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08・勝者は?


「聞いてないぞ!?」


「だから、今言ったじゃない。

 王太子殿下戦死。その首は篭城中の国王陛下に届けられたわ。陛下の訃報は届かないから、ご存命であるとは思うけど・・・」


 食事と身支度を済ませたテオが、報告のためにフリーリアの入った家までやってきた。

 この村に入る前にもたらされた情報をテオに告げる。

 今後の打ち合わせも兼ねてこちらから報告したのだが・・・。



―――まぁ、予想通りの反応。



 そう、この情報が入ってきたとき、花火を上げさせたのだ。


「嵌めたな・・・」


 低い声で唸るテオ。


「人聞きの悪い。タイミングが良かったのよ。テオだって、同じタイミングで仕掛けるでしょう?」


 当然のタイミングだったと言えば、反論できないテオ。

 あれが最高のタイミングだったのは間違いないのだ。


「だからって・・・。王都の北兵たちはほとんどここだろう? 国王はどうなってんだ?」


「それがね、テオ。今、ここに迎え入れた北兵たちは王都侵略兵たちとは別なのよ。ここに居るのは、王都から国境沿いの兵たち。フリーリア領に侵入しようとしていた兵たちだから、王都の兵とは別物らしいわ」


 にっこり笑って言えば、絶句するテオ。

 ハメたことになるが、ソレはソレだ。


「じゃあ・・・」


「うん。明日、王都奪還してきてね」


 ほら、ここから王都は近いし。


「そのためにわざわざココに呼んだな・・・」


 今更気付いても遅い。


「わたしたちの平和のためよ。 ね、テオ。これで全てが終わるわ」


 と、唆してみる。



―――そう。すべてが、ね。



「ここまできたんだ、最後まで付き合ってやる」


 不貞腐れたように言うテオに呆れた。

 人を生き神様にしたんだ、このぐらいは我慢してもらわなきゃ割に合わない。


「――で、フリーリア。これからのこと、どうするつもりだ?」


「現状の整理からしましょうか。 お互いの情報交換も兼ねて」


「あぁ、そうだな・・・。

 取り敢えず、こっちは予定通り北の王を討った。フリーリアの言った通り、統一国家ではない北の国は王の守りが弱かった。部族同士の結束は弱く、ほぼ自治領区だ。自分たちの領地に害がなければ邪魔はしない。国王という名の一部族長に従っていたのは、そこの部族が一番大きく兵力が勝っていたからだ。逆らえば、領地ごと潰される。だから従う。それで国家として成立させていた。国王――まぁ、部族長か、を討ってその一族全てを拘束してきた。他の部族に国王になろうなんて気は無かったし、今はオーストリッチ侵略に男たちが出払っているのが幸いして混乱は無かった。

 一応、兵の半分は置いてきているから問題はないはずだ」


 こっちは、当初の予定通りだと告げられる。

 北がこれ以上兵を送り込んでこないのであれば、後は国内に集中できる。


「こっちは、王都に帰還中の王太子殿下が戦死。その知らせが早馬で入ったタイミングで花火を上げたわ。その後、その首が篭城中の国王陛下のもとに届けられたと知らせが。大々的な発表ではないから、民たちは知らないはずよ。

 王都の北兵たちがそれと同時にフリーリア領に侵攻してきたから、ここよりもっと王都に近い所で叩いて、この地に迎え入れたの。

 今、王都に残っている北兵たちは、北の王と同じ部族の者たちばかりだそうよ」


 王都に残って篭城中の国王を見張っているのは、北の王に近しい者ばかりだと、ここに受け入れた北兵たちが言っていた。

 北の王が討たれたのは、テオたちが上手く隠したのだろう、まだ知られてはいないようだった。

 オーストリッチの王太子の首を取り、国王はまだ篭城中、というこの状況に浮き足立っている王都の北兵たちから、王都奪還をするのなら今しかない。



―――篭城中の国王が死ぬ前に終わらせなければ意味が無い。



 北の王が討たれたと知られるのも、時間の問題だろう。


「ここを拠点に王都を奪還する。早いほうがいいんだろう? 今から出る」


 こう、と決めたら即行動はテオの美点だと思うが、いくらなんでも早すぎる。


「待って、兵たちは十分休息を取っていないわ。急いては事を仕損じる」


「だからって、もたもたしてられないだろ? 皆を集める」


 言うが早いか、すぐ出て行ってしまうテオ。

 やっぱり、今日はゆっくり眠ることは出来ないらしい。

 もう、外は暗くなっている。

 今から向かえば、王都に着くのは深夜前。奇襲にはもってこいの時間だが、兵たちにそれだけの余力があるのか。



「ジニム、どう見る?」


「・・・・・ここに居る北の兵達が味方に付けば」


「明日はベッドで眠れるかしら?」


「・・・・王宮の、ですか?」


「まさか。希望はフリーリア領の砦の寝室よ」







 表から呼ばれて外に出れば、テオを初めとしたオーストリッチの兵と軽症の北兵たちの姿。

 膝を折り待つ兵たちのその姿に、舌打ちしなかった自分を褒めてやりたい。


「フリーリア、今から王都奪還に向かう俺達に女神の祝福を」



―――わざとらしく礼を取るテオの横っ面を叩かなかった自分を褒めてやりたい!!



「・・・王都奪還は急を要することだけど、私は貴方達の体が心配だわ。北の兵たちは負傷しているし、テオたちは北の地から戻ったばかりで満足に休息すらとっていないでしょう? 強行に推し進めるのは、貴方達の負担にしかならないわ」


「パディ、私たちなら大丈夫です。パディの御慈悲で、適切な処置と食事、そのうえ身を清めることまでさせていただきました。家を開放して下さり、ゆっくりと体を休めることができました。私たちは、十分戦えます」


 国ではなく、フリーリアに忠誠を誓う、と口にした北兵が言う。

 どうやら、この男がリーダー格らしい。


 豊穣の女神だけでなく、北の慈愛の女神、パディまで兼任しなければならなくなったらしい。



―――本格的に生き神様だわ・・・。



「俺達も大丈夫だ。食事も取ったし、身も清めた。休息は十分取ったさ。

 今から向かえば、奇襲にはうってつけのタイミングだろう?」


 どこかで聞いたような台詞を返され、王都奪還は決定した。



―――私の睡眠不足も決定した・・・。



「わかった。今から向かうのはいいわ。でも、色々下準備が必要だわ。

 砦に伝令を出して。ココの守りと、重傷者たちの看護の者を手配。あと、必要物資を調達してココに運び込んでおくように、と」


 奪還に向かうなら、それなりの準備をすませなければならない。

 ココを拠点にするのなら、守りはきちんとしておかなければならない。

 前線に送り込む物資も必要だ。


「それと、馬を一頭。私も一緒に行くから」


「フリーリア?!」


「パディ?! 危険です!!」


 同行を反対されるのは予想の内。

 しかし、これだけは譲れない理由がある。


「火薬がまだ王都にあるわ。王城を爆破できるだけの量が、ね。動き・・を見れる私が一緒の方が良いのは道理でしょう?

 テオたちの足手まといにはならないわ。ジニムがいるもの。ね、ジニム」


「御意。フリーリア様に危険は近づけません」


 即対応するためには、近くに居たほうがいい。

 テオ・・に万一の事があっては、今までの苦労が全て水の泡だ。


「わかった。ジニム、フリーリアを頼む。

 今の内容、砦に伝令を。馬は足りるだろうが確認して来い。利き腕と足を負傷している者はココに残って守備と物資の受け取り、伝令を担当してくれ。ココまで逃げてくる者がいたら生け捕りに。隊を組みなおす。30分で出るぞ。―――急げ!!」


 ばたばたと準備に取り掛かる兵たち。


「フリーリア、馬に乗れるのか?」


「いいえ。ジニムに乗せてもらうわ。最後尾に着くから、一人伝令係を付けてくれる?」


「あぁ。今の王都、兵の人数はわかるか?」


 奇襲では、最初にどれだけ敵を混乱させ討てるかで勝敗が決まる。

 大体、成功させるには敵兵と同等の兵力を送り込む。


「多分、50人ぐらい。表だけ叩くなら、20人ね」


「部隊を2つに分ける。一気に叩くからフリーリアは俺と後方だ」


「後方? ・・・・あぁ、北兵を奇襲に使うのね・・・」


 テオの不思議な発言に、少し考えて納得した。

 もともと味方だった北兵を奇襲部隊として先に送り込めば、相手の油断を誘える。


「戦略まで考えられるのか? 利口だな」


 チラリと見られ、慌てて口を噤んだ。

 余計なことは言わないほうがいい。


「王宮の前に20人程。そこに、火薬もあるわ。多分、馬車か何かに積まれてるんだと思う。気をつけてね」


 これ以上余計なことを言う前に、必要であろう情報だけ伝えて出発の準備のため、一度部屋に戻った。




―――さぁ、ここからが本当の勝負どころだ。



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