03・押してダメなら?
さて、この無能バカ皇子をどうするか、が目下の課題であるわけだが。
「皇子、御国に城を賜っても私はそこには参れません。それよりもまず、城は見舞いではございません。私を心配して見舞ってくださるのなら、一言“養生しろ”とおっしゃってくだされば良いのです」
「そうなのか?」
「そうです」
本当はそれすら要らないが、こちらが妥協しなければ収まらないだろう、と口にすれば、以外にも皇子は納得を見せた。
これなら上手くいくかもしれない、と喜んだのもつかの間、やっぱり無能バカだった。
「では、華月が治るまで、毎日言いに見舞うことにしよう」
「いりません。皇子は当初のご予定通り、次国へお渡りください」
速攻で拒否を口にする。
何なんだ、このバカはっ!!
本来なら、皇子はすぐにこの光明国を出国し、次の国に外遊するハズだったのだ。
次は隣国、奉武国に行く予定だと聞いていた。
「私はこの光明の制度をまだ学んではいない。だから、奉武へはまだ行けないよ、華月」
「では、皇子にご説明申し上げるのに適した者をご用意いたしましょう。わたくしの為に皇子のご予定を狂わすわけには参りませんので」
だから、さっさと出て行け、と思うが、やはり皇子には通じない。
「私は華月から学びたいのだよ。だから、私のためにも早く元気になってほしい」
「私よりも適した者が多数おりますのでご安心ください。このあと、ご希望されていた現地視察も予定通りご案内いたします。どうぞ皇子、私の事はお気になさらずお出かけください」
有無を言わさず退室を促せば、副官であろう者が側近を促し皇子を退室させた。
「華月殿、数々のご配慮頂きありがとうございます」
退出を見届け2人になれば、そう言われた。
やはり、皇子以外は優秀らしい。
「いえ、副官殿。当然の対応ですのでお気になさいませんように。当方といたしましては、このまま皇子が出国してくださればありがたいのですが?」
「はい、我々も同じです。しかし、ご存じのとおり、皇子が・・・。華月殿にいたくご執心でいらっしゃるので、どうしたものかと・・・」
よほど困っているらしい。本人にそれを訴えるのだから。
側近だけでは、もうどうしようもないのだろう。
「あくまで皇子は光明の国賓でいらっしゃいますので、私もそのようにご対応させていただきます。私には何の他意もございませんのでご安心ください。今後ですが、私の養生中に皇子には出国していただきたく、そのように段取らせていただきたいのですが、副官殿のお考えをうかがっても?」
いくら華月がそのように動いても、皇子側がそれを拒絶すればどうすることもできない。
皇子側からの協力が必須なのだ。
状況理解ができずにゴネているのは皇子本人だけなので、この副官が協力してくれれば早々に片付くだろう。
「当方もそうしていただけると助かります。出来れば、本国へ此度のコトを報告したくはありません。うやむやのままでこのまま終わらせていただきたい・・・。実は今回の外交、皇子ととある国の皇女殿下との見合いのためのものでして。このまま皇子が華月殿を望まれますと、我が国の外交にいささか問題が生じます。皇女殿下はじめ、先方に知られるわけにはまいりません」
なるほど。皇子が知らないだけで、これは全て仕組まれた外交だったというわけか。
副官はじめ、側近たちが必死だった理由が分かった。
そりゃぁ、見合いに行くのに“女”は連れて行けないだろう。
「皇女殿下、ということは、仙磨国の第三皇女殿下ですか? まぁ、あの国に知られるわけにはいけませんね・・・。仙磨には、いつ入国のご予定ですか?」
「どうして、仙磨だと・・・?」
確定事項として発した発言に、副官の顔色が変わる。
どうやら、機密事項だったらしい。
「簡単なことです。副官殿は、皇女、と申されました。現在皇族制を施いているのは貴国を除いて7ヵ国。そのうち皇帝が政的実権を握っているのが4ヵ国。この縁談で外交問題に発展するのなら、この4ヵ国のうちのどこかでしょう。そして、貴国との政的バランスと皇子に合う未婚の皇女がいる、と考えれば、消去法で残るのが仙磨になります。ご安心ください。他の者には言いませんので」
皇子がどこの国の皇女と見合いをしようが結婚しようが華月には興味もないし、仙磨がどこの国と姻戚関係を結ぼうがこの光明国には一切の影響はない。
つまり、わざわざ報告する必要は無いのだ。
「その頭脳に脱帽いたします・・・。華月殿のご推察通り、仙磨国第三皇女殿下との見合い話が進められております。ただ、これは我皇子と皇女殿下はご存じではありません。あくまで外交先でお互いが見初めあっていただくことが重要なのです。仙磨には、5日後の夜会を指定されておりますので、遅くとも明後日の早朝にはこの国を出国したいのです」
この光明国から仙磨国まで、直接行けば1日半もあれば着くが、外交としている以上、目的の仙磨まで直接向かうわけにはいかないだろう。
いくらこの優秀な副官が采配しても、無理が生じてくるのは目に見えている。
―――さて、どうするか・・・。
「当方といたしましては、本日の視察が終われば皇子のご希望に沿ったという形は整います。もともと皇子にはそれほどの興味も無かったように見受けられますので、後は資料だけお渡しすれば双方の体面は保たれ、これ以上は必要ないかと思われます。問題は、皇子にご納得頂きどのようにして出国していただくか、ですが・・・。副官殿に何かお考えが?」
この副官とは完全に利害が一致しているので、下手に隠し立てするのは得策ではない。
こちらの内情を告げれば、心得ているとばかりに考えを述べる。
「皇子が滞在を決めたのは、華月殿と一緒に過ごすことを望まれたからです。ですので、このまま華月殿が臥せっていただければ、あとはこちらで」
要するに、このまま病室に引き篭もっていればいいらしい。
「では、今晩から熱でも出しましょう」
クスリと笑って了承すれば、急に表が騒がしくなって会話を止める。
何事かと副官と顔を見合わせた瞬間に、いきなり開かれる扉。
「華月!!」
そこに立つ、皇子の姿。
この無能、人がせっかくお膳立てしてやった視察を、サボって戻ってきやがったらしい。
「まぁ、皇子。いかがなさいました?」
腹立たしさを笑顔に隠して迎えてやれば、にへら、と笑って近づいてくる皇子。
「どうしてオマエが華月と居る?」
傍らに腰かけている副官に向かって言う皇子に、手を伸ばして副官とは反対側の隣に呼べば、いそいそと寄ってくる。
副官がチラリと睨むが、視線で抑える。
―――私だってやりたくないんだ!!!
「副官殿とは、今後の事を少々。それよりも皇子、視察官の者が何か無礼でも? 早いお戻りのようですが・・・」
「いや、大事ない。華月が心配だったので戻ったのだ。早く治して、華月が案内してくれ」
やっぱりコイツは馬鹿で無能だ・・・。
どこの世界に視察すっぽかして女の所に来る皇子がいるんだよっ!! と怒鳴りつけたい衝動をグッと抑えて相手をする。
「まぁ、身に余るお言葉ですわ。しかし皇子、私の完治にはまだ暫くかかります。ですので、私の事は捨て置き、どうぞ奉武へとお渡りくださいませ」
視察する気が無いなら早く出国しろ、と直接言えたらどんなにいいか!!
「皇子は、皇帝になられる尊い御方。このように1ヵ国に留まっておられてはなりません。多くを見、学び、広い見識を持った皇帝へとなられませ。良い皇帝の治める国は豊かな国になりましょう。そのためにも皇子は、多くの国に渡り、多くのものを見なければなりません」
皇子の手を取り、緩く握りながら、ゆっくりとした口調で言う。
「今回の外交も、既に他国に知れておりましょう。お迎えするために、多くのモノが動いておりましょう。皇子がそれを無駄にするようなことをされてはなりません。今回のご予定を全てつつがなく終わらされ、それでも我が国の制度を、と望まれるのでしたらもう一度足をお運びくださいませ。その頃には、私も完治しておりましょう」
押してダメなら引いてみる。
正論かまして黙らせて、受け入れ意思を見せてやれば、面白いぐらい目論見通りの反応が返ってくる。
「私が賢帝となれば、華月は喜んでくれるのか?」
「もちろんです」
「また、来ても良いのか?」
「お待ちしております。その折には是非、私がお相手を」
緩く握っていた手を、きつく握り返される。
「此度の日程がすべて終わった後、改めて華月に会いに来る」
「きちんと当初のご予定を終了されてからでしたら」
何かを決意したような顔が気にかかるが、それよりもさっさと出国してほしいので、気付かなかったことにする。
5日後の仙磨国で予定されている、夜会と言う名の皇子の見合いが上手くいけば、もう皇子はここへは来なくなる。
要するに、今、この光明国から一刻も早く追い出しさえすれば良いのだ。




