10・嫌がらせだな?!
テオと言い合った翌日。
キッチリ5時間後に呼び出したテオと、また言い合った。
フリーリアはこれ以上の面倒事は御免だったし、テオも国王になるつもりはなかった。
会議室と言う一種独特の雰囲気の中、周りを気にすることなく言い合うテオとフリーリア。
最高権力の押し付け合いに、周りの者たちは口を挟めなかった。
まぁ、現在進行形で続いているわけだが。
「我等はパディに従う。パディがこの国の王となるなら、我等はこの国の属国となろう。パディが領主のままなら、フリーリア領と和議を結ぼう。全てはパディの御心のままに」
そう言ってフリーリアに膝を折ったのは、一時帰国から戻った北の兵たち。
公式の場を設ける、との約束どおり、ほんの数刻前まで話し合いが行われていたらしい。
何の抵抗も無く、北の兵たちは『フリーリアにのみ従う』と公言したという。
「国家間の混乱を防ぐためにも、フリーリアが国王になるべきだ。こうして北兵たちは、フリーリアを主と認め、従うと言っている」
そう言うテオに、真っ向から反対したのがオーストリッチの兵たち。
「隊長が、マテオ殿下が王位を継ぐべきです。我々は、貴方だからこそ国王を見限りフリーリア様に付くことができた。貴方が信頼するフリーリア様だからこそ信じたのです。我々はフリーリア様に忠誠を誓ったのではない。マテオ殿下、貴方に忠誠を誓い、この命を賭けたのです」
「そうです。マテオ殿下は王位継承権すらお持ちではないが、その身は第三王子殿下。王太子殿下、第二王子殿下亡き今、マテオ殿下が王位を継ぐのは道理でございます」
兵たちに続くのは、政事の中心に居た者たち。
篭城した国王に従った上位貴族より、一段下に位置する貴族たち。
国王を早々に見捨て、己は財産を持って隠れた卑怯者共。
テオは政治のためにコイツ等を処分しないでいる。
それを、許されている、と勘違いしている愚か者ども。
なんて甘い考え。
今まで隠れ、片付いた頃合に我先にとテオに取り入ろうとしているコイツ等を、テオは殺すだろう。
今はまだその時ではない、というだけで生き長らえているが、この問題が落ち着けば、テオは必ずヤル。
コイツ等を見る冷ややかな眼差しがソレを証明している。
気づかないボンクラ共は、今からの世には不要だろう。
「ほら、皆もそう言ってるわ。北兵たちとは、フリーリア領主として和議を結ぶわ。そして、フリーリア領主は国王マテオ殿下に忠誠を捧げる。それで、北との国交に支障はないし、国家間に問題も生じないでしょう?」
ほら、これで良い!! と笑えば、大きく肯定を示すボンクラ共。
―――ボンクラでもなんでも、私の役に立つから問題なし!!
よし、これで帰れる!! と思ったのだが・・・。
「忘れてないか? 民は王家の血などもはや望んではいない。民は、豊穣の女神を望み、希望を抱いている。民を忘れた愚王の息子なぞが王位に就けば、今度こそこのオーストリッチは亡くなるだろう。
民から見捨てられた王族など、もはや王族ではない。そうだろう?」
静かに告げられたテオの言葉に、反論できる者は居なかった。
―――私を除いてね!!
「だからこそ、テオが王位に就くべきなのよ。幸い、テオは王位継承権を与えられていないわ。
自身の欲に狂った愚王を、民を憂いた臣下に下った末の王子が、南の協力と北の賛同を得て討ち果たす。その姿に豊穣の女神が祝福を与えた――民の心を掴むにはうってつけの美談・・・いえ、英雄談だわ。英雄に守られた民たちはその英雄を新王とし、王家の威信は回復するでしょう」
ありふれたファンタジーの王道と、何度目かのトリップでの経験を合わせた物語に満足して、だから、テオが王様ね。と言う。
私の言葉に賛同するボンクラ共と、オーストリッチの兵たち。
「どんな夢物語だ、それは・・・。俺は先王の行いに憂いてないし、南と和議を結んだのも北が忠誠を誓ったのもフリーリアだ。第一、俺はフリーリアの指示通りに動いただけだ。民たちだってソレを知っているだろうよ。誰も、そんな夢物語は信じない」
往生際悪くそう言うテオに、ニヤリと笑ってやる。
「わたしは一切表に出てないもの。現場の指揮を取って兵たちをまとめ、動いたのはあくまでテオ。象徴にすぎない女神より、民たちは英雄を求めるわよ」
何のためにテオを動かしたと思ってる。
民たちの前に立つのは人間でないといけないのだ。
だからこそテオは、マテオ・オールド・オーストリッチは、その身分を捨てたのだろう。
わかってはいるが、1人でその重責を負うのは嫌、というところか。
―――だからって、フリーリアが表に立つのは勘弁。
「わたしたちの平和のためよ、テオ」
トドメとばかりに言う『合言葉』
嫌そうに歪むテオの顔に、勝利を確証した。
じゃあ、領に戻るわ、と言おうとして―――
「条件がある」
低く発せられたテオの言葉に行く手を阻まれた。
―――とてつもなく、嫌な予感・・・。
「アイサヴィーのことなら、領に帰ったら書状を送らせるわ」
先手必勝! と口を開くが・・・。
「ちがう」
一刀両断。
「北との和平交渉・・・」
「ちがう」
「拡大しすぎた領土・・・」
「ちがう」
「・・・」
「・・・」
じゃぁ何?! とは、怖くて聞けない。
平和で穏やかな日常が崩れる!!
あと1歩なのに!!
ここさえ切り抜ければ叶うのに!!
「利口だな、フリーリア。ここで口を開けば墓穴を掘る・・・。
そんな利口な女が、俺には必要だと思わないか?」
―――思うかぁっ
「そのうえ、フリーリアは豊穣の女神だ。国の繁栄は約束されたようなものだな」
―――そんなことはない!!
「南も北も、フリーリアならば問題なく賛成してくれるだろう」
―――ナニヲデスカ?
「戦場と化した国土を復活させ、民たちを安心させるには、国王だけじゃ足らないと思わないか?」
――――オモイマセン。
「なぁ、フリーリア」
嫌な汗をかきながら、しかし声を発することの出来ないフリーリアを正面に、にじり寄ってくるテオ。
少しづつ後退するフリーリア。
「これより先、俺が国王となるなら、フリーリアは王妃として俺の隣に並び立て。俺が国を救った英雄ならば、フリーリアは国を繁栄に導く女神だ。豊穣の女神が王妃ならば、民はこれ以上ないほど安心するだろう」
これ以上は聞くべきではない、聞いてはいけない、と逃げ出そうとした矢先、テオに手を捕らえられ真剣な瞳で告げられた。
冗談じゃない、と言うつもりだった。
「マテオ様、なにを?!」
悲鳴のような声がボンクラ共から上がり、何とか正気に返る。
「テオ。王妃はこの国の最高権力者の妻。そんな地位に、ただの平民であるわたしが立つわけにはいかないわ。並び立つ者が必要ならば、それは身分ある家の姫君か、他国の王族であるべきよ。確固たる後ろ盾のある女性こそ、その地位は相応しい」
身分の無い女が王妃に立った事もあった。
農村に生まれた女が、寵姫から王妃へと上り詰めたこともあった。
しかし、それには大なり小なり問題が付き纏う。
女の醜い嫉妬然り。
権力欲のジジイ共然り。
―――そんなくそメンドクサイのは嫌なんだ!!
何度目かのトリップ先での記憶が蘇る。
あの時は本当に酷かった!!
「ただの女ならそうだろう。でも、フリーリアは違う。アイサヴィー鉱山を見つけ、荒んだこの国に豊穣をもたらした。
南国ホージュ国のニトジム陛下が唯一神である豊穣の女神パエラと認め、親愛を示した。
北国の兵たちが慈愛の女神パディと認め、忠誠を誓った。
この国の民たちは、フリーリアを神聖視している。
そんな民たちは、国王だけじゃ安心しないだろうよ。縋る者が必要だ。それには、皆が認め、敬う女神は最適だと思わないか?」
だから、王妃となって隣に並び立て、と言うテオ。
「マテオ・オールド・オーストリッチは、豊穣の女神フリーリアを唯一の王妃に望む」
声高に宣言された一言に、ブラックアウトしたのは言うまでもない。




