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21・望んだ生活


 旧フリーリア領。

 今は国家支援を受け、オーストリッチの主産業として確立されたアイサヴィー鉱山。

 王妃の私領ということもあり、旧フリーリア領は1つの都市として発展していた。

 王妃の名をそのまま領地の名に使用することはできず、今では“女神の地”パレディアンナと呼ばれている。




「えぇいっ テオは早く王城に戻りなさい!!」


 以前は砦として使用されていた塔の1室。

 以前フリーリアがこの地で暮らしていたころに与えられていたこの部屋は、今では執務室になっている。

 そこで、仕事をしているのだが・・・。


「フリーリアと一緒になら今すぐにでも戻ってやる」


 偉そうにソファに踏ん反りがえるテオに何度目かわからない声をかければ、こちらも何度目かわからない返事が返ってきた。


 テオが王位に就いて10年。


 初めの1年は、国内の復興と平定に奔走した。

 自治領区となってオーストリッチに吸収された北、旧ゴーバ国の人員的措置には特に気を遣い、今では要職の半数近くがゴーバ出身者だ。


 次の1年は国交に力を入れた。

 国庫を潤すには国交を確立させなければならない。

 これには、南の大国ホージュ国王ニトジム陛下がご助力くださった。

 今では、海の向こうの国との繋がりもでき、国交に何の憂いもない。


 3年目には、荒野の国と言われていたオーストリッチも、大国と呼ばれるほどに繁栄した。



―――そして・・・



「父上、早く戻らねば、またカザムのお小言をもらいますよ」


「うるさい。ならばゼノが先に戻って仕事しろ」


 机の上に積まれた書類をトントン、と揃えながら言うのは、テオとよく似た顔立ちの男の子。

 7歳になる、ゼノカ・オールド・オーストリッチ。

 フリーリアとテオの子で、第一王子である。


「残念ながらお父様。お兄様はわたくしとここでお母様のお手伝い中です。王城へはまだ戻ることなどできませんわ。お父様だけお戻りになったらいかがですか」


「フィア・・・」


 フリーリアの横で、押印の手伝いをしながら言うのは、ゼノカよりは優しい顔立ちの女の子。

 第一王女のフィーカ・オールド・オーストリッチである。


 ゼノカとフィーカは双子だ。

 便宜上フィーカを妹としているが、ゼノカよりも性格がキツイため、フィーカの方がしっかりして見える。


 猫可愛がりしている愛娘の辛辣な一言に、さすがのテオも項垂れる。


 定期的に訪れるパレディアンナ。

 王都から1日もかからない距離でも子供たちにとっては小旅行で、小さなころから必ず付いてくる。

 初めの頃は中庭で駆け回っていた子供たちも、5歳の頃からはこうして仕事を手伝うようになった。

 左右に腰かけ一生懸命手伝ってくれる子供は可愛いのだが、可愛くないオマケが1人、こちらも必ず付いてくる・・・。


「テオ、ゼノもフィアも言っているでしょう? 早く王城に戻って仕事しなさい。国王不在なんて、良いことじゃないわ」


 いくら国内が落ち着いているといっても、国王は暇ではないのだ。

 毎日政務は嫌と言うほどある。

 そのほとんどが宰相はじめ臣下たちの手によって処理されているといっても、最終認可は国王であるテオがしなければならない。

 決して、ここでこうしてウダウダしている時間は無いはずだが・・・。


「ゼノとフィアだけフリーリアと一緒なんてズルイじゃないか・・・」


 オマエは子供か!! と怒鳴りつけたくなるのをグッと堪え・・・・「「父上(お父様)は子供ですか?!」」


 母の心子知らず(用法違うね!)。

 何の躊躇いもなく声を揃えて言ってくれる我が子たち。

 思考がフリーリアに似ている、とジニムに笑われるのはこういったところだろう。


「ここはフリーリアとの思い出の地だ。ここでもう一人作るまで帰れるかっ」


 この10年で、分かったことがある。


「父上。父上が母上の事をこの上なく愛しておられるのは十分存じておりますが、子供の前で・・・というか、子供に宣言するのはやめてください」


「お兄様、無駄ですわ。お父様の、お母様溺愛病は年々悪化の一途を辿っております」


「うるさーい。お前たちも弟と妹欲しいだろう?」


「やめて、テオっ!!」


 そう、テオが物凄く恥ずかしいヤツだというコトだ・・・。


「フリーリア、もう2人ぐらい子供欲しいだろう? ゼノとフィアの弟と妹、産もう」


 いくら、この部屋に家族4人しか居ないといっても、我が子の前でする話ではない。



―――が、子供たちも慣れたもの。



「あら、お父様はわたくしたちだけではご不満ですの?」


「母上が身籠られれば、お2人の時間がもっと減ってしまいますよ?」


 ツンッと可愛らしく拗ねてみせるフィーカと、ニヤリと笑うゼノカ。

 親子の会話としてどうかと思わなくもないが、これもいつものことだ。

 こっちに飛び火さえしなければ良いと、手元の書類を裁いていく。


「フリーリアー。子供たちがイジメル~」


「ちょっ テオ!!」


 がばぁっと後ろから抱き着かれ、サインしていた手元が狂う。

 いつの間に移動したんだ・・・。


「ゼノ、フィア、ほどほどにね。こう邪魔されては、いつまでたっても終わらないわ」


 ぎゅうぎゅう抱きしめてくるテオの頭を撫でながら我が子に言えば、


「申し訳ありません、母上」


「ごめんなさい、お母様」


 と素直な謝罪。

 テオがボソリと、贔屓だ・・・などと言っていたが、こっちは無視を決め込む。


 “女神”が子供を産むことは、臣下たちの間で賛否が分かれた。

 “女神”が子を産めば、ただの“人”になってしまうのではないか。

 “女神”が産んだ子供は、“神”なのか“人”なのか、と。


 テオに側室を迎えさせ、その側室に子供を産ませればよいと、女神は女神のままで、との声が上がっていた。


 しかし、テオが認めなかった。

 側室は1人も迎えぬと宣言し、王家の血に女神の血が入ることに何の問題があるのか、と臣下たちに詰め寄った。

 誰1人としてそれに決定的な答えを返すことが出来ず、結果、こうしてフリーリアがテオの子供を産んだ。


 生まれた子供は双子。それも、男女の双子。

 この世界では、男女の双子は双神の生まれ変わりとして喜ばれる。

 “女神”の子供はやはり“神”だったと、国中をあげて祝福された。


 ゼノカとフィーカにはフリーリアのような特別な能力はなかったが、その代わりなのか、2人とも飛び抜けて頭が良かった。

 王族として求められるモノをこの年にしてほぼ完璧に習得している。

 そして、身体機能にも恵まれている。

 騎士であるテオの遺伝子か、ゼノカもフィーカも剣の腕に優れている。腕力の差から扱う剣の種類は違うが、2人ともとても強い。

 同年の子供たちとは比べ物にならない才能で、これだけで“神の子”として周囲にいわしめている。


 実際、ほんの少しの努力で最高の結果を叩き出す2人は、まさに神の子だといえる。


 そんな可愛い我が子2人と、誓約通りフリーリアのみ愛するテオに囲まれた生活は幸せなのだろう。

 一国の王妃として、豊穣の女神として過ごしていく日々。

 何不自由の無い生活。

 当初求めた、穏やかで平和な日常。

 自由は制約されているが、ほぼ希望通りの生活が送れてる。



「ゼノ、フィア。第三鉱山まで、馬で散歩に行きましょうか」


 一通り書類整理を終え、一息つくために子供たちを誘う。

 今日は朝らずっとこの執務室に篭っていたため、子供たちも退屈だっただろう。


「「「フリーリア(お母様)(母上)は乗っちゃダメだ((です))!!」」」


 綺麗な三重奏。

 この過保護ぶりは間違いなくテオの教育の賜物だろう。

 母親に対する反応としてはどうかと思うが、これも今更だ。

 テオはもちろんゼノカとフィーカも、その運動神経で難なく馬を乗りこなす。

 フリーリアも練習しようとしたのだが、テオと子供たちにやめてくれと懇願されたため、未だに1人で馬には乗れない。

 馬の背にまたがることは出来るのだが、走らせ方がわからないのだ。

 私は多分乗れるだろうが、フリーリアに経験がないため、下手に挑戦することは出来ない。



「テオ、乗せてって」


 にっこり笑顔でお願いすれば、


「お母様、わたくしとご一緒しませんか?」


「母上、わたしがお乗せいたしますよ」


 子供たちから可愛いお誘い。


「ダメだっ フリーリアは俺と同乗!!」


 真剣に子供と張り合う父親テオ

 なんだかなぁ、と笑ってしまう。


「ありがとう、ゼノ、フィア。今日はテオにお願いするわ。今度、一緒に遠乗りに連れて行ってね」


「「はい!!」」


 ぎゅうぎゅうと両側からくっついてくるゼノカとフィーカの頭を撫でて、


「じゃぁ、ジニムに散歩に行くと知らせて、ポトスとギルセキに馬の用意を頼んできてくれる?」


 おつかいをお願いする。

 フリーリアには素直な子供たちは、すぐに部屋を出て行く。



「ゼノもフィアも、フリーリアが好きだな」


「そう育てたのは、テオでしょう?」


 何を今更、とテオに言う。

 フリーリアを大切に、フリーリアを悲しませるな、と子供たちを教育したのはテオだ。


 テオ自身、母親を知らないまま育った。

 先王は数多くの側室を迎えていたが、それでは飽き足らず下女にも手を出すほどの好色だった。

 テオの母親は身分が低く、側室にさえなれない身であったと聞いている。

 王城で母親を知らないまま育ったテオ。

 だからなのか、テオは頑なに側室を拒む。

 そして、子供たちには母親を大切にしろと教えた。


「素直な子たちだもの。テオの教えをちゃんと守っているのよ」


「俺も大切にしろ、と教えるべきだったか・・・」


 真剣に言うテオに笑った。

 子供たちは、決してテオを大切にしていないわけではないし、敬っていないわけでもない。

 国王としてのテオを尊敬しているし、父親としてのテオが大好きだ。

 誰に似たのか、愛情表現が捻くれているだけで・・・。



「おかぁさまぁー!!」


「ははうえぇーー!!」


 外から聞こえる子供たちの声。

 窓から見下ろせば、手綱を片手に大きく手を振っている。


「用意ができたみたいね。行きましょう?」


 手を振り返すことで子供たちに答え、テオと一緒に外に向かった。







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