04・おバカ増殖キャンペーン?
口先三寸で丸め込んだところで、何の問題も無いだろう。
後は、皇子付きの優秀な側近たちの任せておけばいい。
―――これ以上は面倒見ないからな!!!
と、副官に視線を送れば、さすがに優秀な者の行動は早かった。
「では皇子。すぐにでも出国の用意をいたします」
副官が侍従たちに指示を出して、侍従たちが出ていく。
残ったのは、皇子と副官。
そして、まだ皇子に手を握られている華月。いや、ここは華月の病室だが。
「華月は、ゆくゆくはこの光明国の国家元首になるのだな」
突然かけられる皇子の問い。
「そうなれるよう、日々精進しております」
このままいけば、間違いなく華月は国家元首になるだろう。
しかし、そうです、とは言えない。
「華月が元首となれば・・・」
うん、と何かを勝手に自己解決した皇子に、いやな予感がヒシヒシ。
だが、ここで突っ込んではいけないと思う。
視線をずらして副官を見れば、副官も何かを感じたようで、お互い目だけで頷きあった。
「皇子、これ以上は華月殿のお体にもさわりましょう。出国の用意を終える前に、元首遼東様にもご挨拶に伺いませんと」
「皇子、お気遣いいただき、ありがとうございました。道中の安全を心より御祈念申し上げます」
最後とばかりに笑顔を振り撒き、副官に連れられていく皇子を見送った。
何とか皇子を追い出して7日。
仙磨の皇女殿下との見合いは上手くいったのかなぁ、と頭をよぎった。
皇子のことなど、思い出していたのがいけなかったのだろう。
体調も戻り――それほど悪いわけではなかったが――補佐官の仕事に復帰し、与えられた自室に戻れば、1通の書状・・・というか、手紙。
仕事柄、外交相手との手紙のやり取りもしていたため、特に気にすることも無くその手紙を開けた。
瞬間、激しく後悔した。ものすごく、後悔した。できれば、見なかったことにしたいぐらい、後悔した!!
が、見なければもっと後悔する内容だったので、よしとする。
「あんのバカ皇子!!!!」
しかし、文句がでるのは仕方ない・・・。
「仮病、か・・・?」
できれば、避けて通りたい。
「外交の予定は・・・」
どうせなら国外逃亡も考えたが、こんな時に限って何も無い。
今から、予定を組むことすらできない。
「諦めろってか・・・?」
せっかく追い出したのに!!
「なんでまた戻ってくるんだよ!!!!」
手紙の送り主は、あのバカ皇子の副官殿。
神経質そうな整った字で綴られた内容は、罵詈雑言が一昼夜でも続けられそうな物だった・・・。
要約。
御見合いは無事終わった。
相手の皇女殿下とバカ皇子はまとまった。
すぐにでも皇子の国に行きたいと言ったので、一緒に連れて帰ることにした。
帰り道、また光明国に寄るからヨロシク。
仙磨の皇女殿下(と書いて見合い相手と読む)とまとまったのは、予定通りだから良いだろう。
むしろ、何の問題も無い。
しかし。しーかーしー!!
「どーして結婚相手連れてここに来るんだーーーー!!!」
と、言っていても仕方がない。
打てる手は打つべきだろう。
「余計な仕事増やしやがって・・・」
手を打つため、戻ったばかりの部屋を後にした。
「いやぁんっ ほんとに綺麗ですわぁ!! 楽相の言う通りですわぁっ」
「だろう?! 華月は美しいんだ!! 湖李もそう言ってくれると思っていたよ!!」
そうか、バカ皇子は楽相って名前なのか、とか、仙磨の第三皇女殿下は湖李って名前なのか、とか。
異様なテンションのこの2人を見ながら、そんな事を考えていたのは、単なる現実逃避である。
チラリと皇子の後ろに控える副官殿を見れば、たった数日でかなりやつれていた。
まぁ、この2人を見れば、やつれた理由など考えるまでも無いのだが。
副官の手紙から3日。
花嫁となる仙磨の第三皇女殿下を連れてやってきたバカ皇子を出迎えるために港へこれば、そこには仙磨の舟が2隻停泊していた。
遅れて入港してきたバカ皇子の舟よりも立派なそれは、皇女殿下の嫁入り道具を乗せていることが伺えた。
よく短時間でここまでの品を用意できたな、と仙磨の国力を見直したが、この皇女殿下を見て納得した。
―――皇帝は一刻も早くこの皇女を国外に出したかったんだろうな・・・。
「皇女殿下には・・・」
皇子のエスコートで下船する皇女に形式通りの挨拶を、と口を開けば、それを遮る形で先ほどのセリフである。
「皇女殿下・・・」
「いやですわぁ。皇女ではなく、湖李、と呼んで下さらなきゃお返事しませんわぁ」
気を取り直して、と声をかけるが、それも叶わず。
うふふ~と何かを期待する目で見つめられ、何故か皇子もズイッと迫ってくる。
―――何なんだ!! バカ増量キャンペーン中か?!
これは多分、いやきっと、名前を呼ぶまで次に進めない・・・。
次の予定もある。
こんな所で下手に注目を集めたくもない。
「湖李様、ようこそ光明国へお越しくださいました。信津国皇太子殿下とのご婚約、誠におめでとうございます」
1歩下がって口上を述べ、軽く頭を下げれば、
「あぁんっ 華月が笑いましたわぁっ 何て美しいのかしら!! さぁ、華月、もっと笑ってちょぉだぁい」
などと、わけのわからん反応を返される。
この場合、普通ならば・・・と考えて、視界の端に映る副官が緩く左右に首を振るのを確認して、やめた。
このバカドモに、普通の反応を求めてはいけないらしい。
―――コイツラが信津を継いだら、一昼夜で崩壊しそうだ・・・。
「華月!!」
などと若干現実逃避気味に考えていれば、皇女にガシィッと両手を握られていた。
「・・・湖李様?」
引き攣りつつも何とか笑顔で名前を呼べば、
「はうぅっ 華月ぅ」
と呟き擦り寄ってくる。
―――誰か助けてー・・・。
皇子たちの後ろ(華月の正面)に立つ副官や侍従たちは視線を逸らし目を伏せ、こちらを見ようともしない。
華月の背後に控えている同僚の補佐官たちは、どう手を出していいのかわからないだろう。
本来ならば真っ先に止めるべき立場の皇子は・・・。
「あぁ華月!! 湖李ばかりではなく私の名前も呼んで欲しい!!」
さぁ!! と意気込んで迫ってくる。
―――勘弁してくれ・・・。
呼ばなければこの場から動けないだろう。
しかしっっ!!
呼べばもっと大事になる!!
バカの行動ほど予測不能で恐いものは無い。何とかこの場を切り抜ける方法を探すが、見つからない。
チラリと胸元を見れば、ガッチリと両手をホールドした皇女がスリスリとなついている。
そろそろと視線を上げれば、皇子が期待に満ちた目でこちらを凝視している。
―――覚悟決めろってか?!
できることなら、こんな覚悟は決めたくない!! が。
「楽相様・・・」
「かげつーーー!!」
ぎゃああぁぁぁぁっっ やっぱりーーー!!
恐る恐る呼んだ皇子の名。
その途端に皇女ごと正面から抱きついてくる皇子。
避けられずホールドされる華月。
――――どんな拷問だ!!!
誰か助けてくれないかなー、と不自由な体をそのまま顔だけ動かすが、相変わらずこちらを見ない信津のカタガタ。
背後の同僚たちまでは見れないが、期待はできない、というかしていない。
仕方がないので、助けは早々に諦めて自分で切り抜ける。
「皇子、皇女、お放しくださいませ」
動揺を悟られないように平常と変わらない口調とトーンで言うが、バカ2人はイヤイヤと首を振る。
まぁ、想定内。
「信津国皇太子楽相様、仙磨国第三皇女湖李様。我国へのご来訪賜り心より御礼申し上げます。つきましてはささやかではございますが、宴の用意ができております。御移動くださいますようお願いいたします」
硬質な口調で形式に乗っ取った口上で告げれば、2人揃ってピタリと停止する。
いくらバカでも皇族。
そのへんの教育は条件反射で行えるぐらいしっかりされているだろう、と思った通り、やっと自分たちの身分を思い出したらしい2人にホット息をつく。
さっさとはなせ~
「光明の皆様。此度は急な訪問にも関らずこうしてお迎え下さり、ありがとうございます」
「滞在中にこの光明国のこと、色々お教えいただきたく存じます。よろしくお願いいたします」
停止して数秒、ススッと2、3歩後退し、今までのバカさ加減が嘘のように礼を返される。
皇族としての気品に溢れ、優雅な所作でとられた礼に、やっと他の者達も通常通りに動き出す。
信津国の副官たちも、深々と頭を下げる。
まぁ、こっちは華月に対する礼だろう。アレ以上自国の次期皇帝のバカ姿を晒したくは無かったはずだ。
勿論、既に手遅れなのだが。
「どうぞこちらへ」
案内役の同僚が皇子達を先導していく。
せめて部屋に放り込むまで大人しくしてろよ~と思ったのもつかの間。
皇子達より2歩下がった所に居たのがいけなかったらしい。
「いやですわぁっ 華月はどぉしてそんな所にいますのぉ?!」
言いながら右腕に抱きついてくる皇女。
「そうだぞ、華月。一緒に歩こう」
言うが早いか、左側の肩を抱いてくる皇子。
―――婚約者の前で他の女の肩を抱くな!!!
と怒ったところで無意味だと悟った。
その婚約者でさえ、華月に抱きついているのだから。
案内役が伺うような視線を寄越すのに、ゆるく頷いてサキを促す。
いつまでもここには居たくない。突き刺さるような視線的な意味で。
「楽相から華月のことを聞いて、会えるのを楽しみにしてましたのよぉっ あたくし、美しいものがだぁいすき。華月は本当に美しいわぁ」
ほぅ、と熱っぽい息を吐きながら見上げてくる皇女。
「だろう、湖李!! 本当に華月は美しいんだ!! そのうえ、次期国主で頭もいい」
ナゼか自慢げに言う皇子。
「まぁっ 才色兼備ですのねぇっ 素晴らしいわぁっ さすがあたくしの華月ね!!」
「あぁ、私の華月は最高だ!!」
―――勝手な所有権を声高に叫ぶなぁ!!
両側で繰り広げられるバカな思考回路を放置し、無言で足を進めた。




