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15・豪華な鳥篭ですこと



 さてさて。

 望んじゃいないが、篭の鳥です。

 どうすっかな~と考えた結果、図書室に移動してみました。

 すんばらしい蔵書の量に圧巻です。知的好奇心をくすぐるチョイスが憎いです。

 取りあえず、信津国の法規約っぽいものを見つけたのでそれを手に、窓際に用意されていた長椅子に腰を下ろしてみました。

 布張りの長椅子は程良い堅さで、置かれている揃いのクッションが何とも眠気を誘います・・・。



―――って、ちがーーーうっ



 別に、監禁させられているわけじゃないから、勝手にここから出ることはできる。

 でも、部屋で大人しくしていることを望んだのは華月だ。予想と違う場所に連れてこられたからといって、勝手に出ていくことは出来ない。一応、華月は国賓として迎えられているのだ。



―――それに、まだココが鳥篭と決まったわけじゃないし!!



 皓孝様の口から、何かを言われているわけじゃないのだ。本宮のゲストルームが一杯だったから、皓孝様の私宮に招いてくださるだけかもしれないし!!

 あのドレッサーも、皓孝様の奥方のかもしれないしっ



―――皓孝様が独身だとか、どう見ても新品だとか、そんなんは考えちゃいけないんだ!!



 何とか自分を奮い立たせて、図書室に居るわけです。

 手にした本を眺めながら、この信津国に来るまでの経緯を思い起こす。


 皓孝様のお部屋で、あの後がっつり喰われた。そりゃぁもう、がっつりと。ふわふわのピンクの世界どころか、強烈な赤の世界だったわけですよ。

 どうやら、この世界では貞操観念が低いらしい。実際華月も初めてではなかったし、皓孝様は言わずもがな。肌を合わせたからといって責任問題に発展するわけでもなく、後宮に入れられるわけでもない。

 気に入ったから~なノリでスルのが普通らしく、華月に嫌悪感も無く。そんな世界だから、下手に嫌がるのもおかしくて、流されるままに喰われた。

 相性が良すぎて止まらず、そのまま皓孝様の隣で眠り朝を迎えた。


 国交問題にまで発展し国益をチラつかされて回避一切を塞がれた状態だったので、抵抗するのもバカらしかったのも事実。

 華月が信津に渡ることで、輸入権の優先が手にはいるのならば安いものだと結論付けたのも事実。

 国益を一番に考えた華月は、どこまでいっても国家元首の器だった、ということだろう。


 遼東様に報告を上げ正式に元首代理を任され、信津に渡る用意を調えて国に帰る皓孝様たちに同行した。光明からの出席者が元首代理の華月だけなのは今更だろう。

 バカドモは案の定二日酔いが抜けきれず、皓孝様の宣言通りに転がされていた。

 湖李様の船に楽相様も同船させ、信津の船に皓孝様と華月が乗った。


 出国するときの遼東様の含みを持たせたイイエガオも、安丹殿の物言いたげな眼差しも、道中の爛れた皓孝様との関係も、すべて記憶に厳重に蓋をするのを忘れてはいけない。


 あくまで華月は国賓であり、仕事としてきているのだ。皓孝様も第二皇子で宰相補佐という地位にいらっしゃる。公私混同はされないだろう。


 華月の今回の目的は、信津国と仙磨国との間の輸入権の優先を獲得すること。そのためには、皓孝様との関係もさることながら仙磨の要職たちとの関係にも気を使わなければならない。


「なのに、何でここで篭の鳥なんでしょうねぇ」


「おや、ユエはここがお気に召しませんでしたか?」


 ポツリと漏れた独り言に返事が返ってきて心臓が止まるかと思った。

 そろりと顔を上げれば、ここ数日で聞き慣れた声の持ち主が悠然と立っている。少し崩した礼装姿がなんとも色っぽい。


「ハオ。いやですわ、いつからそこに?」


「たった今ですよ。ユエがなにやら物思いに耽っていたので声がかけられなかったのです」


 その表情もまた誘われますね、などと言いながら近づいてきて、長椅子に腰掛ける皓孝様。姿勢を正そうと身じろげば、なぜだかそのまま膝へと抱き上げられた。



―――何だろうね、この甘ったるいのは・・・。



「物思いなどではありませんわ。仕事のことを少々。早いお戻りですが、会談は済みましたの?」


 これ以上の甘ったるいのはゴメンだと仕事の話題をふってみる。気になっているのは確かだ。


「えぇ。会談と言っても、事前に纏めた物の確認と担当者との顔合わせだけですのでそれほど時間はかからないのですよ。正式な調印は明日ですし、今日は終わりです」


「そうでしたか。お疲れさまです、ハオ。では、このまま私とも仕事のお話を?」


 華月が信津国に来たもう一つの目的は、商法並びに雇用法の改正指導だ。

 国の生活水準をあげるために、租税効果を安定させよう、という試みだ。一部の貴族階級が肥えていく今のままでは、いつまでたっても国民の生活水準は上がらない。腐敗した毒を出すために、皓孝様は大がかりな改革を行うつもりらしい。


「仕事の話も大切ですが、私としてはもっと大切なことがあるのですよ」


 言いながら、ぎゅぅっと抱き込まれる。


「お仕事よりも、大切なこと、ですか?」


 なにかしら、とすっとぼけてみる。

 流されてなるものか! と頑張ってますよ。


「私にとっては、何よりも大切なことです」


 わかりませんか? と瞳をのぞき込まれて。

 するりと頬を撫でられる。


「“鳥篭”のことかしら?」


 斜め上の返答で、回避を試みる。


「ユエを人目に晒したくなくてココを用意しましたが、嫌でしたか?」


 横抱きにされた膝の上。耳元に寄せられた唇から漏れる重低音。慣らされた体はピクリと反応してしまう。

 回避失敗。



―――だから、どうしてココにもってくるんだ!!



「イヤではありませんわ。でも、ハオ。“鳥篭”は否定するところですわよ」


 耳元に寄せられていた皓孝様の髪をサラリと撫でて、不自然にならない程度に距離を取る。

 目を合わせて微笑めば完璧だ。


「ユエが捕らわれてくれるのなら、ここは鳥篭。ユエは篭の鳥です」


「ふふ・・・。私を捕らえておく篭は、この宮ではなく、この腕でしょう?」


 きつく囲われた腕の中。露わになっている鎖骨付近に頬を寄せれば、息を飲むのがダイレクトに伝わる。


「この腕に、捕らわれてくださる、と?」


「あら、今まさに、捕らわれておりますわ」


 本気の懇願に、クスリと笑って軽く返す。

 正式な国賓に無体はできないだろう、と思ったのだが・・・。


「では、逃がす必要はありませんね。今日は無礼講。どこにも遠慮はいらないのですよ?」


 そのまま立ち上がられて、思わず皓孝様の首に縋りつく。

 見た目以上に力のある皓孝様は、いともたやすく華月を抱き上げたまま歩を進める。


「ハオ、どちらに?」


 聞くだけ野暮だとは思ってますが。確認は大切なんです。


「ユエのために誂えた部屋があるのです。気に入っていただければ良いのですが」


 ユエの荷物もそこに運んであります、と言われて、やっぱりあの寝室は違うのだろうと一安心。

 あそこに、華月の荷物はなかったはずだ。


「歩けますわ、ハオ。離してくださいな」


 往生際が悪かろうが、このままはいただけない。このままベッドに放り込まれたらどうするんだ。


「一仕事終えた私に、ご褒美をください」


「ご褒美、ですか?」


 どうしてそんなもんやらなきゃいけないんだ、と思いながら、ふんわりと笑ってみせる。

 皓孝様は、華月のこの顔が好きらしい。


「このまま、ユエをこの腕に。片時も離れないでください」


 にっこりと。

 何の裏もありません、というような顔でおっしゃる皓孝様。

 だが、騙されてはいけない。こんな顔の皓孝様にうっかり了承しようものなら、頭からガブリと食べられる。

 えぇ、経験者は語る、というやつですよ。


「お断りです。お部屋までなら、大人しくしておりますわ」


 それが不満ならばすぐに降りる、と伝えれば。

 しかたがない、とばかりに肩をすくめて了承を伝えられた。


「ユエはなかなか落ちてきてはくださいませんね」


 私の愛が足らないのでしょうか? と顔を覗き込まれる。


「何度も申し上げておりますでしょう? ハオと添うことはできませんわ」


 抱かれてからことあるごとにされる求婚に、最近ではキッパリと否を返す。

 今は、セフレのような関係に落ち着きつつある。

 できれば、このままの関係でズラかりたい。

 帰国してしまえばこれ以上発展はしないだろう。


「ユエ以上に相応しい方など居ないのですが。何より、ユエ以外欲しくない」


 しゃべりながらも歩を進め、ぽすん、と降ろされたのはやはりあの部屋で。


「どうです? ユエのために誂えたんですよ」


 華々しい内装より、落ち着いた雰囲気の方がお好みでしょう? と微笑まれ。

 まったくもってその通りで、ぐうの音も出ない。


「素敵なお部屋ではありますが・・・。主寝室でしょう?」


 皓孝様はどこで寝るんだ、と直接聞きたいのをグッと堪えて、遠回しに聞いてみる。


「えぇ。片時もユエを離さなくてもいいように誂えた部屋です。衣裳も小物もすべて揃っていますよ」




―――やっぱりかーーー!!



 わかってたけどね!!

 そうじゃないかとは思ってたけどね!!


「ありがとうございます、ハオ。嬉しいですわ」


 覆いかぶさる皓孝様に、ニッコリ笑顔でお礼を言って。

 これ以上の抵抗は諦める。


 どうやったって皓孝様は逃がしてくれないし。

 だったら、余計な体力は使いたくない。

 この鳥篭の居心地はよさそうだし、と言い訳しながら。



――― 一番の問題は、皓孝様が嫌でなくなっている華月の心だな・・・。




 何となく見えてきた華月の終焉。

 今回は惨敗の予感です。




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