02・手に負えません
自分に絶対の自信を持ち、国家元首になるという夢を現実のモノにしつつあった華月。
その最凶の華月の死因が自殺だと知って、私は半ばパニックに陥った。
―――と、とりあえず落ち着け私!!
華月が死を選ぶきっかけとなった事柄を見つけなければならない。
死ぬ、5日前は普通に最凶だった。
4日前も、そう。
3日前も、そう。
2日前、に国賓が来た。
隣国―――といっても、海を挟んだ向こう側だが―――の皇子様が外交を兼ねた外遊として来たらしい。
元首自らが出迎え、皇子と年の近かった華月と数人の補佐たちが同行した。
外交とは名ばかりの、頭のあまりよろしくない皇子に華月は欠片の興味を示すことは無かったが、皇子は違っていたらしい。
翌日には出国する予定だったが、外交として正統な理由を付け、また、光明の政治制度及び教育制度にいたく関心があるとのたまい、光明の滞在を望んだ。
滞在中の説明役に、ちゃっかり華月を指名して。
そして、自殺の前日。
皇子が滞在の理由に使った、政治制度と教育制度の一通りの資料片手に数人の補佐とともに皇子の元を訪れた華月は、皇子の無能さに辟易としていた。
相手は国賓で今は仕事中だと自分に言い聞かせ、その日は何とか無事に終わらせることができた。
翌日、同じメンバーで皇子のところに行けば、何を勘違いしたのか、皇子にドレスを贈られた。
視察の衣装だと贈られたそれは丁重にお断りし、現地の責任者に連絡を取るために出て行こうとすれば、突然皇子に襲われた。
助けに入ろうとした補佐たちを目線で止め―――下手に騒いで外交問題に発展させることを危惧したのだ―――自身は開いていた窓から身を投げた。
自分から落ちたのだから外交問題にはならいし、事故として処理すればいい、と冷静に判断した結果の行動だった。
実際、高さは2階。
本当ならば大した怪我もすることなく、打ち身程度の予定だった。
間違っても死ぬことは無いはずだったのだが、たまたまそこを通りかかったヤエ様と衝突したらしい。
死神様に触れれば、その魂は強制的に肉体から切り離される。
―――ヤエ様のばかー!! 避けろよ!!
などと大声で叫んでも、現実はかわらない。
こんな、色んな意味で最凶の女の人生なんてやだよぅ、と言ってもやっぱり現実は変わらない。
くそうっ 次に会ったらヤエ様に絶対文句言ってやる!! と固く誓って、華月の肉体と私の魂を同化させる。
だんだんと鈍痛が襲ってきて、同化が上手くいったのだと知った。
「あぁ、華月・・・。良かった」
意を決して目を開ければ、かけられた言葉。
この声は元首だな、と当たりをつけて視線をずらせば、寝かせられていたベッドの横に腰掛ける元首の姿が確認できた。
柔和な笑みの初老前の男性。
一見穏やかそうなこの人が、この光明国のトップ、国家元首の遼東様だ。
「遼東様、ご心配をおかけしました・・・」
そっと体を動かしてみる。
鈍痛はあるが、大したことなさそうだ。
「良い。事は他の者達から聞いている。国交問題を危惧したのだろう?」
苦笑とともに返され、本当にありのまま聞いたのであろう事が伺えた。
「腐っても国賓でしたから・・・」
溜息とともに言えば、遼東様はまた笑った。
「華月で助かった。他の者なら、こうも機転は利くまい。しかし、華月には無茶をさせたな・・・」
痛ましそうに見られるが、たかが2階の高さだ。どうと言うことは無い。
―――まぁ、どこぞの死神様のセイで華月は死んでしまったわけだが。
「大したコトはないのでご心配なく。怪我も打撲程度でしょう?」
鈍痛はするが激痛はないので間違いないだろう。
それよりも、気になってたことがある。
「それより、皇子はどうなりました? 逃げ帰ってくれていると大変有難いのですが」
これは、華月の本音だ。
まぁ、私にしてもその方がありがたいわけだが。
―――厄介事はゴメンなんだ!!
が、遼東様の顔は私の希望を打ち消した。
思わず舌打ちしそうになったが、堪えた私は偉い!!
「皇子は今回のこと、全面的に非を認められ正式に謝罪された。いたくご心配下さり、目覚めたら知らせるように、と言われている」
「バカかっ 考えろよっ 認めるなよっ 謝るなよっ だっから無能は嫌いなんだ!!」
思わず口をついた罵詈雑言は、遼東様も同意してくれた。
「謝罪は受け入れていない。華月の不注意で、退出時に誤って転落、で押し通す。その場に居た補佐たちにも、それで通すように言ってある。それで良いな?」
「当然です。でなければ、何のために落ちたのかわからないではないですか。あぁまったく。さっさと逃げろよ無能め」
その無い脳味噌使って考えろよとか色々文句を言っていたら、遼東様に頭を撫でられた。
気を静めて、遼東様に向き直る。
「皇子には私から“御詫び”いたします。上手く処理しますから、お任せ下さい」
「あぁ、その点は心配していない。任せたよ、華月」
もう一度、頭を撫でて出て行く遼東様。
皇子を呼びに行ったのだろう。
さて、どうしたものかと頭を悩ませる。
華月であれば、言葉通りに上手く処理するのだろうが・・・。
ヤエ様のばかーーーーー!! と大声で(心の中でねっ)叫んでみても、名案は浮かばない。
やっぱりここは、口八丁で誤魔化すか、と華月の知識を引っ張り出す。
皇子は、華月が興味すら引かなかった無能だ。
それに加え、国力はこの光明国の方が勝っている。
一応、一国の皇子ならば、国交に支障をきたす事はしないだろう。
それすら理解できない(わからない)無能を野放しにはしていないだろうから、優秀な侍従か副官が付いているハズだ。
華月の記憶からそれらしい人物を探せば、どうやら皇子以外は優秀らしい。
これならば何とかなるだろう、と思ったところで控えめなノックが響いた。
「どうぞ」
声をかければ、ドアの向こうには皇子の姿。
「あぁ、華月。よかった・・・」
―――呼び捨てかよっ!!
ベッドの横まできた皇子に続いて側近たちも近づいてくる。
チラリと側近をみれば、そこに安堵の色。この側近たちは、華月の行動を正しく理解している。
「皇子、ご心配をおかけして申し訳ございませんでした。誤って転落などお恥ずかしい限りでございます・・・。どうか、このような失態はお忘れくださいませ」
一応、遠回しに言ってみる。
いくら無能でも皇子と言う地位に居るのなら、裏の意味を正しく理解するハズである。
いわく、皇子が行った“乱暴”は無かったことにしてやるから、そっちも今回の事は忘れろ、である。
こっちは事を荒立てることを望まない、と言っているのだ。
正しく理解した側近たちは無言で華月に頭を下げる。
―――が。やはり皇子は無能だった!!!
「何を言う、華月。悪いのは私だ。私が・・・」
「皇子」
言い出す前に止めろよっ 側近!! と思いながら皇子の言葉を遮る。
「私が、誤って、転落したのです。その場に居合わせた者すべてがそう証言しましょう。勿論、皇子の側近の方々も」
チラリと側近に視線を送れば、涼しげな顔で言う。
「そうです、皇子。補佐官華月殿は誤って転落。元首殿も居合わせた他の補佐官達もそれを認めております。皇子がなさるのは、華月殿を見舞うことでございます」
それ以上はするな、と言う側近に、皇子はとんでもない方向に向かった。
「そうだな、では華月に見舞いを。我が国に城を用意しよう。海を渡る船も、もちろん使用人も付けよう。衣裳も華月の好む物を。あの衣裳は気に入らぬようだったから、今度は華月の好む物をたくさん。華月、後は何が欲しい?」
―――取り敢えず、オマエを殺せるヤエ様のカマが今スグ欲しい!!!!!
まぁ、真剣に思ったのはご愛嬌だ。
このぐらいの事は許されるハズ。
ほら、思考は自由だし、ね。




