07・やられた!
そろそろ来るであろう者を待ちながら、今後の事を考える。
傍らには、膝を折り、側を離れない北兵たち。
―――これで身体が休まるとは思えないんだけどね~
まぁ、いいか、と外へ目を向ければ、こちらに一直線に向かってくる人のカタマリ。
さて、タイミングを逃せば女達を帰せなくなる。
そろそろ暗くなるし、これ以上ここに留まらせておくわけにもいかない。
「ジニム、女達を帰すわ。私はしばらくここに残るから、ジニムも悪いけど一緒に残ってね」
一応、今後の予定を伝えておく。
―――何も聞かずに頷いてくれるジニムに感謝ね。
「フリーリア様、馬車の用意ができました」
「ありがとう、手伝ってくれた彼女達を送り届けてちょうだい。一緒に領地から来た者達も皆引き上げていいわ」
「全員、よろしいのですか?」
「えぇ。ほら、テオたちも着たしね」
心配する兵に外を指せば、遠くから馬の嘶き。
「わかりました。では、連れてきた者全員領地へ帰還いたします」
「道中、くれぐれも彼女達をお願いね」
本当なら見送りたいが、1頭の馬が勢いよくこちらに向かってきたので断念する。
「フリーリア!!」
馬上から大声で呼ばれた声は、間違えることの無い相手のものだ。
「テオ、お疲れ様」
門の手前で急停止してヒラリと降りるテオ。
「女神フリーリア、今回のご助力のおかげで、無駄な血を流すことなく終えることができました。女神のご加護に御礼を」
改まった口調に、最上の礼。
―――やられた!!
忠誠を誓う騎士のソレに、テオを睨みつける。
フリーリアがテオに膝を折る予定だったのに!!
そのためにわざわざココに居るのに!!
―――これで、生き神様決定とか、ありえない・・・。
「顔を上げて、テオ。わたしには何の力も無いわ。全ては、動いてくれた貴方や、他の兵たちの力。皆も、お疲れ様」
到着した他の兵たちも、テオに習って次々膝を折る。
その者たちにも声をかけてテオを立ち上がらせれば、ニヤリと嗤われた。
―――ムカツク!!!
自分の勝ちを確信したその笑みに、面倒ごとを全てフリーリアに押し付けてきたテオの、してやったりなその笑みに、本気でムカついた。
―――が、文句は後だ。ここからが肝心なのだから。
「北の兵たち。北の国の独裁者の首は我等が取った。一族は全て我等の手にあり、たった今より北国はオーストリッチの藩属国になる。各部族たちはその領地を独立自治領区とし、各々の裁量でもって治めていただきたい。これは決定でなく提案である」
テオが、傍に控えていた北兵たちに伝える。
いつの間にかその数は、重傷者を除く全てではないかという位の人数になっていた。
これが、今回の目的。
北の国を、こちらに取り込む・・・。
「オーストリッチの藩属国は承服出来ぬ。我部族は、パディにこの忠誠を捧げる」
しん、と静まり返った場に、一人の北兵の声が響く。
「我部族も、パディにのみ従おう」
「パディ・フリーリアに忠誠を」
「忠誠を」
次々と上がる、北兵たちの声。
国の藩属としてではなく、フリーリア個人に忠誠を捧げるという北兵たち。
ますますテオの思い通りになっていく現状に頭が痛くなっていく。
―――で、収拾のつかなくなったこの場を収めるのも私ってか?!
チラリとテオを見れば、いやらしい笑い。
―――覚えてろよ!!
ぱんぱんっと手を鳴らして注目を集める。
―――既に生き神様を見る目で見つめられてるのは気のせいだ!!
「あくまで、まだ提案だから、国に戻ってからゆっくり相談して決めて欲しいの。
わたしは、自分の領地を守るためだけに北の王を討った。貴方たちを支配するために起こした行動ではないの。わたしはこの国の王族でもないから、これ以上の権限は無いしね。
後日、正式な場が設けられることになるでしょうから、答えはその時に。
テオたちは、中央の家に食事の用意が出来てるから食事を。井戸には桶と布の用意もしてあるから自由に使ってくれてかまわないわ。
私は、西の端の家に居るから、何かあったら来てちょうだい。他の家は、自由に使ってくれていいから、ゆっくり休んでね。
あぁ、ここから出て行くのは自由だから、報告はいらないわ」
言うことだけ言って、さっさと背を向け歩き出す。
付き従うのは、ジニムのみ。
後ろで聞こえるテオの声は、指示を出しているのだろう。
まんまとフリーリアを生き神に祭り上げたテオにはムカツクが、これから私もテオを嵌める事になるので相子だろう。
本当は、フリーリアを生き神様になんてするつもりは無かったんだ。それを押し付けてきたんだから、これから私がすることも許される筈。“平和な日常”のためだし、文句は言わないだろう。
「フリーリア様、今日はこちらでお泊りですか?」
「んー、多分。きっとそうなる・・・予定?」
「予定?」
「そう、予定。まだ微妙。これからのテオ次第?」
ぽつぽつとジニムと話しながら、西の端に向かう。
背後で人の動く気配がしたから、あっちも解散になったんだろう。
「フリーリア様、先日の件、ニトジムが了承、と」
家に入ったところでもたらされた、待っていた報告。
ニトジム陛下にしていた、お願い事の返事。
断られる可能性もあったので、この承諾は嬉しい。
「そう。ありがとう、ジニム。ニトジム陛下にも、くれぐれも御礼申し上げてね」
―――これで、全てが揃った。