12・だから嫌なんだ!!
抱き締められた腕の中。
しかし、話題は現実味溢れた目の前の問題。
「王宮の修復は?」
「そんなのは最後でいいわ。まずは市井の者たちを最優先に。ジニム、申し訳ないけど、御国との国境に関所を設けてくれるようにニトジム陛下にお願いしてくれる? この混乱に乗じて商人が入り込めば、無駄な物価混乱が起る」
どこの世界の商人も商魂逞しい。
戦争が終わったばかりの国は、商人たちの格好の地だ。
物資が不足するから、いくら高値でもどんどん売れる。
「すぐに手配いたします。必要なものがあれば仰ってください。ホージュから送らせます」
「ありがとう。食料をお願いしてもいいかしら。できれば、主食を」
南の大国ホージュは、その広大な大地と安定した気候から食料の生産率が高い。
不作とは無縁な環境で、他国に輸出しても有り余る国庫を抱えている。
荒野が大部分を占めるオーストリッチとは、長年貿易関係がある。
そんな、一見良好な関係だったからこそ、南が進軍してきたのに対応が遅れたのだが。
「ポトス、ここの見張りは北の者たちに任せて、町に兵を出せ。難民たちの保護と、治安の確認を急がせろ。あと、キフトたちを集めておけ。国土復旧に尽力させてやる、と」
やっと腕を解いたテオに指示され、ジニムに続いてポトスも部屋を出る。
「いくら面倒事は嫌だったからって、わたしまで巻き込まないで。本当にわたしを好きなわけじゃないんでしょう?」
二人になった部屋の中。
世迷いごとをぬかしたテオに詰め寄る。
フリーリアを好きだと言ったテオの言葉はもちろん信じていない。
そんなに甘い関係じゃあなかったはずだ。
「・・・・おまえなぁ。いくら俺でも、好きでもない女と結婚はしたくないぞ?」
「何の目論見もなく純粋にわたしを愛しているから妻に迎えたい、なんて薄ら寒いこと言ってみるつもり?」
「あぁ。フリーリアを愛してる」
「ぬけぬけと・・・。テオは愛してる女に苦労を背負わせるのねぇ」
ブリザード吹き荒れる中(気分ね)の応酬。
『愛してる』の言葉にコロリと騙される程純粋じゃない。
テオの瞳はフリーリアに対して欠片の熱も持ってはいない。
「どうしたら信じてくれるんだ?」
「本心ゲロっと暴露しなさいよ。事と次第で『共犯者』にならなれるかもしれないわよ?」
ふふん、と軽く見下してみる。
私を謀るなど100年早い。
「共犯者、ね。 本当は国王はフリーリアに任せて、俺は側近にでもなるつもりだったんだ。それを、フリーリアが嫌がるからこうしたのに・・・。好きな女の側に居たいのがどうして共犯になるんだ」
不貞腐れて言うテオに、トンデモナイ勘違いをしているような気になってきた。
テオとフリーリアの望みは同じ、平和な生活。
それを、フリーリアは叶え、テオは国王を押し付けられる。
それが気に入らないから、王妃なんてものでフリーリアを巻き込もうとしている。
そう、思っていたのだが・・・。
―――まさか・・・。冗談でしょう?!
初めてフリーリアとテオが出会ってから、2年弱。
テオはたぶん18ぐらい。
戦争に明け暮れる毎日。
身近に居た女。
導き出される答えは・・・・?
――――――ぎゃーーーー!!!
おっそろしい仮定に辿りつき、思考が一時的に麻痺する。
いくら頭が良くても、これだけは学ぶことが出来ない。
感情如何に関わらず、今まで近くに居すぎた。
―――やばいヤバイやばいヤバイやばいヤバイ!!
瞳に熱が無いのは、熱の持たせ方を知らないだけだったら。
何の憚り事も無く、本当にただ離れがたいだけだったら。
甘い関係にならなかったのは、なり方がわからなかっただけだとしたら。
―――に、逃げ道!!
今なら、まだ間に合うハズ!!
フリーリアへの思いは、友情の延長だとでも片付けさせられる。
それには、すぐにでも距離を取ることが大切だ。
パニックに陥った頃、ナイスタイミングで二人が戻った。
「フリーリア様、手配終わりました」
「隊長、隊を町に向かわせました。キフト伯たちも、別室に集めてあります」
漂う微妙な雰囲気に首を傾げつつ報告する2人に安堵を覚えた。
「フリーリア、難民が居た場合、受け入れ先はどうする?」
「王都奪還に使ったあの村で。あと、フリーリア領に吸収した村から復旧していって。使える物が多いから、効率がいいはずよ。王都はしばらく放置でいいわ。ほっておいても人が集まれば勝手に復旧するから。ニトジム陛下から主食が届いたら民たちに配給を。心無い領主たちが居るといけないから、手間でも兵たちに各々配らせて。後は治安維持に勤めさせて」
「キフト達からの資金集めは?」
「テオに任せるわ。どうせ国庫に入るはずだったお金でしょうから、全部吐き出させても問題ないわよ」
問われたことに答えれば、テオの視線とぶつかった。
そこにあったともり始めた熱には気づかなかったことにする。
「わかった。キフトたちの所に行ってくる。フリーリアは?」
「部屋に戻るわ。わたしが出ていくべきじゃないでしょう? 何かあったら知らせて」
クルリと向きを変えて充てがわれている部屋に戻るために扉を開ける。
廊下には北の兵たちの姿。
フリーリアの警護に、と言うテオの声を背中越しに聞く。
後ろから付いてくる北の兵と、隣にはジニム。
ホッと息をついて寝室に入れば、そこにはナゼかメイドの姿。
ジニムの背に庇われながら、厳しい声音を聞いた。
「誰の許可を得てここに入った?」
「先程、キフト伯より王妃様のお世話を申し付かりました」
姿勢正しく言うメイド。
「フリーリア様のお世話は私が居るため不要。下がれ」
地位は騎士でも、その身分は大国ホージュの王女であるジニムに言われれば逆らえるはずもなく、折り目正しく一礼して出て行くメイドを見送りベッドにダイブ―――
「お待ちください、フリーリア様」
しようとして、ナゼか厳しい顔のジニムに止められた。
両手を上にあげた、バンザイの姿勢のまま止まる。
―――ま、間抜けだ・・・。
ベッドを調べるジニムを眺めれば、枕の下から出てきた短剣・・・ 短剣?!
―――だからイヤだったんだぁっ!!
知らずに横になれば、首にグサリと刺さって即死。そんな位置。
「いかがなさいますか?」
その他に仕込が無いのを確認し終えたジニムが、むき出しの短剣片手に問う。
いっそ晴れやかなその笑顔が恐ろしい。
「初めが肝心だから、徹底的に叩いておくべきね――が理想だし、被害者がわたしじゃなかったらそう言うけど、捨て置けばいいわ。今、わたしを殺しても、何も変わらない」
安全が確認されたベッドに座って、ジニムに言う。
そう、まだフリーリアは王妃ではない。
今なら、まだ間に合うのだ。
「フリーリア様、申し訳ございませんが、しばらくはお休みください」
フリーリアの言葉に、何かを考えていたジニムが言う。
「ジニム?」
「昨日より、お休みになっていらっしゃいません。どうぞ、お休みください」
寝不足はよくないですよ、と言いながら、バサバサ服を脱がされベッドに入れられる。
さすがと言うか何と言うか、軽々と抱き上げられましたよ・・・。
「扉の前に護衛を置いておきます。私以外はくれぐれも中に入れられませんように」
丁寧に布団を掛けられ、強制的に引きこもり決定。
脱ぎ捨てた服を回収して、部屋を出て行くジニムの気配。
うっすらと聞こえる声は、外の護衛に指示を出したのだろう。
―――何なんだ・・・?
まぁ、今のフリーリアの立場を考えれば、一歩外に出ればあのボンクラ共に即効殺されるだろう。
フリーリアが王妃に就くなど、考えただけでゾッとする。
タイミングを見計らって、フリーリア領に帰るのが懸命だ。
今、フリーリアが王城から居なくなれば、あのボンクラ共はここぞとばかりに身内の姫をテオに差し出してくるだろう。
いや、もうそのように動いているのかもしれない。
フリーリアを好きだ、と言ったテオ。
そこに、本気の熱がともり始めていたのは見なかったことにする。
ドツボには嵌りたくない。
それよりも、まず考えなければならないのはこの状況の打破。
いかにしてフリーリア領に逃げ込むか、だ。
使える駒は意外と少ない。
ジニムも北も、フリーリアが王妃に就くことに同意している。
彼等を使うのは不可能だろう。
かといって、オーストリッチの兵たちは使えない。
テオに忠誠を誓っているし、何より誰が敵かの判断がつかない。
こっそり王城を抜け出したとして、1人でフリーリア領に辿り着くのは不可能だ。
つらつらと考えていて、いつの間にか本当に眠っていたらしい。




