01・最凶の女
ドシンッという衝撃で、目的の肉体に着いたのだと知った。
でも、すぐに目を開けたらパニックになるのはこの十数年で学習済み。
―――さて、今回はどんな人生になることやら。
この肉体の情報を確認する。
華月、23歳、女。
お。割と年が近い。5歳の女の子だった時もあったからなぁ。これは嬉しい。
この国は、光明の国というらしい。
王族は存在せず、国家元首が政治の頂点に立ち、議員達20人で国を動かしている。
議員になるのは特別な試験に合格した者達で、任期は10年。
その間にも次々次期議員候補が育っていくというシステムらしい。
国全体の貧富の差は大きくなく、国民全てが教育を受けることができ、国民全てに議員試験を受ける資格がある。
日本のように四方を海に囲まれた島国だが、国土は日本の約3倍で人口は約半分。
習慣も日本と大して変わらず、文明も戦後ぐらいの発達具合だ。
国家も安定し、今回は比較的楽そうだ。
生活習慣がまったく違うと、慣れるのに結構苦労するんだよね。
一通りの国の仕組みを確認し、次は私がこれから生きていく“華月”に意識を向ける。
―――今回は楽が出来る!! と思った数瞬前の自分を蹴飛ばしてやりたい・・・。
華月は、この光明の国で生まれ育った今年23歳になる女。
この国では18歳が成人なので、成人してから5年ということになる。
生家はこの国で大半を占める中層の商家で、主に布地を扱っている。
働き者の両親と、2歳年下の弟と5歳年下の妹の5人家族。
特別裕福ではないが、貧しくも無い、不自由の無い平穏な生活を送っていた。
――が。華月はそんな平穏な生活に満足できていなかった。
人並み外れた優秀なその頭脳で、国を動かしてみたくなったのだ。
目指すのは、国家元首。
世襲制ではなく完全実力主義なので、実力さえあれば、頭脳さえあれば男女関係無く国家元首の地位に立つ事ができる。
議員試験の受験資格は成人である18歳。
ある一定の頭脳さえあれば老若男女問わずに何回でも受験できるが、この時代、まだ女が受験したことは無かった。
貧富の差が無く、国家が安定していれば、総じて女は家庭に入り子供を育てる。
夫を助け家庭を守り子を育てるのが女の幸せ、という、古い時代の日本のような考えが今の光明国の常識になっている。
家庭に入り子供を育て、夫に養ってもらう生活が女の最高の幸せだ、と両親に見合いを勧められた華月は生家を飛び出した。
幸い、華月の頭脳を評価してくれる恩師が後ろ盾になってくれたおかげで生家との縁を切らずに済んだが、生家に戻ることはしなかった。
試験に合格すれば次期議員候補としての特別な教育を受けるため、官舎に入ることになる。
そのため、自分に絶対的な自信のあった華月は生家に戻る必要を感じなかったのだ。
当然のように試験には合格した華月。
だが、問題が起きた。
官舎には、女性を受け入れる体制が整っていなかったのだ。
初の女性受験者で合格者だったため、受け入れ体制が整わなかった。
しかし、だからといって合格者を官舎以外に住まわすことは出来ない。
一度例外を作ってしまえば規則が成り立たなくなってしまう。
男女関係無く官舎で生活させよう、追々体制を整えよう、としたのだが、ここで問題になったのは華月の容姿。
官舎という隔離された空間で、次期議員候補という禁欲的な生活を強いられている男達の中に入れるには、華月は美しすぎた。
漆黒の豊かな髪にコバルトブルーの大きな瞳。意志の強さを表すその顔はキツめだが整い、均等の取れたグラマラスな肉体は男の劣情をこれでもかと刺激する。
所謂エリート達から性犯罪者を出すわけにはいかないと、苦肉の策として官舎の最上階を女性専用として、そこに華月は迎えられた。
なぜ、苦肉の策か。
そもそも、最上階は最高成績者に分類されるのクラスの者が住む所だったのだ。
官舎内に於いても完全実力主義で住む部屋が決められている。
八階建官舎の最上階から下に降りていくにつれてオチコボレとなっていく。
もちろん、頭脳だけではなく、判断力、応用力、その他で総合的に判定しクラス分けされる。
その最高クラスの候補者が住む最上階を与えられたのだ。
最上階から下ろされた者や元々下の階に居た者たちからの攻撃が凄かった。
不当な非難や嫌がらせ、面と向かっての罵詈雑言。
「出て行け」は挨拶かというほど言われ続けた。
しかし、華月はそれに傷付き泣くような可愛らしい女ではなかった。
無能な男ほどよく吠える、と真正面から喧嘩を売りに行ったのだ・・・。
結果、実力の差を見せつけ男どもを黙らせた。今では、誰一人として華月に文句を言うものは居なくなった・・・
とりあえず、ここまで確認して突っ込みを一発。
―――喧嘩売るなよっ 男黙らすなよっ 逆ハーか?! むしろ女王様か?! 何だよ華月!!
ここまでがやっと18歳。
華月が死んだ23歳まであと5年分。一気に確認する気が失せた。
が、早く確認して華月の肉体と私の魂を同化させないと大変なことになる(らしい)。
泣く泣く続きを確認していく。
しばらくは平穏な日常が続いた。
特別な教育を受け、議員として必要な知識を詰めていく。
華月にはとても充実した日々だったが、また波風が立つ。
最有力候補生は、現職議員の補佐として実地訓練を受ける。
優秀なものから引き抜かれ、平均5年ぐらいの実習で後を譲られる。
候補生の格付けは、ある一定の基礎知識を習得した者に定期的に行われる試験によって決定され、これは補佐として実習に入った者も例外なく受けなければならない。
格付けが落ちれば、容赦なく補佐から外される。
華月は、初めての試験で最高位の得点をたたき出した。
この結果に慌てたのは元首を含む議員達。
最長10年の任期は、後継が育ち、譲るに値すると認められれば任期内であっても辞任することは可能だが、自分の補佐よりも優秀な人材を無視することは出来ない。
議員1人につき補佐は2人までしか付けることができない。
そのため、自分より優秀な者に何時取って代わられるかもしれない補佐たちの日々は正に戦争だった。
そんな中に華月は、最年少で女で最高実力者として格付けされた。波風が立たないわけがなかった。
議員達は我先にと華月獲得に走った。
1人しか補佐を付けていない者はすぐに名乗りを上げ、既に2人付いている者は調整してまでも欲しがった。
収拾がつかなくなった時、意外な所から声が上がった。
経験不足を考慮しても現職議員よりも優秀な華月は、元首の下で学ぶのが相当である、と元首自らが宣言したのだ。
こうして、華月は元首補佐として政治に携わることになった。
この時、華月20歳。
それから2年は何事も無く・・・はなかったが、華月は気にしていなかった。「無能な人間に用はない」を口癖に、あらゆる方面からの悪意をいなしていた。
自分が認めることの出来ない無能者は、たとえ現職の議員が相手であろうと正面から衝突した。
そのかわり、認めた相手には最上位の礼節を持って接した。
そんな最凶な華月が今回死んでしまった原因は・・・。
―――自殺だった・・・。




