06・腹黒? いいえ、悪魔です
ニッコリとウツクシイ笑顔の皓孝様と、にこにこと柔和な笑みの遼東様。
何て言うか、見た目で受ける印象は違うが、絶対に中身は似ていると思う。
こう、逆らえない感じが、ね。
「皓孝様、どうしてこちらへ?」
突然の訪問を、この副官も知らされてはいなかったらしい。
さすがに皓孝様に慣れているのか、今までの会話に何一つ動じることのない副官はスゴイと思う。
困惑顔の安丹殿の問いに、皓孝様は素晴らしい笑顔でおっしゃった。
「決まってるだろう? バカ2匹を捕獲しに来たのさ。これ以上身内の恥を晒しておけないだろう?」
――――その笑顔が眩しい・・・のに、黒く見えるのはなぜだろう・・・?
「皓孝様自らが、ですか?」
第二皇子の身分で、単身で商船に乗り込んで、馬鹿兄とその婚約者を迎えに来るとか。
まぁ、普通であればそんな行動はとらないだろう。
何か、他に理由があるのか? と皓孝様の答えを待つが・・・。
「ほかに、あのバカを捕獲できる奴がいないのですよ。首に縄掛ける前に脱走されて終わってしまうので」
安丹、できるか? などと言う皓孝様に。遼東様はポカン、としている。
こっちも、何と言っていいのか解らない。
安丹殿が普通に対応しているから、これが皓孝様の普通なのだろう。
―――えらく個性的だな・・・。個人的には好きな分類の人間だが。
信津の皇子は2人。
皇太子であるあのバカ皇子と、この第二皇子。あと確か、一番下に皇女が1人いたはずだ。
それほど国交も盛んではないため、華月の知識もその程度しかない。
この皓孝様を生前の華月が知っていれば、さぞ馬が合ったことだろう。
「皓孝様、申し訳ありませんが、私はこれで失礼させていただきます。後のことは、華月にお申し付けください」
安丹殿との話が一通り終わった頃を見計らい、遼東様が退席を申し出る。
に、逃げる気だ・・・!
「元首殿、失礼いたしました。この度は数々のご迷惑をおかけし、申し訳ございませんでした。また、的確なるご配慮を賜りましたこと、信津を代表し御礼申し上げます」
席を立った遼東様に、皓孝様も立ち上がり礼を取る。
何事か話しながら入口まで行き・・・。
「では華月。後は頼んだよ」
いつもの穏やかな笑顔で全て華月に押し付け、退出された。
―――いーやー!! いかないでー!!
やりたくない気持ちもわかるけど!!
関わりたくない気持ちもわかるけど!!
だ け れ ど も !!
華月にスベテを丸投げしていかなくてもいいと思うのよ!!
あのバカ皇子とは違う意味で関わりたくないのは私も同じだし!!
むしろ私が逃げたいし!!
無理だけどねっ
声を出して言うわけにはいかないので、心の中で絶叫して。
ついでに文句も一通り言ったところで、席に戻った皓孝様と目が合った。
―――うん、素敵な黒い笑顔が良くお似合いです。
顔の造形は良いのに。
むしろ、美形なのに。
その顔に張り付いた笑顔が、スベテを物語っている。
このヒト、素晴らしいぐらいに腹黒だ。
もう、真っ黒だ。
裏表とかのレベルじゃないほど真っ黒だ。
うかうかしてたら、あっという間に飲み込まれそうな黒さだ。
ブラックホールも裸足で逃げ出すんじゃね?ってぐらいだ。絶対。
「さて、華月殿。これからの事を少々ご相談しても?」
優雅な動作で、副官が淹れたお茶を飲んで。
ニッコリと、悪魔が微笑んだ。
逃げ道は無いので、腹を決めますかね。
「まずは、こちらにお邪魔しているバカ2匹ですが」
身もふたも無い皓孝様の言葉に、色々諦めの境地です。
一応、自分の兄だし。義姉だし。なにより、皇太子だし。と、思ってはいるが。
それを言葉にするほど、私は愚かではなく。
なにより、言った所で言葉を改めるとは思えない。――が。
「バカ2匹、ですか・・・? 楽相様と湖李様、ですよね・・・?」
それでも一応言ってはみる。
まぁ、体面は大切だし。
「他にどれが? ・・・あぁ。今更言葉で取り繕ったところで、何も変わらないでしょう? 的確に相手を表せれば、呼称などなんでも良いのですよ」
うん、やっぱり無駄だった。
私も、バカ皇子、と心の中では呼んでいたが。
まさか、こうもハッキリ言う人がいるとは思わなかった。
それも、弟だし。
どんな家庭環境なんだ、と突っ込みを入れたい。
「で、バカ2匹ですが」
「はい」
入れないけどね!!
「大変申しわけございませんが、明後日の午後まで、こちらに置いていただけますか?」
「それは構いませんが・・・。詳しい予定をお伺いしても?」
明後日であれば、当初の滞在予定の3日目にあたる。
そこまではこっちも用意ができているので、何の問題も無い。
「本日、バカ義姉の荷物を信津に向かわせます。その荷の到着が明日の深夜から明後日の早朝。到着後の荷解きと後宮の支度、諸々の準備に1日。私が国を出る特に、対外的措置は終わらせてありますので、バカどもの到着後すぐに婚儀を挙げさせます」
その時間だけここで稼がせて欲しいと言う。
しかし・・・。
「この短期間で、そこまでの準備を終えられたのですか?」
「あのバカが出国して、すぐに準備はすすめていましたから」
事も無げにそう言う皓孝様。
「皇太子殿下が外交として国を出て、仙磨に着くまでに20日ぐらいでしょう? その頃から準備を進めていたとしても、第三皇女殿下の同行というのは不測の事態だったはず。ソレを考慮して、あと10日ほどの準備期間が必要、と思っておりました」
それが、既に皇女の荷を受け入れる体制まで整っている、というのだから驚きだ。
「・・・なるほど。安丹が言うように、華月殿は優秀な方だ。実を言えば、安丹から逐一報告を受けていましてね。あのバカが華月殿にした愚行も、それを収めた華月殿の手腕も承知しているのです。だから、その報告がきた段階で準備を急がせ、仙磨側に使いを出したんです」
仙磨国に、皇女殿下の受け入れ準備が既に整っている、と使いを出していたらしい。
これをすることによって、信津国は仙磨国の皇女殿下を待っている、ということを公明したことになり、仙磨側は何としてでも皇女を送り込まなければならなくなる。
一方、信津側にしても、万が一バカ皇子が湖李様に惚れなかったとしても公明した事で後には引けず、湖李様を皇太子妃に迎えなければならなくなる。
「それですと、この度のお見合いが失敗した時のリスクが高すぎるように思えるのですが? あくまで、お互いが見初めあう事が望まれていた、と伺いましたが」
「それが理想系、というだけです。我が皇帝陛下は甘いお方でしてね。政治的攻略婚にもお互いの愛が必要なんだそうです。だから、今回の茶番が企画されたんですよ」
所詮は政略結婚なんだから、皇族の義務だとお互い諦めれば済んだのに、と言う皓孝様。
間違っちゃいないが、こうまで言い切れるのも素晴らしい。
「さすがに、あのバカが華月殿を望んだ、と聞いた時は焦りましたが」
「・・・公明は、万が一にも私が了承した時の保険、ですか?」
「ええ。幸い、我国には側室制度はありませんので。安い保険料で済んでホッとしています」
澄まして言う皓孝様にニコリ、と笑って返せば、ニヤリ、と笑って切り返された。
―――あのまま華月が了承していれば、皓孝様は華月を潰しただろうなぁ。
そんな予想ができるほど、皓孝様は躊躇いが無い。
容赦なく華月を潰すぐらいのことはしてみせるだろう。
自分の思惑を実行できるだけの実力を自身が持っていることを正しく理解しているからこそのモノだ。
「最終的には、楽相様の気持ちも湖李様の気持ちも無視して、皇族の務めとして結婚させればいい、ですか」
この人なら、さも当然のようにそうするんだろうな、と聞けば。
「本来皇族とはそうであるべきでしょう。国のことを考えなければならない身です」
やはり、返ってきたのは当たり前の肯定。
「そこには、勿論ご自身も?」
思わず聞いてしまった問いに、皓孝様は器用に片方の眉だけあげた。
「考えるだけの知能があれば、采配は自在でしょうに」
「・・・・・なるほど」
――――要するに、自分はあくまでも使う側だ、と。
華月とは違う意味で最凶だなぁ・・・。
「貴国側の予定を伺っても?」
「安丹殿から先に書状を頂きましたので、取り合えずは本日より3日間の滞在は予定しておりました。先ほどの皓孝様のご予定通りであれば、当方は何の支障もございません。勿論、皓孝様のお部屋もご用意いたしますのでご滞在ください」
こちらの問題は何も無い旨を伝えれば、何故か私案顔の皓孝様。
何かマズかったか?
「華月殿」
「はい」
「その、『皓孝様』はやめていただけますか」
「・・・・・はい?」
「ですから、やめていただきたいのです」
「・・・・第二皇子殿下?」
「・・・・・・・」
「・・・・・・・」
うん。なんだかイヤな予感。
「できれば、敬称無しで『皓孝』と」
―――おまえもかーーー!!




