14・足掻きますよ、勿論
現在、逃げる為に情報収集中。
ジニムによって強制的に軟禁させられていた間に何があった?!
「処刑した者たちの領地は?」
「国家預かりだ。まさか、領民たちを放っておくわけにはいかないだろう?」
「フリーリア領に吸収した場所も、国に返す?」
もとは他人の領地だった場所だ。
「いや、そのままで構わない。ただ、フリーリア領はフリーリアの私領地となるから、実際には国家預かりと変わらなくなる」
「どうして? フリーリア領は自治領区よ。わたしの私領ならそのまま自治領区で構わないでしょう?」
今までだってそうだったのだ。
「だから、王妃の私領だ。領主不在のままでは自治もできないだろう? まさか、王妃と領主の兼任なんてするつもりか?」
―――その手があった!!!!
何気無く言われた一言に、今後の光を見た。
よし、これで逃げれる!!
「ねぇ、テオ」
「ん?」
「オーストリッチには、これからお金が必要よね?」
「あぁ、そうだな。復旧費用はいいとしても、国庫は空だから、蓄えは必要だな」
「それには、アイサヴィーが必要よね?」
「あぁ」
「そのアイサヴィーは、フリーリア領にあるの」
「そうだな。落ち着いたら、輸出再開するんだろ?」
「えぇ。でも、フリーリア領が自治領じゃなくなると、輸出もままならなくなっちゃうの」
「・・・・・それで?」
「国庫のためにも、フリーリア領は自治領のままにしたほうがいいと思うの」
「・・・・・・」
「だからね、」
わたしをフリーリア領に帰して―――と続けるはずだったのに!!!
「御心配には及びません、フリーリア様。アイサヴィーをオーストリッチの主産業とし、フリーリア領を国家庇護の産業地となさって、フリーリア様がその権限一切をお持ちになればいい。そうすれば、フリーリア領はそのままフリーリア様の私領となりますし、領主を置く必要もなくなります。国家庇護ですから、私利私欲では動かせなくなりますが、私領ですから利益の何割かはフリーリア様の私財として蓄えることもできます」
実際、ホージュ国ではそのようにして領主との均衡を保っている、というジニムの言葉に、あっさりと逃げ道を塞がれた。
―――もう少しだったのに!!!
「そうだな、そうしよう。採掘も輸出も、国が庇護すれば安定する。フリーリアから私領を取り上げなくてすむし、私財も貯まる。よかったな、フリーリア」
にこにこと笑顔で言われ、こっちは絶句した。
すぐに手配しよう、と言うテオに、ストップをかける良い言葉も浮かばない。
地位も身分も無いフリーリアが王妃に就くにあたって、問題となるのが後ろ盾だ。
幸か不幸か、南の大国ホージュはフリーリア個人に親愛を示し、北はフリーリア個人に忠誠を誓った。
これによって、フリーリアは南と北の後ろ盾を得たことになる。
このままフリーリアが王妃となれば、オーストリッチは南との友好な関係と、北の領地が一度に手に入るのだ。そのうえ、国庫の要であるアイサヴィーはフリーリアの私財。
これでフリーリアは、外交と、軍事力と、財力を持つことになった。
一国の王女と変わらぬ後ろ盾、いや、その辺の小国の王女よりも強い後ろ盾を持ったフリーリアを、誰も廃することはできないだろう・・・。
いつの間にか食べ終えていた食器をジニムが片付け、食後の御茶を飲んでいると、慌しくノックされる。
テオが入室を促せば、入ってきたのはポトスだった。
「処刑の準備整いました」
「わかった。フリーリア、いってくる。俺が戻るまで部屋から出るなよ。ジニム、フリーリアを頼む」
ちゅっ、と頬にキスをされ、呆然とテオの背中を見送った。
何なんでしょうね、この甘ったるいのは。
望んだ状況じゃないから、余計に気持ち悪い。
「フリーリア様は、王妃になりたくないのですか? それとも、テオ殿の妻になりたくないのですか?」
呆然とテオを見送って放心した後、ジニムのそんな問いに我に返った。
―――ふむ。なかなか難しい質問だ。
「そうねぇ・・・。どっちもイヤ、ね」
たとえば、テオ以外の男が王位に就いたとして、その男の妻=王妃に、と言われれば、それは拒否する。
たとえば、フリーリア領に帰って、テオと夫婦になれ、テオの妻として生きろ、と言われれば、それも拒否する。
かといって、一生独身でもいいから王位に就け、と言われるのは断固拒否する。
そう伝えれば、ますます解らない、といったジニムの顔。
「権力に興味は無いの。フリーリア領に帰れば、何の不自由も無いもの。それ以上はいらないわ」
テオとフリーリア領で夫婦として暮らしても、必ず面倒事に巻き込まれる。
過ぎた権力は身を滅ぼす。
何十人、何百人と見てきたそれは、どこの世界も変わらないだろう。
「では、テオ殿がお嫌いなのですか?」
直球で聞いてくるジニム。
「嫌い、ではないわね。
たとえば、テオが『共犯者』としてわたしを望んだのなら、また違ったのかもしれない。
たとえば、テオが『豊穣の守り神』としてわたしを望んだのなら、また違ったのかもしれない。
でも、テオはそうじゃないでしょう?」
そう望むなら、協力してやる用意はあった。
どうせ既に『生き神様』なのだから、そこはいい。
平和な日常を送るためなら、その位は甘んじてやるつもりだった。
―――が!! 予想の遥か斜め上を行く今の現状はいただけない!!
テオは、共犯者でも女神でもない、ただのフリーリアを望んだのだ。
ふつふつと怒りが沸いてくる。
「フリーリア様は、どうなさるおつもりだったんですか?」
解らない、と聞いてくるジニム。
王家に生まれたジニムには、理解できなくて当然かもしれない。
「テオを王位に据えて、わたしはフリーリア領に帰って終わり――の予定だったのよ。
女神が必要なら、マテオ陛下に忠誠を捧げればいいし、共犯者が必要なら、月に一度程度で陛下の御前に参上すれば事足りるしね。
もともとオーストリッチは神への信仰がそれほど篤くないから、わたしが生き神となっても王家の脅威にはならないだろうし、第一、わたしに自己顕示欲は無いもの」
望んだのは、今までと変わらない平和な日常。
フリーリア領に篭って、平和な日常を送るつもりっだた、と言えば、ナゼか笑われた。
「テオ殿がお嫌い、というわけではないのですね。嫌いだから妻になりたくないのではなく、王妃という地位に立って、日常が崩れるのがイヤだ、と」
「まあ、ね。ついでに、政治なんて面倒事はゴメンなのよ」
はあぁ、と溜息をひとつ。
ぬるくなったお茶をのどに流し込めば、おかわりを足される。
「テオ殿は、ただフリーリア様だけを愛しておられます」
意味深に言われ、視線を手元からジニムに移す。
「昨日、あの女を捕らえてテオ殿のところに連れて行けば、テオ殿はキフトたちと話し合いの最中でした。
フリーリア様のご指示通りにキフトたちから復興資金を巻き上げようとしていたテオ殿は、フリーリア様に認められたかったのでしょう。かなり頑張っておられました」
クスクスと笑って言うジニム。
ナゼだろう。モノスゴクイタタマレナイ・・・
「王位継承権すら持たないテオ殿を、キフトたちは軽んじていたのでしょう。話し合いは難航、それどころか、自身の娘たちをテオ殿の側室に、と言い出す始末」
やはり、あのボンクラ共は自身の娘をテオに宛がおうと考えていたらしい。
もっと頑張れよっ 上手くやれよっ と、今更な悪態をついてみる。
上手くいけば、その娘たちがテオのお気に入りになれたかもしれないのにっ
そうすれば、フリーリアは逃れられたのにっ
「しかし、テオ殿にその気はまったくなく、我慢も限界に達したとき、私があの女の正体と事の顛末を話したのです。聞き終えたテオ殿は、躊躇うことなくあの女に剣を突き刺しました」
―――ぎゃぁぁぁぁぁっ 聞かなきゃ良かった!!
ヤエ様の仕事を私が作ったとか、ヤエ様に知られたら怒られるっ ニッコリ笑って毒舌なんだ!!
―――じゃなくって!!
どーしてそんなことをするんだ!!
そして、どーしてジニムはそんなに嬉しそうなんだ!!
静かにパニック寸前の私を無視して、ジニムは続ける。
「それを目の当たりにしたキフトたちは蒼白。テオ殿は表情無く血濡れの剣をキフトたちに突きつけ・・・」
ごくり、と喉が鳴る。
聞かないほうがよい、とわかってはいるが、怖いもの聞きたさで耳を塞ぐことが出来ない。
「一思いに首を刎ねようとしましたが、何とか思いとどまられ、かわりに、清々しいまでの笑顔で脅しました」
・・・・・・・・・。
脅迫かよっ
「・・・結果、キフトたちの領地は没収。溜め込んでいた財産も復興支援金と言う名目で取り上げ、一族の者たちからは爵位を取り上げ、平民に落としました」
スルーされた部分が気になるが、聞いてはいけない。
絶対に突っ込んではいけないっ
チラリとジニムを見れば、こちらも清々しいまでの笑顔。
―――うん。世の中には、知らないままの方が良いこともある。
「テオ殿の激情も、それを押さえ込んだ理性も、全てはフリーリア様のため。
フリーリア様を愛しているがゆえに激情のまま剣を振るい、フリーリア様に認めていただきたいがゆえに理性でその激情を抑えたのです」
全ての行動はフリーリアのため、と言うジニム。
まぁ、わからなくもない、が。
―――ここで認めたら王妃ルート一直線なんだ!!
「・・・新たに王位に就く者として、当然の行動だっただけだわ。民のため、国のためを思えば、それが最良だもの」
だから、テオの行動理由を摩り替える。
『王』ならば、当然だ、と。
国の為に剣を振るい、民の為に非情になる。
国王として当然のその行動は、個人の感情によるものではないのだと。
―――うん、この方向性で逃げようかな。




