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死神様の雑用係り!(改訂版)  作者: 海野 真珠
ウェランツァイ編
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04・わかりやすい牽制です


 さすが自然を司る創造主が作った世界だけあって、この世界にはきちんと四季がある。一日30時間で1週間という概念はなく10日毎で区切られている。1ヶ月が60日で、一年は12ヶ月の720日。一つの季節に付き3ヶ月が割り当てられている。ちなみに今日は、春1の月43日だ。花が咲き誇り緑豊かで暖かい。実にピクニック日和である。

 クラスメイト達と昼食という名の親交を深めつつ、午後の授業について意見交換をしている。

 全員加護持ちのクラスのため、精霊語の授業がある。これは、他のクラスでは無いモノだ。


「みなさん、まだ精霊語はご存じないのですか?」


 加護持ちの子供は、だいたい両親のどちらかが加護持ちであることが多い。

 そのため、幼いうちから精霊語に親しんでいると思ったのだ。


「精霊語が発音できるのはだいたい五歳以降なのです。耳では覚えていても、発音できないのです」


 特殊な発声法でないと発音できないため、今まで術を使う事は出来なかったらしい。

 精霊語事態は単語の組み合わせのため、その単語を知っていても、発音できなければ術として発動しない。

 なるほど、なかなか制約があるらしい。


「では、次の授業は発音の練習からになるのかしら?」


 一番大切なのは、精霊語を口に出すこと。正しい言葉で指示を出さないと、術は発動しない。

 詠唱破棄などという離れ業を使うウェランにはどうにも解らない感覚だが。


「精霊語の聞き取りと同時に発音の練習をするみたいです」


 これは毎年変わらないらしく、兄姉のいる子たちが口々に言う。しばらくはこの内容が続くらしい。

 ふむ。ウェランはどうするんだ?? 知っていて損はないが、得も無い。


「ウェランツァイ様、そろそろお時間です」


 邪魔にならないように少し離れたところで控えていた侍女に声を掛けられ、教室に戻るために腰を上げる。片付けは侍女たちがするので、気にしない。

 ぞろぞろとクラスメイトを引き連れて教室へと戻る姿は、なかなかに人目を引く。

 中にはウェランに気付いて礼を取る生徒もチラホラ。そんな必要は無いのだが、まぁ、言っても聞かないだろうことは想像に容易い。こんなもんだ、と諦めるのが肝心だ。


「あら、ウェラン様。御機嫌よう」


 もう少しで教室、という所で掛けられた、聞きたくも無い声。

 どうしてこんなところに居るんだ、と問い詰めたくなるが、どうせまともな返事は返ってこないだろう。

 一応、取り巻きは居るようだが、明らかに顔色が悪い。どうやらこの女ほどバカではないらしい。


「セチュエットお姉様。御機嫌よう、午後の授業が始まってしまいますわよ」


 声をかけてきたのは、王妃腹の第一王女セチュエット。王妃とよく似たこのお姉様は、ウェランと自分の立場の差を理解できない可哀想な頭の持ち主だ。

 こんなお姉様の取り巻きをさせられている子に同情するよ。


「午後は礼儀作法の授業なの。今更わたくしには必要ないでしょう?」


 おほほ、と年に似合わない笑い方でウェランを見るセチュエット。名前だけの第一王女にどれだけの価値があると思っているのか、小一時間ほど問い詰めたい。この世界では、精霊に愛されていない王族などカスだというのに、このお姉様はイマイチ理解が出来ていないらしい。可哀想に。


「えぇ、お姉様に必要なのは、礼儀作法では無く一般常識と教養ですものね」


 礼儀作法が必要な場に出ることなど無いのだから、それよりも常識と教養を身に付けるべきだ、と馬鹿にしたように笑ってやる。

 ウェランの言葉の意味を正しく理解したであろうセチュエットの取り巻きたちは、笑いを堪えるのに必死だ。うん、ゴメンよ。


「わ、わたくしに常識が無いと?!」


 遅れて理解できたセチュエットは、顔を真っ赤にして吠える。

 常識だけではなく、教養も無い、と言ったのだが、どうやら二つは理解できなかったらしい。可哀想に。


「このような場でウェランツァイ様にその様な物言い。十分に非常識だと思われますが?」


 今にも飛び掛かってきそうだったセチュエットを止めたのは、凛とした男の子の声。まだ変声期前の、少し高めのアルト。


「ギルジェモ!!」


 かぁっと一瞬で赤面させて、声の主であろう男の子の名を呼ぶセチュエット。

 なんつー解りやすい反応なんだ、と思いながらも黙って事の成り行きを見守る事にした。

 ほら、ややこやしいのはイヤだし、ね。


「わ、わたくしは別に・・・」


 もじもじ、と上目遣いで男の子を見ながら口を開くオネーサマ。可愛らしい女の子がやるならば見られるが、性格の悪さが全面に出ているセチュエットでは滑稽だ。


「ウェランツァイ様、お初にお目にかかります。騎士団長ギダンソが三男、ギルジェモと申します。このような所でのご無礼をお許しください」


 そんなセチュエットを無視して、ウェランに膝を折ったギルジェモ。騎士団長の息子、との自己紹介に妙な納得をする。

 芯の通った立ち振る舞いに、凛とした口調。セチュエットと同年だろうが幾ばくか年上に見えるのは、そんな雰囲気だからだろう。


「公式の場ではないので、無礼とは思いません。我が姉を諫めて下さったこと、こちらから礼を言います」


 正式な騎士の礼ではなく略式の挨拶を詫びるギルジェモにこちらからも声をかければ、セチュエットの顔がみるみる歪む。

 諫められた自分に、膝を折られたウェランツァイ。立場の差は歴然。しかし、それを理解できないのがこの姉だ。


「ウェランっ わたくしに向かって・・・!」


 怒鳴りながらウェランに掴みかかろうとするセチュエットを止めたのは、やはりギルジェモで。

 後ろ手にセチュエットを拘束し、ウェランから距離を取った。


「セチュエットお姉様。ここは王宮ではございません。そのような振る舞いで恥をかくのはお姉様です」


 公的身分では当然ながらウェランがこの国の最高位である。精霊王の寵児とはそういう立場だ。第一、加護無しであるセチュエットはいくら王族とはいえ、神官や術士たちよりも地位は下になるのがこの世界の常識だ。人間性が優れていれば、その身分相応の対応をしてもらえるかもしれないが。この姉に対してそれは求められないだろう。


「第一王女付きの侍女を」


 いつまでもギルジェモに拘束させておくわけにはいかないので、セチュエットの取り巻きにそう声をかける。

 わざわざ第一王女、と呼んだのは本人に自覚を促すためであったのだが。


「そうよ、わたくしは第一王女っ ギルジェモ、無礼よ!!」


 どうやら、セチュエットには通じなかったらしい。

 やれやれ、と嘆息し、次期国王の顔を作る。

 あぁ、メンドクサイ。


「控えなさいセチュエット・・・・・・。ソナタの振る舞いは目に余る。王位継承者として命じる。暫く自室にて謹慎せよ」


 上位者としての命令。逆らうことは赦されない。


「セチュエットを連れてゆけ。国王陛下よりお許しのあるまで自室より出ることは叶わぬ」


 慌てて駆けつけたセチュエット付きの侍女たちにもそう命じる。セチュエットの身を拘束しているギルジェモに文句を言う者すらいない。


「どうしてっ」


「お黙りなさい」


 しかし、まだ己の立場を理解できないセチュエットは、文句を言うために口を開く。



―――あぁ、鬱陶しい。



「んぐぅっ?!」


 これ以上鬱陶しいのはゴメンなので、ちょっと黙ってもらうために精霊術を行使。セチュエットの顔の周りの空気濃度を変えて口を開けないようにして、ついでにギルジェモに拘束されたままの姿勢で身動きできないようにした。こっちは水による拘束なので、解りやすいだろう。


「ギルジェモ、世話をかけました」


 そう声をかければ、ウェランに目礼してセチュエットを侍女に渡す。

 うん、年齢のわりに対応がスマートだ。


「王宮へ戻ったら、神官長か陛下にお願いして解除していただきなさい」


 無詠唱の精霊術行使という解りやすい力の差を見せる事で恐怖心を植え付けて、国王と神官長という高位者をも使える立場だと見せつける。子供じみた解りやすい力の誇示だが、足りない頭のセチュエットには丁度いいだろう。

 顔色悪くセチュエットを連れていく侍女たちを無感情に見送って。


「みなさん、お騒がせいたしました」


 呆気にとられたように立ち尽くしたままのクラスメイトに声をかけ、様子を見に来たのであろう担当教師に軽く頭を下げる。はっと我に返った教師によってクラスメイトたちは教室へと入っていった。



―――さて。



「ギルジェモ、先生への説明が必要でしょうから、同行いたします」


 とっくに午後の授業の始まっている時間。遅刻や欠席は成績に響くだろう。

 セチュエットのせいではあるが、ウェランの手助けをしたギルジェモをこのままにしてはおけないだろう。ウェランが教師に理由を話せば、遅刻扱いにはならない。

 模擬剣を持っているところから、剣術の授業だったと推測して庭に向かって歩き出す。


「しかしウェランツァイ様も授業が」


 慌てて付いてくるギルジェモに、先程は見せなかった表情の変化に若干驚く。

 なんつーか、表情変化の乏しい子だと思っていた。


「午後は精霊語の授業だから心配はいらないわ」


 わたくしには不要なものだもの、と笑って反論を封じて、ギルジェモを従えて歩みを進めた。




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