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05・厄介なお客様


 何とかバカドモを部屋に放り込んで、宴までの自由を確保した。

 副官殿に詳細を聞こうと、案内ついでに部屋にお邪魔する。

 今後の事もそうだが、ここまでの経緯も聞いておきたい。

 あれだけの会話で全てを悟れるほど、華月の頭も優秀ではない。

 状況確認と今後の対策は必要不可欠だ。


「申し訳ありませんでした、華月殿」


 部屋に入るなり頭を下げる副官。

 本当に申し訳ない、と思っているのがありありと解る。


「いえ、副官殿。驚きはしましたが、事前に伺っておりましたので・・・」


 そんな様子の副官に文句を言うほど鬼でもないので、一応そう返す。―――が。

 解ってたんだから手紙に書いておけよ!! が本音である。

 まぁ、書きたくなかった気持ちもわからなくはないが。


「まずは、ご婚約おめでとうございます、と申し上げるべきですか?」


 疲労を色濃く残す副官にそう告げれば、何とも言えない顔で押し黙る。

 まぁ、この副官も、まさか仙磨の第三皇女殿下がアレ・・だとは思いもしなかっただろう。

 華月にしても、交流の無かった仙磨の情報までは持っていなかった。


「ありがとうございます、とお答えするべきなのでしょうが・・・。正直、言いたくありませんね」


 ふぅ、と大きく息を吐く副官。

 相当参っているその様子に、心の底から同情する。



―――ヤエ様を相手にした後の自分と通じるところがあるとか考えちゃいけない!!



「どういった流れで、こうなったか。お伺いしても?」


 机を挟んだ向かい側で疲労困憊の副官に声をかける。

 申し訳ないとは思うが、こっちも話を聞かなきゃ今後の対応に困る。

 取り敢えず、3日間の滞在手配はしてあるので、できればその期間内に出ていってほしい。



―――これ以上の厄介事はゴメンなんだ!!



「はい。先にお知らせしたとおり、皇子と皇女殿下はあのようとても良く似た・・・・いえ、非常に仲睦まじく、夜会の翌日には婚約されました。それで、お世話になった華月殿にご報告を、と・・・」


「言葉を選ぶ必要などありませんでしょう。包み隠さず真実を」


 相当端折って伝えてくる副官に、異議申し立て。

 真正面から今更だ、と言えば、副官は一際沈み込む。



―――まぁ、伝えたくない気持ちもわかるけど。



 あー、とか、うー、とか唸る副官に、こっちから質問する。

 時間の無駄は避けたい。

 今は大人しくしてるバカドモが、いつ暴れだすかわかったもんじゃない。


「皇子と皇女は、私のことで意気投合を?」


「・・・はい。夜会の席で、皇子が皇女殿下に向かって、『華月ほどではないが美しい』と。それを聞いた皇女殿下は、お怒りになるどころか『華月』に興味を示され・・・」


「それで、意気投合、と?」


「はい。皇女殿下は、美しいのもを中心に生きておられる方で・・・。皇子が大絶賛される華月を見たい、と」


 ただそれだけのため、あらゆる慣例を破って皇子に同行したという。



―――ほんとうに、バカの考えることは解らない・・・。



「普通であれば、いくら婚約を交わしたといっても、すぐに同行など出来るものではないのでは?」


 第一、すぐその場で婚約、などというのも納得できない。

 一般民衆ならともかく、一国の皇族同士だ。

 国と国との取り決めや、政的利害関係、はては外交など、考え出したらきりが無いほど色々絡んでくるのが普通だろう。


「いえ、先にもお話したように、全ては仕組まれておりました。何としてでも、皇子には第三皇女殿下を娶っていただく必要があったのです。下準備は整っておりました」



―――要するに、国交間の取り決めは既に終了してたってことか。



「しかし、まさかすぐに同行するとは思わなかった?」


 副官の、微妙なニュアンスを突いてみる。


「こちら側の予定では、一時帰国し、皇女殿下をお迎えする準備を整えたのち、正式に皇太子妃としてお迎えするつもりでした」


 隠し立てしても無駄だと悟ったのだろう。

 丁寧だが、どこか投げやりに副官は言う。


「では、御国の準備が整うまではこちらで?」


 嫌な予感がヒシヒシと。

 通常、妃を迎えるには相当の準備が必要になる。

 その時間を稼ぐため、ここで時間つぶしを・・・とでも言われるのか?



―――それは本気で嫌だ!!!



「いえ、そのようなことは・・・。多分、きっと・・・」


 ハッキリ否定しない副官に、これ以上突っ込むのを諦める。

 どうあがいても、国賓には変わりがないのだ。


 くそうっ


「3日間のご滞在準備は完了しております。もう少し、長く必要ですか?」


 多分、皇子が外交として国を出て、20日ぐらいだろう。

 その頃から準備を進めていれば、いくら皇女殿下の同行と言う不測の事態があったとしても、あと10日ほどで信津側の準備は整うだろう。


 できれば、そんなに滞在などして欲しくないが。


「そこまで貴国にご迷惑はお掛けしませんよ」


 どこかホッとしたような副官と視線を合わせれば、突然かけられた声。

 その声に振り返れば、そこには入り口に佇む遼東様と・・・。


皓孝こうこう様!!」


 どことなく皇子に似た、年若い男が1人。

 その姿に、副官が慌てて立ち上がり、礼を取る。


安丹あたん、ご苦労だったな」


 副官にそう声をかけ。


「補佐官華月殿。この度は、我が信津国のために多大なるお心遣いをいただき、御礼申し上げます」


 目の前にまで進み、完璧な所作で礼を取った。


「私は信津国第二皇子、皓孝と申します。あのバカが多大なるご迷惑をお掛け致しましたこと、重ねてお詫び申し上げます」


 顔を上げて、ニヤリと笑って。


 トンデモナイことを口にした。



―――うん、またまた厄介なのが出てきた感じ・・・?



 華月の真正面に座るのは、信津国第二皇子皓孝様。

 その隣、華月の隣に座る遼東様の正面に座るのは、副官安丹殿。


 衝撃的発言をした皓孝様の登場から数分。

 取り敢えずは詳しい話を、とそのまま副官殿の部屋で腰を落ち着けた。


「改めまして、皓孝様。元首遼東様の補佐官を務めております、華月と申します。お出迎えにも参らず、失礼いたしました」


「突然お邪魔したのは私。華月殿がお気になさることではありませんよ」


 軽く頭を下げて言えば、皓孝様はそう言って場を流す。

 ここで皓孝様が詫びれば、こちら側としても収まりが付かなくなる。

 このやり取りだけで、皓孝様の外交手腕が伺いしれた。



―――うん、あのバカ皇子の弟とは思えないほど賢いな・・・



 さっきのトンデモナイ発言も、うっかり忘れられそうだ。


「まさか、お一人でお越しになるとは思いませんでした。どうやって光明へ?」


 遼東様の言葉に、思わず目をむく。

 一国の皇子が、共も連れずに1人で?!

 いくら近いとはいえ、この世界に飛行機などあるはずも無く。

 移動手段は、もっぱら馬と船。

 信津からこの光明まで、海路で直接来ても1日はかかるだろう。

 この世界の船は人力なのだ。

 いくら海を挟んで隣の国、といっても、日本の端から端ぐらいは離れている。


「知り合いの商人の船に同船させてもらったのですよ。仕入れのため、一度こっちへ戻る、と言っていたので」


 私の驚きなどまるで無視して、さも当然のように言う皓孝様。

 いくら知り合いとはいえ、単身で商船に乗り込み。あまつ、他国に来るとは・・・。



―――行動力があるというのか、単なる無鉄砲なのか・・・。



 さすがに遼東様も、どう返して良いのか悩んでいるようで。

 まぁ、さすがにこんな返答が返ってくるとは思わなかったが。


「お一人で商船など・・・。危険ではないのですか?」


「慣れていますので、大丈夫ですよ。下手に共をつけて皇家の船を出した方がよっぽど危険なので、問題は無いですね」


 私の問いに、そう言う皓孝様。

 副官もその事には何ら疑問をもっていないようなので、本当に日常的に行われていることなのだろう。



―――しかし、皇家の船のほうが危険・・・?



 この世界では、戦争というものが無い。

 国家侵略、国土拡大、占領殖民地、などという概念自体がないのだ。

 だから、他国から狙われて、という危険はないハズだが・・・。


「海賊でも出ましたっけ?」


 考えられるのは、盗賊の類だが。

 それも、危険視するほどのものではないと思っていたが?


「いえいえ。海賊などはおりませんよ。問題は、ただ1つです」


「1つ?」


「ええ。ウチには、何をしでかすか予測のつかない低脳なモノが居ますので。船など出せば・・・・ね?」


 ふふふ、と。

 それはそれは素晴らしくキレイなエガオで説明くださる皓孝様。

 みなまで聞かなくても、正しく理解できるその説明に。




―――曖昧な笑みを返す以外にどうしろと!!





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