09・世の中って狭いね
早朝という時間にも拘らず活気のある街の中を、皓孝様と二人で歩く。
人が多いため、はぐれないように、と差し出された手を取り歩いていたが、それでも心もとなく。
今は肩を抱かれ、朝市を冷やかしながらこの雰囲気を楽し・・・・めるわけあるかぁっ!!
「どうしました、ユエ。人に酔ってしまいましたか?」
「いいえ、ハオ。だいじょうぶです」
いつの間にか寄っていた眉間の皺を咎められ、心配げに顔を覗かせる皓孝様に、何でもない、と笑顔で返す。
―――どんな拷問だ、これ・・・。
断ることのできなかった皓孝様とのデート。
いや、国賓だし、皓孝様だし、断れるとは思ってなかったけど!!
―――遼東様のバカーーーー!!
すんなり承諾しなかった華月に、皓孝様は素晴らしい行動に出た。
あの発言の後・・・。
「あぁ、すいません。ユエが勝手に判断できることではありませんでしたね」
フリーズした華月に、そう言う皓孝様。
よし、逃げれるか?! と思ったのが甘かった。
「元首殿に許可を頂かなければなりませんでしたね。私としたことが、すっかり失念していました」
ニッコリと笑って立ち上がる皓孝様は、こちらに手を差し出し・・・。
「ハオ・・・?」
何をするんだ? と訝しんだ華月に向かって。
「元首度殿に許可をいただきに行きましょう。ユエも、報告しなければならないでしょう?」
と、おっしゃった。
皓孝様に今後の予定の変更を確認してから遼東様に報告に行こうと思っていたため、皓孝様の言葉に頷くより他は無く。
「私からも、あの惨状のお詫びをしなければなりませんし」
もっともなその言い分に、逃げ道もなく。
「どうせですから、一度に済ませてしまいましょう」
時間の無駄はよくないですよ、と微笑まれ。
差し出された手を振り払う事が出来なかった。
―――だって!! だんだんと笑顔が黒くなってくんだよ?!
連れだって遼東様のお部屋に行けば、イイエガオで出迎えてくださる遼東様。
中に、と勧められたが、時間が時間なので、と皓孝様はお断りし。
あの地獄絵図の報告と、お詫びと、今後の予定と。
そして・・・。
「私もこの機会に貴国を拝見したく、つきましては明日1日、政治的観点から生活水準や治安、物流や商法までご説明頂ける方を1人お借りしたいのですが」
だれ、とは特定せずに言う皓孝様に、悪魔の尻尾が見えたのは気のせいじゃないと思う!!
「ならば、華月が適任でしょう。華月以上に広い知識と深い考察を持つ者はおりませんので」
などとおっしゃる遼東様。
こっちの笑顔もだんだんとイイモノなっていき・・・。
「しかし、遼東様。片付けなければならない物もございます・・・」
―――人身御供はたまるかぁっ!!
やんわりとご辞退申し上げるが。
「華月、たまには休みなさい。それに、明日の政務は摂れないだろう」
議員たちも休ませてあげなさいと言われては、それ以上続けることは出来ない。
ならば、遼東様がご説明・・・と言おうと思ったのに!!
「私がご案内申し上げても良いのですが、それですと大事になってしまいましょう」
「そうですね、さすがに元首殿自ら、などとはおそれ多いですし、私もできればありのままの貴国が拝見したい」
先手を打たれた形で、敢えなく断念。
どんどん逃げ道が塞がれ、一方通行。
あれよあれよという間に話がまとまり、現在に至る、と。
「そういえばハオ。こちらへは商船でと言っていましたが、どの商家だったのですか? この国の商家ですか?」
朝市を抜け、商店が建ち並ぶ区域に入ったところで思い出した、皓孝様の入国手段。
もしこの国の商家ならば、知っておきたかった。
「ええ、光明の商家です。信津には光明の布地を卸していましたね。ユエが知らないとは思わなかったのですが、国が商家の管理をしているのではないのですか?」
あの日に港を使用した商家を把握していないのか、と問う皓孝様に説明する。
「我が国は、商業の自由があるのです。一定の納税さえしていれば、商家に対して管理することも、規制することもありません。信津国では商業管理も国がしているのですか?」
光明国は、国内販売も国外販売も、商家が自由に行っている。
どこの国に何を売ろうが自由なのだ。
もちろん、一定の納税は定められているが、国がとやかく口出しすることはない。
「信津では、国外販売は国の規定に従って、特定の許可のある商家のみ行っています。国交問題を危惧した結果ですが、光明はそのような問題はないのですか?」
「国交問題にまで発展はいたしません。他国相手に商いをする場合、その全責任において光明国は関与しない旨を契約の中に織り込ませるのです。あくまで、商いとは売る側と買う側の利害関係にのみ成立するのであって、第三者となる国は関係がないのです」
門外不出のご禁制の商品でもあれば別だが、光明国にそのような商品は無い。
特化した製法や技術も無いので、いちいち国が関わるほどではないのだ。
「それに、特定の商家にのみ許可を与えてしまえば、その許可を巡って問題が起きますでしょう? その方が、よっぽど国にとっては痛手でしょう」
暗に、内側からの腐敗を指摘すれば、苦いお顔の皓孝様。やはり、そういった問題はあるらしい。
「ありますねぇ。国の定めた輸出税以上のものを取り立てるバカとか、許可を金銭で買おうとするバカとか、港の使用に料金をかけるバカとか」
ふふふ、と笑う皓孝様。
どうやら、地雷だったらしい・・・。
「輸出税は一定にして、納税は第三者機関に納めさせれば個人の利益による問題はなくなりましょう。許可は、一定の条件さえ満たせば誰でも取得できるようにすれば良いでしょうし、港は国の直轄にし、使用を予約申請制にすれば、不当な使用料を個人がかすことはできなくなりましょう」
あくまで表面上だけの案だが、と皓孝様に言えば、完全停止された。
おーーい。
「・・・なるほど。納税の第三者機関と、港の管理機関を同じにすれば、未納税者もわかりますね」
「そうですね。でしたら、許可を出すのもその機関に任せたらいかがですか? もちろん、条件を決めるのも実際に許可を出すのも国の仕事になりますが、窓口を作った方が円滑に進みましょう」
お手本は日本の資格試験だ。
「そうすると、その機関の横領や癒着といった問題がでてきませんか?」
国民相手に行うのだから、国民が不利益を被る可能性があるのならばできない、とはっきりおっしゃる皓孝様は、真に皇族なのだろう。
「機関内を担当部署に分け、統括部署を置き、責任者を一定期間で入れ替えればいいのです」
風を通さないから腐敗するのです。と言えば、思い当たる節があるのか真剣に考え込む皓孝様。
「責任者が同じだから、悪事がしやすくなる、と」
「ええ。信津国の政治制度を存じませんので該当するかはわかりませんが、税務大臣が世襲制で何代にも渡り横領していたとして、誰がそれを知ることができましょうか。また、露見することがない、という状況下でしたらその横領はより狡猾に、より悪質になっていくでしょう」
どこの世界でも抱える問題だ。
「監査を入れても、わからないものですか?」
「その監査人が賄賂で動く人間でないことを祈りましょう」
完全に自分の思考に入ってしまった皓孝様。
お腹すいたな~と思いながらも眺める。
朝市を見たい、という皓孝様の要望で、朝食前から出てきている。
そろそろ、この辺の店屋に入りたい。
「華月姉? と、皓孝様??」
まだかなーと大人しく皓孝様を待っていれば、華月には懐かしい声。
「あら、葛西。久しぶりね」
「葛西殿。先日はありがとうございました」
くるりと背後を振り返り、弟に声をかければ、同じタイミングで皓孝様も声をかける。
あらら~?
「・・・・ユエのお知り合いですか?」
「弟ですわ。ハオこそ、愚弟とはどういった?」
お互い、顔を見合わせてニッコリ。
「光明までの同船をお願いしたのが、葛西殿の商船でして」
「そうでしたか。ハオのお役に立てたのならばよろしゅうございました」
「え? 華月姉と皓孝様、知り合い??」
どこか緊張感のない葛西の声に、脱力。
―――いやぁ、世の中狭いわ~




