01・ココはドコ、ワタシはダレ?
見上げた空には、美しい満月と降って落ちてきそうに輝く星々。
横に視線を向ければ、空の情景を映し出す水面がキラキラと、クリスタル越に目に入った。
どうやら、清涼な水の上に、透明な容器に入れられて浮かんでいるらしい―――と確認したところで、今まで静寂を保っていた周囲から、感嘆とも悲鳴ともつかない声が上がった。
何事かと視線を上に戻せば、スケスケなキレーなオネーサンに覗き込まれていた。
うぎゃあああぁぁぁぁっ!!!!
―――これが、今回の仮初の人生を送る肉体、・・・・ん? 名前は?? の、最初で最後の記憶。あれ? もしかしなくても、今回は赤ちゃんからのスタート・・・ですか?
イヤーな予感に恐る恐る目を開ければ、そこにはスケスケーなキレーなオネーサンの姿。
バッチリ目が合えば、そのキレーなお顔に満面の笑み。
何となく感じる既視感に、冷や汗がタラリ。
「あー?(あのー?)」
・・・しゃべれない!!
そっと手を持ち上げ・・・れないっ
本当にこの身体は生まれたての赤子らしい、と今更ながら再確認。
うん、冗談だと思ってたけど。
まさか、本当に赤子からスタートだとは思わなかったけど。
事実は事実として現実を受け止めて、もう一度キレーなオネーサンに意識を向けた。
(貴女が、スズ、ね?)
頭の中に直接響く、優しい声。
その声に突然名前を言い当てられて、ギョッと目を剥く。
(驚かないでちょうだい。私がヤエにお願いしたの~)
うふふ、とさも楽しげに話しかけるオネーサン。
ヤエ様の名前が出たことで、この後に続く展開が予想される。
聞きたくないっ
ほんっとうに、聞きたくない!!
絶対に面倒事だしっっ
できれば、このままトンズラしたい、切実にーー!!
(逃がさないわよー?)
が、その願いが叶えられることはないらしい。
―――うん、わかってたけどね!!
さっきの満面の笑みが、ヤエ様を彷彿とさせるイヤラシイ種類のモノだった。
最初に感じた既視感が、ヤエ様と同じ類のモノだと気付いた時から、逃げられないってわかってたけど。
―――そーれーでーもー!!
(はいはい、諦めてね~)
100%の面倒事に、自ら望んで飛び込みたい、と思うハズもなく。
そんな奇特な人間がいたら、是非ともお目にかかりたい。
(そんな奇特な人間に、今からスズになってもらうのよ~?)
うふふ~と相変わらずな笑みを湛えたオネーサンに言われた言葉に、思考を停止させられる。
―――意思疎通、できてる?
取り敢えず、声は上げていないハズ。というか、この身体はまだしゃべる事はできないらしい。
もしかして・・・?
(そう、さっきから、ダ・ダ・モ・レ)
うふふ~とご機嫌な様子のオネーサンの言葉に、しばし思考停止。
こ、根性悪ぅっ!! もっと早く教えてくださいっ どうやって会話しようか本気で悩んでたのにっ 今までの思考ダダ漏れとかっ
―――うっかりヤエ様そっくり! とか思ってたじゃないかぁっ
(そうねぇ。ヤエと同じイヤラシイ笑みだったみたいねぇ。ヤエに言っておくわ~)
またもや楽しげに言うオネーサンに、色々諦めた。
ここでこんな掛け合いをしていても一向に話が進まない。
それより、早く状況を把握したい。
(さすがヤエのところの子ね~。お利口さんだわ~)
イイコイイコ、と頭を撫でられて。
ナゼか周囲から歓声が上がったが、この際ソレはスルーだ。
(とりあえず、私はウィンシュルティック。この世界の創造主の一人よ~)
ウィンって呼んでね~と、軽い口調のオネーサン、改めウィン様にされた説明によれば、この世界は5つの国で構成されているという。5人の創造主が居り、水・火・風・土・木を各自司っているという。
ウィン様は、水を司る創造主らしい。
(スズの世界の、神様ってやつよ~)
生命を生み出す『自然』を司るのがこの世界の創造主、神様、と。
その創造主をこの世界では『精霊王』と呼ぶそうだ。何故に『精霊』?
(『精霊術』っていう、スズの世界の魔法、があるからね~)
何でも、この世界には精霊が居るらしい。
自然現象は全て精霊が引き起こし、その精霊の力を借りて人間は魔法・・・精霊術を使うという。
誰でも使えるわけではなく、精霊に好意をもたれている人間のみが行使できる術なのだそうだ。
精霊との契約等は必要ではないが、精霊に好意をもたれていないといくら知識があっても使うことは出来ないらしい。
術を使うのに必要なのは言葉のみ。精霊語と呼ばれる特殊な言葉で、精霊に指示を与えるとか。
―――なんつーファンタジーな世界なんだ・・・。
そして、その精霊を作ったのが創造主であるから、精霊王、と呼ばれているそうだ。
まぁ、神様よりも、身近な精霊たちの王様、の方が親近感も沸きやすいだろう。
(人間の勝手な都合よね~。まあ、ちゃんと崇めてくれれば何でもいいわ~)
各国にこの精霊王を祀る大神殿があり、代々王家が神官長を務めている。国王が兼任していたり、王弟や王姉妹がその地位に就くのが一般的らしい。神官長の条件は、当たり前だが精霊術が行使できること、だそうだ。
王族は精霊王の忠実なる下僕であり、創造主である精霊王に代わって国を守り、導く役割を担っているらしい。間違ったことをすれば精霊王から罰がくだるが、基本的には王の裁量で政治を行っているそうだ。
(独裁しようとしても、精霊たちが潰しちゃうわ~)
王族よりも精霊王に忠実な僕たる精霊が国の在り方を監視しているため、無茶な統治は出来ないらしい。
国王は王族の中から選ばれるが、必ずしも現王の子供が次代に選ばれるとは限らず、そのあたりも正しく国を治めるのに一役買っているのだろう。
国王になる条件はただ一つ。精霊たちに愛されていること、だ。
では、どうやってソレを見分けるか。何のことは無い。神官長や国王の資格がある者にのみ、身体のどこかに精霊の祝福と呼ばれる痣が出るそうだ。
国民の生活水準も決して低くは無く、5歳から10歳まで学校に入り勉強することが義務付けられている。10歳までに一般教養を学び、それが終了すれば後は各家の事情によって専門知識を学ぶための学校に進むかどうかの自由選択になる。だいたいが、商家、文官、武官、貴族、神官、と分けられている。
この専門学校は15歳で卒業。成人の16歳までの1年間は実家での修行、成人を越してから正式に見習いとして各職場での実務に入る。
例外は王族と職人。王族は義務教育が終われば家庭教師を付けて王族としての在り方を学ぶという。職人に弟子入りした場合は義務教育が終わればすぐに師匠の元に弟子入りし、しごかれる。師匠が一人前、と認めなければ成人を過ぎても見習いのままだ。ちなみに、酪農も職人扱いになるらしい。まぁ、納得。
この制度は他国も同じで、各国の教育水準は同じぐらいに保たれている。もちろん、希望があれば他国への留学も可能だ。
同じく自然を司る創造主を頂点に国があるので、国同士の侵略戦争などはなく、概ね平和。しかし、当たり前に悪いことをする人間は存在するので、まったく争いがないわけではないらしい。盗賊の類や暗殺を生業とする者も存在するため、各国治安維持の意味合いで騎士は存在する。
そして、それよりも厄介なのが魔獣と呼ばれるケモノ。生き物を主食とする凶暴な性質のため、騎士たちは対人間の犯罪者よりも魔獣討伐の割合の方が高いらしい。
―――うん、聞けば聞くほどファンタジー。
今更な感想を他人事のように抱きつつ、一通りの説明を聞き終える。
どうせ今回は赤子からなのだから今聞かなくても良いような気もしたが、それはそれだ。
それよりも。
どうしてこの子はウィン様とこうして対面しているのですか?
この世界では、生まれたての赤子を創造主――精霊王と対面させる慣例でもあるのか?
多分、まだ名前も決まっていないだろう生まれたばかりの赤子だ。周囲にはちゃんと人の気配のあるので、捨て子ではないだろう。
すっかり忘れていたが、ここは水の上だ。クリスタルの器に入れられて水面に浮かんでいるのだ。一体なんだ? と改めてウィン様を見れば・・・。
―――やっぱりけっこうですぅっっ
即効後悔した。
むちゃくちゃイイエガオで、こっちを見ているウィン様。
この笑顔には、イヤというほど見覚えがある。そう、これは――
(やぁねぇ。ヤエと一緒にしないでちょうだい~)
そう、ヤエ様がトンでもない事を言うときの笑顔だ・・・。




