15・選択肢ってあったか?
テオを国王に押し上げるのは当初の予定通り。
そのまま全責任をテオに押し付けて、フリーリアは自治領に帰って平穏な毎日を送る。
それには、フリーリアを王妃にと望むこの状況から逃げ出すことが肝心で、今はその方法を模索中。
テオの国王としての行動如何を何とか逃げる口実に使おうと思っているのだが・・・。
「それよりもジニム。もろもろの処理はどうなってるの? 明日のテオの即位の儀の準備は、誰が?」
その話は終わり、とばかりに違う話題をふれば、ジニムも心得たものですぐに返事をする。
「即位の儀の準備は、慣例に則り、宰相閣下が取り仕切っておられます。幸い、神殿も神官も無事なので、こちらの問題はございません。 ただ・・・」
「ただ?」
「テオ殿が、侍女に世話をされるのがイヤだ、と」
「・・・は? なら、侍従にでもやらせればいいでしょう?」
「侍従に、着替えなどの御世話は・・・」
女が嫌なら男にやらせろ、と返したら、何とも言えない表情が返ってきた。
はて。侍女の男版が侍従じゃないのか?
「確かに、侍従は側に仕えて、お茶の用意などはしますが、私室に入って着替えなどのお世話は、侍女の役目ですので・・・」
視線で説明を促せば、そう返ってきた。
なるほど。この世界ではそうなのか。
「じゃぁ、侍女に世話をさせるしかないわね。そもそも、何で嫌がってるの?」
普通、男は女に世話をされるのを喜ぶはずだ。
それも、国王付きの侍女となれば、美しく教養高い若い娘と相場は決まっている。
「もしかして、テオの好みの女じゃなかった、とか?」
なんなら、テオの好みの女でも用意して、侍らせとけ。
それならば納得するだろう、と言えば、盛大に溜息をつかれた。
「側に侍る女は、フリーリア様だけで良いそうです」
「・・・・・・うーわー・・・。いっきに鳥肌たったわ・・・」
ほらほら、と腕を見せれば、「フリーリア様・・・」と呆れられた。
「んで、何で世話されないと困るの? 嫌だって言うなら、ほっときゃいいじゃない」
小さな子じゃあるまいし、着替えぐらい1人でもできるだろ。
実際、今までただの騎士だったテオに、侍女など付いていなかった。
「それはそうですが、即位の儀の衣装は、1人で着れるものではない、と」
まるほど、と思わなくもないが。
「その時ぐらい我慢させろ・・・。それか、その時だけ侍従に手伝ってもらえ」
どんな子供のワガママだ、と呆れる。
侍女の手を煩わせるんが嫌だとか、そんなレベルの話でもなく。
ただ、側にフリーリア以外の女が寄るのが嫌だ、と。
―――テオ、男として不能なんじゃない?
いくら好きな女がいても、健全な男ならば女が側に侍れば嬉しいはず。
まして、相手は侍女。
国王となるテオが手を出したところで何ら問題にはならない。
むしろ、選ばれた侍女もそれを望むだろう。
一度でもテオ――国王――の手が付いてしまえば、その女は後宮に召し抱えられるのだから。
侍女として王宮に上がっている女なら、側室に上げても家柄的にも問題は無いだろう。
「宰相閣下は、フリーリア様にお手伝いいただければ、と言っていましたが?」
「いやよ、メンドクサイ」
スッパリキッパリハッキリ否定。
悩んではいけない。これ、常識。
ここで少しでも悩む素振りを見せれば、これ幸いにと神殿に放り込まれる。
「パディ、お客様です」
ノックの後にかけられた声。
客がノックをするのではなく、護衛がノックをするということは、それだけ警戒されている相手が来た、ということ。
それか、自らがノックをする必要も無い位の地位ある者、か。
どちらにせよ、招かれざる客であることは確かだろう。
「どなたか?」
わたしの代わりにジニムが声をかければ、意外な答えが返ってきた。
「カザム宰相閣下とマクシ神官長です」
タイムリーな相手の来訪に、嫌な予感がひしひしと。
しかし、高位の相手を門前払いするわけにはいかない。
本当なら、わざわざ足を運ばずとも、相手を呼び付ければいい立場の二人だ。
宰相と神官長である二人が礼を尽くすのは、国王と王妃の二人のみ。
そんな二人が、わざわざフリーリアの部屋にまで訪ねてきた。
―――居留守を使いたいんですが!!
果てしなく、会いたくない。
会えば、色々と厄介な事が起こる。
予感では無く確定だが、そうも言ってられず・・・。
仕方なく入室を促せば、深々と取られる礼。
逃げられない予感に身震いを一つ。
「先触れも無く突然の訪問、お許しください。この度、マテオ様の御慈悲により宰相となりましたカザムでございます」
先に口を開いたのは、カザム。
先日の騒動の時よりも血色もよく、瞳には生気がある。
「お初にお目にかかります。神官長を務めますマクシと申します」
マクシは、カザムよりも若干若い、それでもテオやフリーリアの父親ぐらいの初老の男。
神官長というイメージそのままの衣裳に、柔和な顔。
欲などを一切感じさせない、まさに聖職者といった風貌。
「フリーリアと申します。わたしのような身分の者に、そのような礼は不要にございます。どうか、おやめいただけますか?」
あくまで平民だと前面に出して、これ以上ドツボに嵌るのを回避する。
実際、フリーリアは家名すら持たない平民だ。
国の重役に頭を下げられる身分ではない。
―――今更だとか言ったのはダレデスカ・・・?
立たせたままでは何なので、テーブルに着席を促す。
さも当然のようにジニムがフリーリアの為に椅子を引いたのは、奥の一脚。
丸いテーブルは上座も下座も関係ないようになっているが、それでも入り口に近い側、下座にあたる場所に並んで腰掛ける二人。
明らかにおかしいその座り位置に、文句も言わない二人に頭が痛くなってくる。
ジニムがお茶の用意をする間の沈黙が痛い。
―――に、逃げ出したい!!
今なら、間に合う気がする・・・。
「失礼たします」
ジニムによって目の前に置かれたカップ。
やはり、一番最初に置かれるのはフリーリアの前。
次にカザム、マクシの順で置かれ、ジニムはフリーリアの背後に控える。
侍従の一人も連れていない二人に対し、いささか・・・と思わなくもないが、人間諦めが肝心だろう。
気づかれないように溜息を吐いてカップに手を付け口に運べば、2人も揃って手を付ける。
行動で示される立場の差に、既に溜息すら出なかった。
「御来訪の旨、御伺いいたします」
このままでは埒が明かないし、と覚悟を決めて口を開いた。
この行動に後悔するのは、僅か15分後だった。
―――いや、これ以外に選択肢は無かったはず・・・?




