19・往生際は悪いもの
一通りの話し合いも済み、当座の方向性が決まったのは、既に夜になってからだった。
そう、夜である。
夕飯も済ませ、御風呂も済ませ、あとは寝るだけ、である。
うん、寝るだけ、なのだ。
「どうしてテオと一緒のベッドなの・・・? ってか、何で同室なのよ!!!」
目の前には、夜着姿のテオ。
そう、こちらで、と通された部屋には、テオが居たのだ。
後宮は爆破されて使い物にならなくなっているため、表城の多数ある客室の一つを私室として使っていた。
貴賓室と呼ばれる、他国の貴族をもてなす為の部屋をテオ共々与えられていたのだが。
今居るのは、その貴賓室の中で一番大きい部屋。
本来は、他国に嫁いだ王女が、夫とともに来訪した折に使われる部屋らしい。
よって、寝室には大きなベッドが1つだけ。
そこに腰掛け、正面のテオを見上げる。
「仕方ないだろう? 後宮は使い物にならないんだ」
まだ濡れた髪を拭きながら言うテオ。
「そうじゃなくて!! どうして今更同室なのかって聞いてるの。今までの部屋でいいでしょう?」
同じベッドなど冗談じゃない。
そんな悪夢は1回だけで十分だ。
懐に抱き込まれ、愛しげに髪を梳かれ、耳元で囁かれるあのピンクの世界。
―――背筋に悪寒とトリハダが!!
心の奥底に埋め立てた悪夢がうっかり顔を出しかけて、慌ててもう一度封印する。
あんなのはもうイヤなんだ!!
「何言ってんだ、フリーリア。妻が夫と同衾するのは当たり前だろう?」
どうして夫婦になったのに離れて寝るんだ、と言われ、はたと思い出す。
そうでした、ナゼか夫婦になってました・・・。
黙った私を満足そうに見て、ベッドに腰をおろすテオ。
びくぅ、と体が跳ねる。
恐る恐る顔を上げれば、じっと見つめられていた。
髪を拭いていた布を放り、視線を逸らさぬまま一気に抱き込まれる。
「テオ・・・!!」
ぎゅっと抱きしめられ、息もままならない。
「フリーリア・・・」
熱っぽく耳元で名前を呼ばれる。
はむ、と耳を食まれる。
ぺろりと舐められ、ぞくりと背筋に電流が走る。
「ひゃぁっ」
思わず口から漏れた声。
―――この身体感度良すぎる!!!
ゾクゾクと上がってくる快感。
嬌声とも取れる声に気を良くしたテオの唇が、耳から首へと降りてくる。
「やぁ・・・」
濡れた感触に、感度も上がる。
所々強く吸われ、キスマークを付けられる。
―――ヤバイーーーっ!!
と思ったが、時既に遅し。
ベッド中央に運ばれ押し倒され、エスカレートする愛撫を受ける。
腰紐を外され、肌を露出させられる。
「ふぅ・・んんっ・・・・」
施される愛撫に、濡れた声が我慢できない。
「愛してる・・・」
そういえば初夜なんだよなぁ、とか今更なことを考えつつ、この行為を受け入れたのだった。
さて、そして本日、立后の儀当日。
目覚めた瞬間、目の前に居たテオにうっかり悲鳴を上げそうになり。
軽くパニックになりつつ状況を思い出した。
甘ったるい顔でフリーリアを見つめるテオに、朝っぱらから濃厚な一時を提供された。
何とか、予定通り早朝に到着されたニトジム陛下をテオとともに出迎え、食料のお礼を申し上げた。
パエラに対する親愛の証だと笑ってくださったニトジム陛下と側近のデシエ、そしてジニムとポトスと一緒に、立后の儀を行うバルコニーの控えの間に入った。
身支度はすでに整えていたため今更バタバタすることもなく、5人でゆっくり朝食を摂る。
王族の正装である衣裳のニトジム陛下と、高位貴族の正装であろうデシエ。ジニムも、今日はホージュ国の王女の正装である。
ポトスはいつもの騎士服。まぁ、警護にあたるので当然であろう。
チラリ、とテオを見る。
テオの衣裳は、王族の正装でも、国王の正装でもない。
ただ王冠を妻に与えるだけの立后の儀に、正装の必要はないのだろう、と深く考えていなかったが・・・。
―――深く考えなかった自分が憎い!!!
「ねぇ、テオ。どうして騎士服なの?」
そう、テオが身に纏っているのは、騎士の正装。
国王となったテオが着る衣裳ではない。
「あぁ、一騎士として、女神に忠誠を誓おうと思って」
「・・・・・は?」
「国王としてフリーリアを妻に迎えたから、今度は一騎士として女神に忠誠を誓おうと思うんだ。王妃は女神であることを民に知らせる」
さも当然のように言ってきたテオに、何かがキレた。
「どこの世界に妻に忠誠誓う夫が居るんだー!!!!」
ニトジム陛下がいらっしゃろうが、ここが穏やかな朝食の場だろうが関係ない。
このバカ(と書いてテオと読む!)を叱りつける。
「テオはいくら王位継承権を持っていなくても前王の子供なのよ?! れっきとした王族なの!! それが、たかが平民の女を妻にするだけじゃ飽き足らず王妃にまで据えて、そのうえ忠誠まで誓ってどーすんのっ!!!」
何が騎士として、だ!!
テオはもうこの国の国王なのだ。
国王が他の人間に忠誠誓ってどーすんだ、このバカ!!!
「フリーリアは女神なんだ。ただの人間である国王が、妻に迎え王妃となってくれた女神に忠誠を誓って何が悪い?」
「だから、わたしはただの平民だ!!!」
話がかみ合わない、どころか次元すら違う気さえしてくる。
まぁ、実際違うのだが・・・。
「国王が忠誠を誓うってことが、どういうことかちゃんと理解してるっ?!」
「あぁ。俺は、フリーリアを裏切らない」
激昂するフリーリアに、真摯に告げるテオ。
ブッチンッと、再び何かがキレた。
「そーゆー問題じゃないーーーっっ!!!!」
―――そして、今。
王宮につめかける人々。
時が来るのを今か今かと待ちわびている民の声を聞きながら、私はテオの正面のソファーに座らせられ、プイッと横を向いている。
ちなみに、右隣にはニトジム陛下が腰掛け、私は左を向いている。
外の賑わいとは裏腹に、一触即発の雰囲気がその場を支配していた。
「フリーリア、いい加減諦めろって・・・」
何度目かわからないテオの言葉に、それでも無視を決め込む。
テオに・・・いや、国王に忠誠なんぞ誓われては、フリーリアは生き神どころか完全な“神”になってしまう。
豊穣の女神、ならばまだ良い。所詮は国の繁栄のための象徴にすぎないので、ただそこに存在していれば良いのだから。
しかし、象徴から神になってしまえばそうはいかない。
国王よりも上の立場に立つことになり、国王が忠誠を誓うことによって絶対権力を有することになる。
地位は王妃でも、その実は最高権力者となるのだ。
それも、神という位置づけ。何人も従うことしか許されない存在に。
昨夜、テオに抱かれたことで妻になることは同意した。
ここまできて逃げることは不可能だったし、ある目論見もあった。
立后してしまえば、ある程度の自由は手に入る。
まだまだ復興に尽力しなければならないから、国王であるテオはしばらく王城から出ることは出来ない。
国庫の要であるアイサヴィー鉱山は、フリーリアの私領ということで話はまとまっている。
ならば、立后した後で王妃として公式にフリーリア領を訪れればいい、と気づいたのだ。
そして、何だかんだと理由をつけて王城に帰らなければいいのだ。
幸い、国家庇護の産業地という、訪れる大義名分もある。
王妃不在が長引けば、嬉々として自身の娘たちを差し出すのが貴族というものだし、側室の一人ぐらい送り込んでくるだろう・・・とそこまで見通していた。
妻が不在の方が夫も他の女に手を出しやすい。
テオも健全な男。一度でも女を抱いてしまえば、その欲求を我慢できなくなる。
その頃合いに女を差し出せば・・・と考えていたのに!!
このままでは立場は逆転。
国王に側室を差し出すどころか、最高権力者の『男』を寝取る事になるのだ。
言うなれば、王妃に手を出すのと同じことだ。
誰が好き好んで女神の『モノ』に手を出すと言うのか。
自由など無くなってしまうではないか!!!!
――――断 固 拒 否 !!
求めるのは、自由と平和な日常。
ギリギリまで、足掻かせていただきます。




