12・フラグ乱立注意
王妃の実家であるエーグン家は、精霊に嫌われている家系である。なので、エーグンの血を引く者は漏れなく嫌いに分類され、加護一切を受けることが出来ない。とは、ウィン様から教えていただいたウェランのみが知る事実であり、対外的には政治能力の高い者を多く輩出する名門、水の国の有力者の家系である、という認識がされている。
そのため、国内の政治バランスを考えてエーグン家の娘が王妃として迎えられたのだ。王妃としての能力は文句なしに良かったが、生まれた子供はどちらも加護なし。王家に連なる家系からも加護ありの子供は誕生せず、神官長である王弟は独身。このままでは次代になり得る子供がいない、と国王は側室を娶った。その側室の産んだ子供がウェランであり、精霊王の寵児となっているわけだ。
結果、王妃の権利はことごとく剥奪され、無用のレッテルを貼られた。その煽りを受けて実家であるエーグン家の権力も下火になっている。焦ったのはエーグン家だろう。名門から一気に転がり落ちたのだから。
「いつから権力国家になったんですかね?」
思わず口に出してしまった言葉は、誰に聞かれることもなく―――
(だから人間はおもしろいのよぉ~)
は、なかった。
「ウィン様。如何なさいました?」
(あらぁ、驚かないのね~。つまらないわぁ~)
ヤエが言うとおりね~と言いつつふよふよ浮くウィン様。どうやら、私の反応がお気に召さなかったらしい。ヤエ様といいウィン様といい、神様はこんなんなのか?
(こんなんよ~)
・・・・・らしい。
「いえ、そうではなく。いかがなさいましたか、のお答えを頂きたいのですが」
御呼びすれば答えてくださるが、ご自分からお越しくださるとは何事かあったのではないか、と思ったのだが。
(ほらぁ、フォルの所の子が、熱心に呼ぶから~)
ちょっと見に行こうと思って誘いに来た、とおっしゃるウィン様。はて、フォルとは誰ぞ?
(フォルディナン。火の創造主よ~)
なるほど。こちらの世界で言う、火の精霊王様のお名前がフォルディナン様。で、フォルの所の子、というのはハクライスのことか。
「ハクライスがウィン様を御呼びしているのですか?」
なんでまた。普通、自国の精霊王を呼ぶのものだろうに。
(私の国にいるからでしょ~)
ウィン様いわく、わざわざ国が別れているのは精霊王同士が不仲であるためだ、とされているらしい。なので、他国の精霊王を呼ぶことはタブーとされているらしい。知らなかった。
「本当に不仲なのですか?」
相性はありそうだが。不仲とは違うんじゃないか?
(仲良しよ~。頻繁に会うし~)
相性云々もさして無いという。人間の呼びかけにホイホイ答えることもしないため、いつの間にかそんな話ができあがっていた、と。問題も無いので絶賛放置中であるそうだ。意外と人間くさいな、創造主様。
「で、ウィン様。ハクライスにお会いになるのですか?」
ハクライスが何故ウィン様を呼んでいるのかわからないが、できれば会ってほしくない。時刻は早朝。神官たちが起き出すにも早い時間。この時間にハクライスが起きている事にもビックリだが、熱心にウィン様を呼んでいるというのにも、それにウィン様が答えようとしているのにもビックリだ。
(別にどっちでもいいわぁ~。ただの気まぐれだもの~)
会うのなら、私も一緒にと思ったらしい。どうやら、ウィン様を呼び出す内容がウェランに関わる事らしく。直接ハクライスに声をかけることはしないので、私を通訳に、と考えたそうだ。
―――いやいやいや。
「私のことで呼び出されているのなら、私を通訳にっておかしいですよね?」
(でも、スズにしか声は届かないわぁ~)
姿は見えるが、会話はできない。精霊王とはそういった存在らしい。へぇ。
それよりも、だ。ハクライスが一体何の用事だ??
「ウィン様、ハクライスの用件はご存知ですか?」
このタイミングで精霊王を呼び出してまで伝えるウェラン関係。さっぱりわからん。ウェランとは初日の案内で一度会ったきりだ。昨夜の王妃の凶行でこうして王宮に呼び出されているが、本来ならばハクライスが帰国するまで戻るつもりもなかった。
(ん~? ウェランとの婚姻?)
精霊王の寵児と結婚するなら、精霊王の許可が必要だと考えたらしい。親御さんに、娘さんをください、という例のアレだ。男の通過儀礼であり最初の壁だ。これを越えなければ結婚なぞできない。現代社会であれば、という注釈がつくが。
「・・・・・ウィン様、仮に会ったとして、どうお返事されるおつもりだったのですか?」
(もちろん、スズはあげな~い)
そもそも、私も借りてる立場だしね~と言うウィン様。そんな簡単に軽く言われても、とは言いませんが。何というか、国家問題もウィン様には一切関係ないらしい。まぁ、当然か。
「とりあえず、申し訳ないのですが、当分は私以外の呼出には答えないでください。姿を見せなければ構いませんが、できれば控えてください」
基本楽しいこと好きのウィン様だ。今回のように、気まぐれを起こしてうっかり会われてはたまらない。しっかり釘を刺しておくにかぎる。
(それはいいけど~。スズ、知ってたの~?)
ウィン様の予想よりも私の反応が鈍かったのだろう。訝しげにそう聞いてくるウィン様に、溜息を一つ。
「正式に打診があったそうです。年齢的に釣り合う加護持ちがハクライスだけ、という現状ゆえでしょうが」
叔父上が隠していた内容がまさにソレだ。同年の次期を有するのは、火の国と風の国の2国だけ。木の国は最近代替わりしたばかりで次期はまだ決まっていないし、土の国の次期はまだ先日生まれたばかりの乳飲み子。それも女の子だ。風の国はいわずもがなだし、それに諸手を挙げて喜んだのが火の国だ。
一国の次期の結婚相手など、生半可な身分の者ではいけない。普通の次期相手でも簡単に決まるものではないのだ。国内の有力者の家系から出すにしても、ウェランに相応しい者など早々居ない。そもそも、ウェランを神聖視する者たちが結婚相手などになるはずがないのだ。皆、恐れ多い、と辞退していった。そこに目を付けたのが火の国の現王一派。自身の子供、それも痣持ちをウェランの結婚相手に差し出すことで期限の付いた自身の権力に余命を求めたのだ。浅ましい、と思ってしまったのは仕方のない事だろう。
叔父上がウェランに報告するのを躊躇っていたのも、事は国家間のバランスに大きく関わってくることだからだ。今までも、他の王家から嫁いできた事例はいくらでもある。国同士の問題はないため、王族同士の結びつきに何の縛りも無い。しかし、それはあくまでも『ただの王族』であった場合だ。ウェランの立場は、どう贔屓目に見ても『ただの王族』ではない。ある種特殊なウェランの結婚相手など、それだけで国家バランスを大きく左右することになる。
(ふーん。まぁ、スズの好きにすればいいわぁ~)
やはりというか、人間社会には一切の関心の無いウィン様は軽くおっしゃって。
(じゃぁ、スズ。がんばってねぇ~)
面白いことは報告よぉ~と言いながらもフェードアウト。ウェランの部屋には静寂が戻り。
「ウェランツァイ様、御目覚めでございますか?」
侍女がウェランを起こしに来るという、日常へと移行していく。
―――あれ? もしかしなくても、詰んでる?
ハクライスとのフラグは立てた記憶はないが。なにやら、フラグ乱立してるし。叔父上の予定を遙か彼方にぶっ飛ばす馬鹿母娘のせいで、進退窮まれだし。
そして、何より・・・。
「おはようございます、ウェランツァイ様。神殿へは行かれますか?」
身支度を整えてリビングに入れば、すでに待っているギルジェモ。加護無しではあるが剣術に優れ、あの叔父上が認めたウェランの護衛。騎士団長を父に持ち、自身も未来の団長と目されている逸材。そんなギルジェモが、何故ウェランに付くことを望んだのか。
「おはよう、ギルジェモ。神殿へ行くのは控えるわ」
これ以上騒ぎを大きくするのも良くない、と言いながらソファに腰を下ろして。
「神官長様が、王妃陛下の拘束は解かなくて良い、と」
毎朝の恒例となっている報告を聞く。内容はその日によって様々。今日みたいにメッセンジャーの時もあれば、下仕えたちの噂話の時もある。これがなかなか役に立つため、毎朝の挨拶代わりに聞いているのだ。
「ついでに、セチュエットお姉様も拘束してこようかしら?」
母娘揃えて監禁しておけば、人手も節約できるだろう、と笑って。
「できれば、口も塞いでほしい、と」
誰が、とは言わないが。そう言うのであれば、自身で猿ぐつわを噛ませる事の出来ない立場の者だろう。
「まだ寝ている時間でしょうから、先に済ませましょうか」
意識のある時に会いたくはないのだと笑って、後宮へと行くために立ち上がった。




