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17・こんな終焉

 豪華絢爛な装飾を施された建物の中。

 居並ぶ人々もきらびやかに装って、粛々と進められる婚儀を見守っている。


 ほんの半年ほど前にも見た光景。

 違うのは、自分がココに立っているということ。

 チラリと隣に視線を向ければ、うっつくしぃ夫の姿。

 華月の視線に気づいたのか、とろけるような微笑みをくれる。



―――ま、こうなるわな。



 あれよあれよと進められた結婚話。

 相手はもちろん、皓孝様。

 光明国と比べて小国とはいえ、一国の第二皇子殿下。

 華月の両親も反対せず、諸手をあげて喜んだ。もともと、結婚こそが女の幸せ、と声高に言っていた華月の両親だ。反対などするはずもない。


 あの衝撃の告白から約5ヶ月。皓孝様と初対面から約半年。今は婚儀の真っ直中。なんつースピード婚だと呆れながらも、本気で逃げ出さなかったのは自分だ。

 皓孝様に望まれた時点で、逃げ出せないだろうな、という予感があった。どう考えても狙った獲物をみすみす逃がすような甘い方ではないし、気づいた時にはジワジワと外堀は埋まっていたし。足掻けば足掻くほど皓孝様を喜ばすだけだと悟ってからは、逃げ出そうという考えも消えた。


 プロポーズと言うには衝撃的すぎたあの告白を受け入れれば、その日のうちに正式に婚約者となっていた。逃がす気など初めから無かった皓孝様は、既に全ての手回しを終えていたのだ。

 信津国内では既に内縁の妻状態だったし、葛西を通して進めた両親の説得も、然したる問題もなく終わっていた。遼東様にも話はついていたらしく、一時的に仕事の引継に帰れば事足りた。

 何の憂いもなく皓孝様の婚約者となり、華月の生活は一変・・・するわけもなく。婚儀までは実家に、という話もなく。そのまま皓孝様の私宮で同棲中。


「愛しています、ユエ」


 どこまでも甘く囁く皓孝様。

 大魔王な皓孝様だが、華月にはとことん甘い。

 とっても淡泊な方だと思っていたのだが、現実は正反対といってもいいだろう。

 常に隣に華月を置き、別行動を極端に嫌う。視界の端に確認できればいい、なんて生易しいものではなく、常に触れられる位置に居なければ強制的に抱き寄せられる。勿論、公私混同をして仕事に支障をきたすようなことはないが、周りが過剰に反応するのだ。

 皓孝様の隣に華月が居るのが当たり前、単独で行動させることはしない、を徹底されている。執務室内や私宮内であれば行動は自由だが、それも第三者の居ない場合のみ。副官である安丹殿や鷹栄殿すら第三者に当たるらしく、これには苦笑を禁じ得ない。


「愛しています、ハオ」


 それでも、それを苦痛とも思わずに受け入れてしまったのは自分で。

 少々いきすぎた溺愛も、慣れてしまえば心地よく。女として、ここまで愛されていたら幸せなのかな、とも思ってしまう。


「この後の祝宴は出席せずに、そのまま宮へ」


 臣下に下ることが決定しているため、楽相様や湖李様たちのように国民へのお披露目をする必要はない。

 このまま本宮へと戻り、大広間での祝宴が予定されている。


「よろしいのですか?」


 しかし、それを欠席する、と言うのだ。

 主役であるはずの皓孝様と華月が欠席など、と思うのだが・・・。


「構いませんよ。本来ならば臣下のために祝宴など開かないのです。今回はバカドモの勝手ですし、問題ありません」


 それに、誰にも邪魔されたくはないのです、と。

 寄せられた耳元でそう囁かれて。慣れすぎた華月の体は、一気に体温をあげる。


「後のことは気にせずに、さぁ」


 婚儀に出席していた華月の両親も、信津国からの出席者も、何もかもを放置して、皓孝様に手を引かれて。

 本宮に移動する集団を後目に、私宮に移動する。


 華月の夢であった国家元首の地位。もう少しで、確実に手に入れることが出来たその地位。本当ならば、華月の人生を仮初めでも歩むのならば、わたしもそこを目指さなければならなかったのだろう。

 でも、それを捨ててわたしは皓孝様を選んだ。皓孝様の妻として、華月を生きることを選んでしまった。

 いくら好きにすればいいとはいえ、何となく罪悪感が残る。華月が生きていればどうしたか。そんなのは、確認のしようもないけれど。

 好きで奪ったわけではない他人の人生。本当なら、生きるはずのない仮初めのもの。慣れてはいるけれど、ふとした瞬間に思うのは仕方がないだろう。


「ユエ、どうしました?」


 いつの間にか立ち止まっていた華月の顔を、皓孝様が少し不機嫌そうにのぞき込む。

 どうやら、思考の波に呑まれていたらしい。


 それが、いけなかった。


 高い木々に囲まれた、人目のつかない場所。

 もう少しで宮につく、そんな場所。

 まさか、と思っていた。

 この世界は、とても平和だったから。

 だから、警戒を怠っていた。


 人間の醜い部分は、どの次元も、どの世界も、どの次代も、どんな人間でも、同じだということを、忘れていた。


 皓孝様めがけて走ってくる、召使いの格好をした女の子。

 その手に握られている、ナイフ。

 醜く歪んだ、その顔。


 考える間もなく、自然と皓孝様を庇っていた。

 皓孝様と女の子の間に挟まれる体から、激痛。

 女の子の体重と勢いで深々と刺さったナイフは、容易に華月の体を、その内蔵を傷つけた。


「ユエっ!!」


 初めて聞く皓孝様の必死な声に、答えることは出来なかった。







 何の前触れもなく開けた視界。

 目に入ったのは、ご主人様であるヤエ様のお顔。

 さっきまで感じていたはずの痛みもなく、あぁ、戻ってきたんだな、と回らない頭で考えた。


「大丈夫か、雑用」



―――ヤエ様が私に気遣ってる?!



 ぼうっとしていた頭が、ヤエ様の衝撃のヒトコトに覚醒した。

 なんだこれ。悪い夢か??


「ざ~つ~よ~う~~~。おーい。大丈夫かぁ?」


 瞬きもせずにヤエ様を見つめる私に、もう一度かかる声。

 目が乾いてきたので、とりあえず瞬きをして、ゆっくりと頷いた・・・・が。



―――動かないーーー!!



 硬直している体が、ぜんぜん動かない。

 瞬きはできた。しかし、頷けなかった。

 さて、声は・・・。


「・・ゃ、ぇ・・___」


 ・・・・・。諦めた。


 声帯異常ではなく、乾いている喉が原因だろう。

 求む、水!!






 さて、やっぱりヤエ様はヤエ様だった。

 気遣ってはくれたが、水の一杯も持ってきては下さらず。

 いつものように、自然と硬直が解けるまで待って降りてきたキッチン。

 何故か真向かいに座るヤエ様。

 ゆっくりと水分と食料を摂取し、ヒトゴコチ。


「ヤエ様、どうされました?」


 なにやら黙ったままこちらを見るヤエ様に、声をかける。いつものニヤリとした笑顔も、まだ見ていない。

 ものすごく、居心地が悪いのですが。


「・・・聞かないのか?」


 苦虫を噛み潰したようなヤエ様の顔に、はて、と首を傾げる。

 いったい、何を聞けばいいのかわからないのですが。


「何を、ですか?」


 わからないことは素直にきこう、と問えば。


「華月の最期」


 端的に、答えられた。



―――あぁ、そういうことか。



 いつもは、ヤエ様によって引き離される仮初めの最期。今回はそれもなく、気づけば本体に戻ってきていた。華月の人生があそこで終わったのか、はたまた植物状態だったのか、気にはなる、が。


「私は、華月の役割を果たしましたか?」


 人間にはそれぞれ、一生のうちで行うべき役割があるのだろう。

 それを果たす前に死んでしまえば、歴史が狂う。行われるはずだった事柄が行われなければ、どんな歪みが生じるかわからない。

 だから、ユエ様は私を使うのだろう。

 何らかの事故で、決められた役割を果たす前に死んでしまった人間の人生を、私がかわりに歩むことで、その役割を果たさせるのだろう。

 世界を、狂わせないために。


「・・・あぁ」


 ヤエ様の問いかけに、答えることはせず。

 それよりも、気になっていた事のみを確認すれば、端的に返される答え。


「ならば、良いのです」


 求められていた華月の役割を無事果たしていたのなら、それで良い。それが私の、死神様の雑用係りの仕事だから。



―――それに、きっと聞かない方が良いと思うし。



 最期の時、ヤエ様の姿を確認できなかったということは、ロクな終わり方をしていないのは明白。

 わざわざ、自分で傷口広げたくはない。世の中には、知らなくても良いことがあるのだ。


「しばらくはココだ。せいぜい楽しめ」


 そう言って姿を消すヤエ様。あの方の“しばらく”はあてにできないが。


「まずは、お風呂。次に、食事。行は・・・明日から!」


 とりあえずは肉体を労って、鈴として生活することに決めた。


「あ・・・。仮初め人生、最短記録更新した」


 約半年の短い華月の人生は、こうして終わりを迎えた。




「あの女、首切られた大臣の一人娘でな~」


「はぁ・・・」


「そのうえ、婚約者候補だったんだと」


「ふ~ん・・・?」


「見向きもされてなかったけど、側にいたい一心で召使いになってな」


「へぇ・・・」


「なのに相手は自分の父親の首切るし、結婚するし、で壊れちまってな。男殺して自分も死ぬつもりだったんだよ」


「・・・・」


「なのに相手の女は男庇っちまうし。心中しようとした男には放置されるし。ぶっ壊れたソイツ、女抱える男もろとも、メッタ刺しにしてなぁ」


「・・・」


「辺り一面血の海にして、最期は狂い死んだ。よかったぁ、雑用。覚えてなくて」


「・・・・おにぃーーーっっっ」



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