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死神様の雑用係り!(改訂版)  作者: 海野 真珠
ウェランツァイ編
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06・求む、フラグクラッシャー


 カーテンの隙間から朝日が入り込み、眩しさで目を開けた。見慣れた天蓋付きの寝台に、昨日の事が思い出される。



―――さてさて、これからどうするべきかねぇ。



 何の思惑があるかは知らないが、叔父上はギルジェモがウェランの護衛に付くことを了承した。セチュエットに対するイヤガラセとしては効果的だが、わざわざ叔父上がそんなことをする意味が分からない。あの人のことだから、たんなる娯楽だという可能性も否定できないが。基本、楽しければ何でもイイって人だし。


 とりあえず、早々にセチュエットに知られたため何らかの対処が必要になった。昨夜の叔父上が言ったように、ここでギルジェモに庇われでもしたら火に油だ。爆発したセチュエットが何かしたところで実質的な被害はないだろうが、鬱陶しい。そして邪魔くさい。


「ウェランツァイ様、お目覚めでございますか?」


 侍女の声に返事をして入室の許可を出せば、黙々と朝の支度に取りかかる。洗顔のために寝台からおりて洗面台へ向かえば、その間に寝台が整えられる。

 基本、寮にも侍女が二人同行しているので一連の朝の光景はどこでも変わらない。


「ウェランツァイ様、ギルジェモ殿が本日よりご一緒させていただきたい、と」


 歯を磨いて顔を洗って、さっぱりとして部屋に戻れば、着替えを手伝う侍女にそう伝えられた。


「・・・そう。もうこちらへお越しなのかしら?」


 心の中で舌打ちしつつ、思考をフル回転させる。王宮とはいえ、ここは本宮。セチュエットや王妃たちの居住である後宮とはかなり離れているため、会うことは無い。そうでないと、己の立場の理解できていないあの姉のことだ。形振り構わず事を起こすであろうことは想像にたやすい。

 セチュエットには10日間ほどの謹慎を言い渡すように陛下には伝えたから、暫く考える時間は確保されている。陛下には10日と伝えたが、実際監禁できるのは5日が限界だろう。頭が痛いことだ。


「はい。ウェランツァイ様のご用意が整うまで、控えの間にてお待ちいただいております」


 ウェランツァイの朝は決して遅くない。次期神官長も兼任しなければならないウェランは、神官たちと同じ時間に起床することを体に覚え込ませているのだ。なので、今の時間も早朝。普通であればこれから起床するぐらいだろう。

 いくら護衛とはいえ、ギルジェモが既に来ているとは思わなかった。


「居間に通していいわ。わたくしも支度が整い次第行きます」


 制服へ着替え終われば、次は髪を整える必要がある。背中のあたりまで伸ばした髪を結う間に、ギルジェモを隣の居間に通しておくように指示を出して。


「朝食はお二人分手配いたしました」


 優秀な侍女の言葉に、にっこりと微笑んだ。






「おはよう、ウェラン。今日も早いね」


「おはようございます、叔父上。精霊王様へのご挨拶に参りました」


 朝からご機嫌麗しい叔父上に胡乱な目を向けつつも挨拶を交わし、日課である精霊王への感謝を捧げる。わざわざ神殿まで足を運ばなくても、私が呼べば精霊王――ウィン様は気軽に答えてくださるが、体裁は大切だ。メンドクサイ。


「で、三男君は?」


 にやにやと笑いながら神殿の入り口を覗く叔父上に、ヒクリと顔が強ばった。



―――コイツ、ギルジェモが来ること知ってやがったな。



「三男君、ではなくギルジェモです。加護無しは神殿への立ち入りを禁止されていたはずですが?」


 昨夜は思わず水をぶっかけたが、ココでそんな暴挙にでれない。何とか平常心を繕って返事を返す。


「ってことは、やっぱり付いてきてるんだ」


 ぐふふ、と神官長にあるまじき笑い声を発する叔父上は軽く無視して、さっさと用事を済ませる事にする。


(ウィン様~。おはようございます~)


(スズ、おはよう~)


 さくっと黙ってもらうために、ウィン様を呼んでみた。今日もスケスケ~なウィン様は美しい。


「神官長、精霊王様の御前でございます」


 元気~? どうしたの~? などと言うかる~いノリのウィン様。幸い、ウィン様の声は私にしか聞こえない。

 慌てて居住まいを正す叔父上を横目に、ウィン様とは軽い世間話に花を咲かせる。


(昨日は楽しかったわ~。あのまま、縛っておけばよかったのに)


(いやいや、さすがにソレは無理ですよ。アレぐらいが限界です)


 昨日のセチュエットの拘束は、ウィン様はじめ精霊たちのお気に召すものだったらしい。どれだけ嫌われてるんだ、セチュエット。


(解除するのイヤがってね~。うっかりあのまま放置するとこだったわ~)


(あぁ、陛下では解除ができなかった理由はソレですか)


 陛下か神官長による解除、を条件に織り込んであったので、陛下では解除ができなかったと聞いて不思議だったのだ。拘束を解除したくなかった精霊たちは、はじめに解除を試みた陛下は無視したのだろ。


(で、何か面白いことでもあったの~?)


 わざわざ呼び出すなんてめずらしい、と言うウィン様。まぁ、八割方叔父上へのイヤガラセですが。残りの二割の理由を伝えてみる。


(無関心に分類されている人間が精霊術をただの剣で跳ね返すそうなのですが、何かご存じですか?)


 実際に見たことはないから、事の真意はわからないが、と付け足して、どうも昨夜から消化不良気味だった事柄の解決を求める。

 術への干渉は不可能ではないが、跳ね返すのはどう考えても干渉には当たらない。


(ん~? 知ってると言えば、知ってるかしらねぇ。精霊術への恐怖心が無く、純粋に強い子ならできるわ~)


 この世界において、精霊術に無関心でいることはほぼ不可能に近い。大なり小なりその恩恵を受けているし、創造主=精霊王だ。精霊術に畏怖や恐怖を潜在的に持つのは当然のこと。

 しかし、今のウィン様の説明だとギルジェモにはソレが一切無いということになる。そんな人間がいることが驚きだ。


(そんな子が、護衛になったのですが)


 一応、分類的には無関心のため近くに置いていても不都合はないだろうが、根本が違うような気がしてきた。


(ふぅん? まぁ、ウェランツァイの精霊術が跳ね返される事はないから、問題無いわよぉ~)


 なんとも簡単に軽く言うウィン様。ウェランの護衛である以上、ウェランがギルジェモに攻撃を仕掛けることなど無いだろうから、問題はないのだが。


(しかし、やはり事実なのですね)


 信じられない事であるが、本当にギルジェモは跳ね返すことができるらしい。台風ブッタ切る事もできるんじゃない? などとバカな事を考えつつ、何気なく叔父上を見る。


(あの姿勢、疲れないのかしら~?)


 激しく同感である。

 両肘を90度に曲げ、右腕をお腹、左腕を腰につけ、左足を少し引いて膝を軽く曲げ、お辞儀をする。この世界共通の最高礼なのだが、その姿勢のままキープするのはかなり辛い。

 どうやら叔父上は、ずーーーーーっとその姿勢でいたらしい。アッパレ。


(ウィン様、ありがとうございました。そろそろ叔父上も可哀想になってきたので、解放してやります)


 私の気も済んだし、イヤガラセとしては十分だ。


(いいのよ~。また、面白いことがあったら呼んでちょうだい~)


 うふふ~と笑いながら消えるウィン様。どうやら、ギルジェモの事はウィン様にとっても『面白い』事らしい。


「叔父上、ありがとうございました」


 いまだ礼を取ったままの叔父上にそう声だけかけて、神殿を出ていく。後ろで座り込む気配がしたので、相当負担がかかっていたのだろう。神官長である叔父上が最高礼を取る事など無いため、慣れていないのだ。しばらく筋肉痛で苦しむがいい。


「ギルジェモ、お待たせしました」


 行儀良く入り口で待っていたギルジェモに声をかければ、その無表情が少し緩む。大きな変化は無いが、昨日の事から推測すれば鉄面皮ではないようだ。

 半歩後ろに付き従うギルジェモ。何となくイヤな予感を感じ、勘が告げるまま視線を上げればソコには朝から見たくもない姿。


「ウェランツァイ様?」


 突然歩みを止めて視線を上げたウェランに、ギルジェモが声をかけてくる。ウェランの視線を追ったのだろう。スッと雰囲気が変わった。


「何でもありません」


 そういえば、ココは後宮からも見ることができる中庭だった事に今更気づく。こんな早朝に見られていたことなどなかったので、すっかり忘れていた。どうして今日に限って早起きなのか。

 気分の悪くなる母娘揃ったツーショットは見なかった事にして、歩き出せば。


「お守りいたします」


 後ろから、静かに響く声。


「なにを・・・っ?!」


 スッと前に出たギルジェモが剣を鞘ごと抜いて降りかぶれば、耳をつんざくような破壊音。何事かと覗き込めば、地面には割れた高級茶器。

 どうやら、ウェランが視線を外した後にあの母娘が上から投げ捨てたらしい。一体何を考えているのか。


「ウェランツァイ様、お怪我は?」


 チラリと上に鋭い視線を向けて、しかしすぐに興味を失ったかのような態度でウェランに向き直るギルジェモ。上でセチュエットが何か喚いているが、お互い無視を決め込む。


「ありがとう、ギルジェモ。大丈夫よ」


 破片すら飛び散ることなくたたき落としたギルジェモの腕に感心しつつ礼を述べて。


「ウェランツァイ様、ご無事ですか?!」


 慌てて駆けつけてきた警備たちに笑顔を返す。


「大事無い。この茶器の片付けを」


 説明を求める警備たちに、ただ片付けだけを命じ、ギルジェモを促し歩き出す。


「陛下へのご報告は?」


「不要。あの程度で陛下のお手を煩わせることはないわ」


 納得いかない顔をしつつも、諾を返すギルジェモは利口だ。この様子だと、勝手に報告することもないだろう。

 わざわざ面倒事を自分から作る趣味はないので、この程度であれば握りつぶしてしまえばいい。


「ウェランツァイ様は、如何なる危険からも私がお守りいたします」


 なぜ、ギルジェモがウェランの護衛に志願したのかはわからない。なぜ、ここまでウェランに従う意志を見せるのかがわからない。なぜ、ウェランを守ろうとするのかがわからない。―――が。


 望まないフラグがたった事だけは間違いない!!


 フラグクラッシャーはどこですか??



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