「はい、願うのです。例えば、 "ハクライス殿下のグラスに水を”」


 空に近いハクライスのグラスに、水が満ちる。目に見えない水差しから、注がれるように、一定の早さで。


「な・・?!」


 目の前で起きている現象に目を見開くハクライス。今ウェランは、無詠唱どころか、普通の言葉で精霊術を使った。さて、ハクライスはどこまで理解できただろうか。

 ぶつぶつとグラスを眺めながら何事か真剣に考えるハクライスを見ながら、止まっていた食事の手を再開させる。


「ありがとう、ギルジェモ」


 ちょうど良いタイミングでお茶を差し出してくるギルジェモにお礼を言って一口。うん、美味しい。給仕よりも良いタイミングでウェランの世話を焼くギルジェモ。それだけウェランを気遣っているのだろうが・・・。


「ウェランツァイ様」


「はい?」


 ギルジェモと見つめ合う形で止まっていたウェランを呼ぶハクライスの声に意識をそちらに向ければ、隣から小さな舌打ちの音。うぉーい。


「水の量を指定する精霊語はありません。グラス、を指定する精霊語も。どうしてウェランツァイ様はそのどちらも指定できるのですか?」


 どうやら、先ほどのぶつぶつは精霊語だったらしい。精霊語の知識は無いので解らなかった。


「全ては精霊王様の御慈悲でございますわ」


 まさか、精霊は普通の言葉も理解できている、なんて言えないので、にこにこと笑って煙に巻いて。全部を精霊王様ウィンさまの御慈悲としておく。


「やはり、ウェランツァイ様は素晴らしい」


 うっとりと恍惚ともいえる表情で見つめてくるハクライス。美形はどんな表情でも絵になるな、などと思いながらも正面から微笑んでおく。いくら美形だろうがウェランには関係ないのだ。


「殿下の精霊術も素晴らしい、と術師団長が誉めておりましたわ」


 ウェランが直接聞いたわけではないが。ツェギエットが提出してきた報告書にも、ギルジェモが仕入れてきた噂話でも言われていた。

 神官長に求められる精霊術は意外と少ない。実地で使用する機会が少ないのが最たる理由だが、バリエーションだけなら術士の方が多いのだ。術の精密度はダントツで神官長なのだが。しかし、ハクライスはその術士団長をもって賞賛するほどバリエーション、精度ともに素晴らしいという。全ての精霊語を覚えているのではないか、と言っていたほどだ。


「精霊語を覚えるのが楽しかったのです」


 精霊術よりも、その行使に必要な精霊語の研究が面白かったというハクライス。精霊語の必要のないウェランには解らない感覚だが、学者肌なのだろう。


「精霊語は、覚えていても使えない者がほとんどだと聞きますわ。殿下は才能がおありなのですね」


 単なる成功率の問題なのだが、それは伏せておく。次期の中でもハクライスが精霊に強く愛されていることは事実だ。


「ウェランツァイ様にそう言って頂けるとは光栄です。ウェランツァイ様の恥にならぬよう、より精進してまいります」


 何気なく出たであろう言葉には、気づかないふりで微笑む。えぇ、私は何も聞いていませんよ。なぜウェランの恥になるのかは突っ込んではいけないのです、モチロン。


「この留学が、殿下にとって実りある物になれば幸いです」


 にっこりと笑うハクライスにはんなりと微笑み返して、ちょうど飲み終わったカップを置いて、席を立つ。もちろん、それを察したギルジェモが先に立ち、ウェランの椅子を引くのは最早当然の事です。気にしたら負けです。

 それでは、と言葉少なく別れの挨拶をして食堂を出る。向かうのは陛下の執務室だ。







「向こうから謝罪に来るとは思わなかったのですが」


 陛下の執務室には、何故か叔父上の姿しかなく。この人は一体何をやってるんだ? と思いつつ、すぐに戻るという陛下を待つ間、先ほどのやりとりを掻い摘んで報告する。


「ウェランに対する自分への態度の取捨選択だろう?」


 わけがわからない、と叔父上に訴えれば、そんな答えがさも当然のように返ってきた。なんですと?


「わたくしが、ハクライス殿下に取る態度の選択肢を、ハクライス殿下が決めている、と?」


 なんて横暴な。


「それしか考えられないだろう?」


 普通なら、媚薬まで盛ったこちら側に全面的に非がある。いくらハクライスが王妃を拘束したからと言っても、それは正当防衛だ。問題視されることでも、ましてハクライス側が謝罪する事でもない。それは、そうだが。


「でも、わたくしには・・・・・・関係の無いことです」


 そう、ウェランには一切関わりのない事だ。王妃が行った奇行も、ハクライスが拘束したことも、ウェランには一切関係ない。ウェランに謝罪する必要すらないことだ。それに、ウェランがどのような態度を取ろうとも、問題となることもない。


「だからこそ、術の解除にウェランを指定したんだろう?」


 関係がない、関わりがないと解っているからこそ、王妃の拘束を解除するのにウェランを指定した、という叔父上。しかし。


「分の悪い賭です。叔父上や陛下がハクライスよりも上であれば解除は可能ですもの」


 そう、わざわざウェランでなくてはならない、ということなはい。普通に考えれば、同等以上の加護を受けていれば解除できるのだ。


「でも、王子はその賭に勝った」


 びっくりだね、と苦笑する叔父上に、こちらが驚いた。


「まさか・・・」


 解除の必要がないから、そのままにしてあるのだと思っていたのだが。


「こちらで解除できれば呼ばなかったよ」


 巻き込むつもりは、本当になかった、と。うわーお。


「わたくしの名を、術に組み込んだ結果でしょうが・・・」


 それを確認するには、リスクが高すぎる。もし、純粋に加護の問題であれば無視できないことだ。


「それを確認する術が無いのが現実だよ」


 張り巡らされた罠。次々と捕まる、叔父上たち。ウェランが捕まらないだけマシかもしれないが、時間の問題のような気もする。力技で回避もできるだろうが、できれば避けたい方法だ。


「風の国からも、正式に使者がきた。それはこっちで処理をしておくけど」


 一応、報告だけはしておく、と言う叔父上に頷いて。



―――目下の問題は、ハクライスだな。



 チラリと視線をずらせば、こちらを注視するギルジェモ。視線が合えば、鉄面皮の目元が少し緩む。


 あっちもこっちも問題だらけだな。




 ストック切れました。

 次回更新未定です。

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