13・軟禁の必要性
次に目覚めたのは、翌早朝。
窓から見た外はまだ薄暗かったので、本当に早い時間だろう。
ベッドに入った時間を考えて、3時間ぐらいしか経っていないはずだが・・・。
バタバタと慌しい足音――それも、数十人は居るであろう大音量――と、騒がしい人の声で覚醒した。
起き上がれば、新しい服の用意がされていたので、ジニムが戻ってきたのであろう。
しかし、ここにジニムの姿は見当たらない。
取り合えず着替えて、意識を外に向ければ、扉の横に立つ4つの影と、忙しなく動く複数の影が見えた。
―――こんな早くからなんだぁ?
扉を開けるのは危険だと判断。
内側から声をかける。
「護衛ありがとう。騒がしいようだけど、何事?」
まさか、声がかあるとは思わなかったのだろう。
一瞬の沈黙の後、返事が来た。
「マテオ殿下ご即位に伴い、裏切り者共の粛清を行っております。王妃フリーリア様のお命を狙ったキフト伯はじめ、マング伯、チグリ伯も加担したと極刑を。その他、混乱に乗じて私腹を肥さんとした者、民を隷属にした者共も粛清の対象になっております」
―――聞かなきゃ良かった!!
後悔先に立たず・・・。
「ジニムは?」
「マテオ殿下と打ち合わせ中です。御目覚めになられたら呼ぶように、と申し付かっておりましたので、今使いを出しました。しばらくお待ちください」
護衛の言葉に、了承を伝えてベッドに戻る。
どうやら、フリーリアの護衛は北の兵たちに任されているらしい。
さて。どうしたものか。
ドツボに嵌ってさ~たいへん・・・。さすがにドジョウは出てこないだろうが。
あのボンクラどもを処分するのはわかっていた。
理由付けをどうするのだろう、とは思っていたが、まさかフリーリアの殺害未遂を使われるとは思ってもいなかった。
それも、『女神殺害』ではなく『王妃殺害』だ。
どんな理由があるにしろ、公式の処刑以外で王族殺しはご法度。
テオはまだ正式に国王ではないし、もちろんフリーリアも王妃ではない。
しかし、この状況だ。
テオの即位は決定事項だし、そのテオがフリーリアを王妃に望んだ。
十分、王族殺害として認められるわけだ。極刑は免れない。
―――よくもダシに使ってくれたわね・・・。
そのうえ、これでフリーリアが王妃なのだと公に知らしめたことになる。
着々と外堀を埋められていく感覚に眩暈を覚える。
―――こりゃ、早く逃げないと後戻りできなくなるわ・・・。
「フリーリア様、失礼いたします」
ノックの後入ってきたジニム――と、オマケが1人。
「おはよう、フリーリア。悪かったな、軟禁みたいな真似をして」
それでも、フリーリアを危険な目に合わせたくなかったんだ、と言うテオ。
本当に申し訳なさそうに、心配そうに言ってくる。
―――ってか、軟禁ですか・・・?
まぁ、あながち間違いではないが。
それよりも、とテオを見て、こっそり溜息をつく。
昨日の一件で自覚させてしまったらしい、テオの恋心。
その瞳には、昨日まで無かった熱がある。
どうやら、昨日の応酬は完璧に裏目に出たらしい。
「ありがとう、大丈夫よ。それより、騒がしいようだけどどうしたの?」
「あぁ。害虫駆除をな。フリーリアが心を痛めたとジニムから聞いて・・・。
悪かった。まさか、フリーリアが狙われるとは思ってなかった。ジニムが気づいたから良かったものの・・・。怖かっただろう?」
手を伸ばし、髪に触れるテオ。
今までしなかった行為は、自覚したゆえだろう。
その甘ったるい行動がなんとも言えない。
―――ヤバイ・・・。
「平気よ。わたしが立后なんて、狙われて当然だもの」
だから、放っておいて、フリーリア領に帰して欲しい―――と、頼むつもりだったのにっっ
「安心しろ、フリーリア。邪魔するヤツラの処分はついたから」
これでフリーリアに逆らう者はいないな、と、テオに笑顔で言い切られた。
どこまでも、私の逃げ道を塞ぐつもりらしい。
「どうしたの?」とは、怖くて聞けない。機嫌の良いテオが不気味だ。
「私からご説明をいたしますが、その前に御食事をなさってください。 今、こちらに運ばせます」
ジニムに言われ、そういえば昨日は何も口にしていなかった事を思い出した。
最後に食事をしたのは、王都奪還前の、あの村だったか。
「民たちの食べ物はあるの?」
「はい。ニトジムがすぐに食料を送ってきましたので、先程兵たちに配らせました。ですから、フリーリア様もご心配なさらず御食事を」
どうやら、民たちを心配して自分の食事を取らなかったと勘違いされていたらしい。
ただ、忙しくて忘れていただけなのだが・・・。
強制的に座らされたテーブルに、当然のようにテオも座る。
以前のような軽口の応酬が出来なくなったのは、感情の違いからか。
「ニトジム陛下にお礼を申し上げないと・・・。すぐに対応してくださったのね」
「あぁ。国庫を開いて、主食のほか、当座の食料も手配してくださった。ジニムを通して御礼はしたが、フリーリアからも頼む」
「当座の食料まで・・・。ありがたいことだわ。ちゃんと、民たちに配ってね」
ただでさえ自給率の低いオーストリッチは、今回の戦で食糧難に見舞われているだろう。
フリーリア領から物資を提供させるように手配をしたが、到底間に合わない。
「ニトジムから、昨年1年間のオーストリッチ輸出量と同等の食料が届きました。兵たちに配らせ、後は王宮の倉庫に」
食事の支度を整えたジニムも座り、報告を聞く。
「そんなに・・・。これで、民たちが飢えることはないわね。ジニム、ニトジム陛下に御礼申し上げたいわ。御時間いただけるかしら」
できれば、今日にでも。
南との国境はフリーリア領の砦だ。
ニトジム陛下への御礼謁見と言う大義名分があれば、堂々とフリーリア領に帰れる!!
―――とってもいい考えだと思ったのにっ!!!!!
「あぁ、ニトジム陛下が、フリーリアの立后の儀にはご臨席くださるそうだ」
よかったな、と言うテオを、本気で殴りたくなった。
南の大国ホージュ国王を巻き込んでまで、フリーリアを立后させたいらしい。
「わたしがいつ、王妃に立つことを承諾した・・・?」
テオの目をそらして、その隙に逃げ出すつもりだたが、そんな悠長なことを言ってられなくなった。
私はわが身が可愛い!! 正面から逃げ道を探す。
「何言ってんだ? 昨日、民にも知らせたし、北も賛成した。ホージュ国もこうしてご協力下さっているだろう?
今更、逃げようなんて考えてないだろう?」
そもそも、逃がすはずないだろう? と嗤うテオ。
どうやら、完全に逃げる機会を失ったらしい。
「立后の儀はいつ?」
「明後日。今日、キフトたちの公開処刑をして、明日、俺の即位の儀。明後日がフリーリアの立后の儀。ニトジム陛下は、明後日到着のご予定だ」
着々と進められている現状に溜息すら出てこない。
言葉を失う私を満足気に見て、テオは話を進める。
「復興資金はキフトたちの没収した財産を当てることにした。話し合いの最中にジニムがフリーリア殺害の証人を連れてきたから、余計な手間が省けて助かった。かなりアクドイ事して溜め込んでたから、十分足りるはずだ。
フリーリアの懸念どおり、混乱に乗じて難民を隷属していた者も捕らえた。保護した民たちはフリーリア領預かりにしてあるから心配はいらない。
復旧作業も、北の兵たちが率先して動いてくれてる。オーストリッチの兵たちは治安確認に走らせてる」
「商人の出入りも、ホージュ国側で規制いたしております。一切の出入りを禁止し、必要な物はホージュ国の兵に届けさせるように手配いたしました」
テオに続けて説明するジニムも、どこか嬉しそうだ。
―――私に味方は居ないのか?!
「ありがとう。北からの出入りはどうなってる?」
自分のことはさておき、国のことを考える。
まだまだ混乱が残っているようなら、脱出の機会も残っているはずだ。
―――もちろん、まだまだ諦めていませんとも!!
「それも問題ない。もともと北からの商人の出入りは頻繁じゃないし、属国となった北の者達はフリーリアの指示を違えない。こちらから細かな指示を出す前に、すでに関所が設けてあった」
それも確認済みだ、と言われて落胆する。
利口な男は好きだが、ここまで抜かりがないと怒りさえ湧いてくる。
「そう、なら安心ね。 キフト伯たちの処刑、と言っていたけど、政治を回すだけの人員は確保できているのかしら? いくらなんでも、テオ一人じゃぁ無理よ?」
落胆は見せずに、次の話題に移る。
どこかに逃げ道はあるはずだ!!
「それも問題ない。宰相はそのままカザムに務めてもらうことにした。その他の役職にも、ちゃんと人員を当ててある」
「そんなにすぐに見つかったの?」
たしか、中枢を担っていた貴族たちは、国王と共に篭城後、自害していたはずだ。
「あぁ。 もとから、自決覚悟の篭城だったんだろ。きちんと、教育を施した後継者たちが残されていたんだ。中には今回の処分対象者となった愚か者も居たが、大半はちゃんと領地を守りながら生きていた。だから、政治のほうも何の問題も無い」
既に、その者たちが仕事に就いているという。
―――強制引きこもりはこのためか?!
既に色々と手配済みの二人の様子に、嫌な予感しかしないんですけど・・・。




