14・わけわからんね
絢爛豪華な装飾の建物の中。
それに劣らぬ豪奢な衣装を纏った本日の主役。
大勢の人が見守る中、厳かに進められる婚儀。
ここは、信津国の大神殿。
本日、信津国皇太子楽相殿下と、仙磨国第三皇女湖李殿下の婚儀が行われていた。
―――そして、結局はこうなる、と。
礼装に身を包んで、招待者席ではなく関係者席に座る華月。
隣には当然のように皓孝様が腰掛け、後ろには安丹殿と鷹栄殿――皓孝様のもう一人の腹心だと紹介された――が立っている。
本来であれば、この席は皓孝様の妻の席。
そこに座る華月。
皓孝様の腹心ですら受け入れている様子のこの状況に、誰も口を挟めない。
―――なんで皇帝陛下夫妻ですら何も言わないんだ?!
皓孝様は信津国の第二皇子殿下。今は宰相補佐の地位にあり、ゆくゆくは宰相となることが決まっている。
血筋も地位も申し分なし。加えて、この容姿・・・。引く手数多なのは明らかだが、どうしてかご令嬢たちからの嫉妬の視線もなく。
―――それどころか、その哀れんだ目は何?!
バシバシと寄越される、なんとも形容しがたい視線。
初めは、好物件を横取りした余所者の女に向けられた敵意、だと思っていたが、どうも様子がおかしい。
注意して見れば、そこには、哀れというか、何というか・・・。あぁ、可哀想、みたいな。生け贄の子羊に向けるような視線?
そんな視線を、貴族令嬢どころか信津国の臣下たちからも向けられているのだから、居心地は最高に悪い。
例外は、ニコニコとご機嫌な皇帝陛下夫妻と、現宰相閣下(陛下の弟らしい)、腹心の安丹殿と鷹栄殿ぐらいだ。
「ユエ、このあと祝宴がありますが、どうされますか?」
滞りなく婚儀が済み、国民たちへのお披露目のために主役以下皇族が表へと移動する中かけられた言葉。
「どう、とは?」
「出席は自由なのですよ。あのバカの酒乱は有名ですから」
ちなみに、私は欠席ですと、こともなげに返された台詞に絶句。
酒乱が周知の皇太子に対して突っ込めばいいのか、祝宴の自由参加というあり得なさに突っ込めばいいのか、わざわざそれを確認する皓孝様に突っ込めばいいのか・・・。
「第二皇子殿下が欠席では、お立場上良くないのでは?」
取りあえず、当たり障りのないところから攻めてみる。
「良いのですよ。あのバカとは違う会場で要職たちとの会談が予定されていますから」
わたしは宰相補佐としてそっちに顔を出しますが、ユエはどうしますか? と問われる。
どうしますか、と言われても、信津国の要職と仙磨国の要職との会談に、無関係の華月が出席できるわけもなく。
――― 一緒に出席、と言われても全力で遠慮しますけどね!!
「街に出てもよろしいですか?」
「ダメです。わたしと一緒でないなら、外出は許可できません」
市を見て回りたいのです、と続ける前に、一刀両断。
ニッコリ笑顔の皓孝様に逆らえません。
今の言い方じゃぁ、華月は皓孝様と一緒に居るしか選択肢がないような気がするが、そこは気づかなかったフリだ。
「・・・でしたら、資料をくださいませ。部屋に・・・」
「生憎と、婚儀に手一杯で資料はまだ揃っておりません」
だったら部屋でおとなしくしてるから先に資料を、と言えば、それも却下される。
「どうしていれば、ハオのお邪魔にならないですか?」
「邪魔などととんでもない。わたしは、ユエが隣に居てくだされば嬉しいのですよ」
うん、何となく予想は出来てたけどね!!
しかし、これから出席する会談に、何と言う名目で華月を侍らす気なのか・・・。
―――確認するなんて恐ろしいことはもちもんしないけどね!!
「ハオのお仕事の邪魔はできませんわ。私はお部屋におります」
「では、私の私室に案内させましょう」
「・・・・・は?」
そこで大人しくしていてくださいね、と言われて、思わず素の声が出た。
この魔王様は、今、何ておっしゃいましたかね・・・?
「私の私室に、と。そこでしたら、ユエも退屈しないでしょうし」
鷹栄、ご案内を、と言う皓孝様に何も返すことが出来ず。
あれよあれよと、丁寧に頭を下げる鷹栄殿に先導されて、大神殿を後にした。
「ここは、どこでしょう?」
「皓孝様の宮でございます」
「・・・・私室、とお聞きしたような気がいたしますが・・・?」
「ですから、こちらが皓孝様の“私室”でございます」
「本宮の中の一室、と思っておりましたのに・・・」
「皓孝様は、本宮には執務室以外お持ちではございません」
さぁ、お入り下さい、と開けられた扉は、曰く皓孝様の宮の入り口。
要するに、王宮の敷地内に建てられた、皓孝様のプライベートハウスの玄関、だ。
二階建ての建物はアイボリーで、大きめに取られた窓と庭に面したテラス。
周りは背の高い木々に囲まれ、自然の中の別荘のような静かな環境。
他の建物との位置関係を考えれば、容易に部外者が入り込めない位置。
―――なんとも皓孝様らしい計算されつくした場所ですこと。
関係の無い人間が入り込めない、ということは、華月も出られない、ということだ。
「華月様、この宮には使用人がおりません。ご不便かとは思いますが、ご了承くださいませ」
そのかわり、一通り物のは揃っているから、勝手に使ってくれて構わない、と言う。
「一階の突き当りが図書室になっていますので、よろしければご使用ください」
玄関の右手がキッチン、その正面がリビング、二階に寝室とゲストルーム、ご自由にお過ごし下さい、と頭を下げてクルリと向きを変える鷹栄殿。
「あ、あの・・・ 勝手に入っても?」
玄関の扉だけ開けて入ってこないどころか、そのまま向きを変える鷹栄殿に待ったをかける。
できれば一人でここは入りたくないんですがっ
皓孝様の城に置き去りとか嫌なんですがっ
むしろ、本宮のゲストルーム希望です!!
「申し訳ございません、華月様。私は、この宮に入る許可は頂いておりません。それに、華月様と二人、などと皓孝様に知れれば・・・ね?」
にっこりと。
皓孝様とは違う意味で危ない笑顔で言う鷹栄殿に。
色々と諦めた。
―――人間、諦めが肝心だよねっ
「・・・わかりました。図書室をおかりしております、とお伝えくださいませ」
礼儀として伝言を頼み。
今度こそ歩き始める鷹栄殿を見送って、皓孝様の私宮に入った。
一歩中へ入れば、感じた違和感に首を傾げる。
柔らかいベージュの内装は心地よく、皓孝様の趣味なのか、余計な装飾の一切無い空間。
決して居心地が悪いわけではないが、別荘というか、モデルルームというか、何と言うか・・・。そう、生活感が無いのだ。
人の気配がしないのは、鷹栄殿も言っていたように使用人すらココに入れないからだろう。
しん、と静まり返った空間。それでも寒々しくないのは、外からさんさんと光が入るからか。
意を決して続く廊下を進めば、だんだんと濃くなる違和感。
ここは、皓孝様の私宮のはず。
本宮に私室がないのならば、皓孝様はここで生活しているはずだ。
それなのに、ココには生活感が無さ過ぎる。
キッチンだと教えられた部屋を覗けば、そこに用意されている茶器。
二人分の茶器と、数種類の茶葉。綺麗に整えられた食器棚の中には、ペアで揃えられた食器。
嫌な予感に、背筋に冷や汗が流れる。
恐る恐るキッチンを出て、正面のリビングに踏み入れれば、真っ白なソファと同じく真っ白なローテーブル。
壁際に置かれた棚には置時計と花瓶に活けられた生花。
趣味のいいクリスタルの置物は、日の光を受けて輝いている。
ドクドクと心臓が鳴る。
ゴクリと唾を飲み込み、脱兎のごとく二階へと上がる。
礼装の長い裾をたくし上げ、階段を駆け上がり、一番大きな扉をバァンっと開け放った。
「ふふ・・・ふふふふふふ・・・」
中央に置かれたキングサイズのベッド。上部に置かれた数個の真っ白なクッション。掛けられた薄いココア色のカバー。
奥隣には照明の置かれたキャビネット。少し離れて大きな窓の程近くにはココア色のチェアセット。窓の外にはベランダ。
そして・・・
―――どーして皓孝様の寝室にドレッサーがあるんだあぁっ!!
キャビネットの反対側に置かれたドレッサー。化粧台。
男の皓孝様には必要の無い物。
まぁ、皓孝様に化粧の趣味があるなら別だが。
しかし、これは、どう見ても女性用。鏡台や椅子の高さが皓孝様用とは思えない。
「生活感の無さ過ぎる私宮に、新品のペアの食器。真新しく揃えられた家具と、窮めつけはドレッサーまで置かれた寝室ってか?」
どうやらここは、華月のための鳥篭のようです・・・・。




