20・君臨してやろうじゃないか
「カザムとマクシもそれが良い、と言っている。今更、誰もフリーリアに文句は言わない」
何とか説得しようと説明するテオから出された名前に、ピクリと反応する。
「宰相と神官長が・・・?」
「あぁ。昨日の民たちの反応を見て決めたらしい。国王の名よりもフリーリアの名を呼ぶ声の方が多かっただろう? 既にフリーリアは民にとっては神なんだ」
「豊穣の女神パエラは、全ての人の母であらせられますから」
テオの説明に、ニトジム陛下の声がかかる。
ホージュ国では、当たり前の一種の宗教論だ。
「ニトジム陛下のおっしゃる通り、豊穣の女神は全ての母だ。そして、フリーリアは豊穣の女神だ。
国王はただの人であるから、女神に忠誠を誓って、民と同じように神が地上に降りたもうた奇跡に感謝しよう、と」
そうすれば、このオーストリッチは女神を戴く国として益々栄えるだろう、と言うテオ。
思い返すのは、昨日のバルコニーでのお披露目。
あまりのショックでハッキリとは覚えていないが、確かに民はフリーリアの名を呼び、女神と称えていたような・・・?
そして、それを見ていたカザムとマクシがテオに余計な入れ知恵をした、と・・・?
「もともと俺はフリーリア以外の女はいらないし、フリーリアを裏切る事もない」
だから、何の問題もないだろう? とテオは言うが・・・。
―――大ありだ!!
ただのテオのワガママだと思っていたのに!!
まさか、宰相であるカザムと神官長であるマクシの差し金だったなんて!!
この二人が絡んでいるなら、もはやコレを諌める存在は皆無ということ。
二人に対して沸々と怒りが沸く。
一度王家に対して不信感を持った民たちの心を、もう一度王家に向けるのは難しい。
では、どうやって王家の威信を回復させるか。
それには、王家と民との間に、同じ方向を向かせるための緩衝剤を挟めばいい。
共通の敵でもいいし、味方でもいい。
一番良いのが、同じく縋るもの。
王族を、民と同じ目線に落とすもの。『神』という存在。
それはわかる。理解もできる。道理だとも思う。
―――でも、それに自分が使われるのが気に入らない!!!!
カザムやマクシにしてみれば、丁度手近にフリーリアがいた、ぐらいの感覚だろう。
幸か不幸かテオはフリーリア以外はいらない、と言っていた。
どうせなら、付加価値を付けてやれ、ぐらいの物だろう。
決して邪魔になるモノでもない。
「テオの妻にはなったわ。王妃にも、なろうかと思っていた。でも、国王の忠誠なんていらない。ただ、テオの妻としての王妃にならなってあげる」
にっこり笑って伝えれば、思案顔のテオ。
王妃にならない、とは言ってない。
テオにしてみれば、フリーリアが隣に居ればいいのだろう。
テオの心を利用するようなセコイ言い方だが、背に腹は変えられない。
―――私の自由と平和な日常!!!
「パエラ、いいではありませんか。
確かに、御国の復興には女神の存在は必要不可欠でしょう。パエラは豊穣の女神ですから、まさに適神」
「そうです、フリーリア様。国王が忠誠を誓った王妃が女神ならば、民たちにとってこれほど心強いものはございません。繁栄を約束されたも同然です。復興意欲も湧きましょう」
あと一押し!! というところで入るニトジム陛下とジニムの声。
―――邪魔しないでぇっ!!!
「パエラがお気になさっているのが身分ならば、我がホージュの女神パエラとしての身分をご用意いたしましょう」
ニコニコ笑ってそう言うニトジム陛下のお言葉に、呆然とするしかない。
南の大国ホージュは、豊穣の女神パエラを唯一神として掲げている。そんな身分などいただいては、ただでさえ無くなりつつある自由が完全に無くなる。
下手をすれば、神殿に籠る事態にもなり兼ねない。
―――それは嫌すぎる!!!
求める自由は、何ものにも縛られないというモノ。
求める平和とは、平穏な日常というモノ。
ゴネればゴネるほどドツボに嵌っていくのはいただけない。
―――そろそろ引き際、か・・・?
色々疲れたし、どうやてもここからは逃げられないようだし、腹決めてテオの忠誠受け入れて、オーストリッチの頂点に君臨してみるか・・・?
フリーリアの寿命があとどれぐらい残っているのかわからないが、このまま逃げられないのなら、最高権力を手中に収めるのも良いのかもしれない。
一瞬の間に色々考え、ニトジム陛下に向き直る。
「ありがとうございます、ニトジム陛下。こうしてわざわざ足をお運び頂いただけでも身に余る光栄ですのに、それ以上を頂くなど恐れ多いことでございます。そのお気持ちだけで至上の喜びです」
にっこり笑えば、ニトジム陛下も笑顔を返してくれる。
必要以上の言葉の、裏の意味を正しく理解してくださったのだろう。
まだ年若いニトジム陛下だが、国王としての器はかなりのモノ。
今の状況も正しく理解し、フリーリアが何を望みゴネているかも解っている。
だからこその、先ほどの言葉。
ホージュからの公的な身分で、フリーリアを縛ろうというのだ。
ホージュにとっても、豊穣の女神を存在させることはプラスにしかならない。
ふふふ、と笑い合ってテオを見る。
理解が追い付かなかったのであろうテオの、その表情に不覚にもトキメイタ。
―――やっばいなぁ・・・。
一度受け入れてしまえば、後は流される。
その流れに逆らうことは不可能。
受け入れたなら、後は落ちるだけだ。
好きに生きれば良いと言われている借り物の人生。
何だかんだと、歩むべき道は既に決まっているんだと思う。
選択する道はいくつかあるが、たぶんゴールは1つなのだろう。
そのゴールに辿り着くまでの過程を私は選べるにすぎないのだ。
―――まぁ、その過程が大切だと、足掻いていたわけだが。
今回のゴールは、きっと女神となり王妃になること。
だから、足掻いても足掻いても、逃げられなかった。
求めるのは、何ものにも縛られない自由。
それは、王妃となり、女神として君臨すれば容易く叶うだろう。
求めるのは、平穏な日常という平和。
それは、多少とは言えない責任の果てに叶うだろう。
ならば。
「誓わせてあげるわ」
テオの目を見据えて、ニヤリと笑う。
「テオの忠誠、わたしが貰ってあげる」
高飛車に言い放つ。
テオの顔が喜色に満ちていく。
登りつめてやろうじゃないか。
「マテオ様、そろそろ刻限です」
いつの間にか静まっているバルコニーの外。
漏れ聞こえるのは、神官長マクシの祝福の言葉。
「おでましのご用意を」
ポトスの声に、テオが目の前に左手を差し出す。
口元だけで笑って、右手を乗せた。
強く引き上げられ、そのまま腕に抱かれた。
「フリーリアにのみ、この身を捧げよう」
耳元に囁かれる、誓約。
「その身体ごと、テオの忠誠貰ってアゲル」
あくまでも、高飛車に言い放つ。
パタン、と開かれるバルコニーへ続くトビラ。
「おでましを」
響き渡る、マクシの声。
テオにエスコートされ、バルコニーに向かう。
後ろに続く、ニトジム陛下とジニム。
サンサンと降り注ぐ太陽の光のもと、1歩バルコニーに出れば、割れんばかりの大歓声!!
マクシから王冠を受け取ったテオが、正面からフリーリアの頭上に王妃の王冠を乗せる。
本来ならば、国王の前に跪いて戴く王妃の王冠。
しかし、女神であるフリーリアはたとえ相手が国王であっても膝を折る必要はない。
その証拠に、膝を折ったのは国王であるテオ。
取られた手の甲と指先に受ける、忠誠の口づけ。
そして、捧げられるテオの剣。
その剣を両手で受け取り、一度高く掲げ、そして落とす、祝福の口づけ。
剣の柄の部分に1つと、鞘の上に1つ。
国王が騎士として捧げた忠誠を、王妃が女神として受け入れた。
緊張した面持ちで見守っていた民たちも、1人、また1人と膝を折り跪く。
「我、フリーリア・ルースト・オーストリッチは、皆の忠誠を受け、この国の繁栄を約束しよう」
バルコニーから民に向けて宣言すれば、
「王妃フリーリアに忠誠を!!」
声高に言うテオ。
『忠誠を!!!』
大地が揺れるほどの民たちの歓声を受け、立后の儀は終了した。
オカルトっぽいなぁ、インチキ宗教っぽいなぁ、なんて思ったことは内緒だ。
何はともあれ、こうしてフリーリアはオーストリッチ国王、マテオ・オールド・オーストリッチの妻、王妃となった。
同時に、豊穣の女神として、オーストリッチに君臨することになったのだ。




