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02・いーモンひーろった


「殺さないの?」


 パチリと目を開けば、フリーリアにかぶさった女の姿。

 今、短剣でフリーリアを殺そうとした女。

 声を掛ければ、のろのろと上がる顔。

 その顔は、涙に濡れていた。


「神を殺すなど、私にはできない・・・。死すらも受け入れられる御身に刃を向けるなど、許されることではなかったのです・・・」


 はらはらと、涙を流す女。



―――さて、何がどうなってこうなった??



 理解に苦しむ展開というか、反応というか・・・。


「死は等しく誰にでも訪れるのです。わたしは、望まれるまま振舞っただけ」


 そう、フリーリアは何も考えていなかった。ただ、死ねと言われたから死んだだけ。

 フリーリアには、生きるための何かが欠落していた。



―――だからこそ、生き神様なんてやったられたんでしょうね。



 フリーリアから離れ、ベッドの下に跪く女に手を差し伸べる。


「フリーリア!!」


 突然開け放たれた扉に、言いかけていた言葉がとまった。



―――誰だよっ 非常識な!!



「・・・・テオ」


 文句の一つでもいってやろうかと振り向けば、そこにはテオの姿。


 はて、フリーリアとテオは寝所の行き来をする仲ではなかったはずだが?



「その服装・・・。南の敵兵か?」


 枕に刺さった短剣と、ベッドに舞う羽。そして女の姿に、闖入してきた時の雰囲気をがらりと変えて、剣を抜く。

 切先は、女に躊躇いも無く向けている。


「テオ、剣を引いて。これはわたしの間者。無礼よ」


 一応言ってみる。まぁ、信じてもらえるなんて思ってないけど。

 案の定、チラリと横目で睨まれた。その目は黙れと言っている。

 心配してくれているのはありがたいが、その態度が気に入らない。


「女神、良いのです。テオ殿。私はジニム。南の者。しかし、この身は女神に差し出したゆえ、如何様にもしてくれればいい。私に、この御方を殺すことは出来ない」


「フリーリアの敵で無いならそれでいい。フリーリアのものを、俺が勝手に手出しすることはできない」


 真っ直ぐに見上げて言うジニムに、テオは剣を納めた。

 ジニムの目に、何を見たのか・・・。



―――何か、拾い物しちゃった・・・?



「それよりも、テオ。こんな時間に無断で寝所へ入ってきた貴方の言い訳を聞きましょうか?」


 フリーリアの恋人でもないテオ。深夜に寝所へ入ってくるなど、失礼な男だ。


「・・・ 悪かった。今、敵軍が撤退宣言した。本当に退くかどうか見て欲しかったんだ」


 バツの悪そうな顔で言うテオ。

 ここが、フリーリアの寝室だって忘れてたってことか。まったく・・・。などと心の中(ここ重要!!)で文句を言っていたら、答えは意外なところから返ってきた。


「本当だ。私が定刻に戻らなければ撤退するようにと言ってきている。私の命を聞かぬ者はいない」


「ですって。確かに、人の塊は移動してる。見張りだけ残して、皆休ませたら?」


 そして、とっととここから出て行け。は、心の中で。



―――フリーリアは文句なんていわないしね。



「わかった。邪魔したな」


 ちらりとジニムを見て出て行くテオ。

 言いたいことがあるなら言えばいいのに。


「さて、ジニム。お願いがあるのだけれど」


 テオのことはほっといて、私が生きていくための布石にとりかかる。



―――何よりも、コレが大切なんだ!!



「何なりと、我が女神」


 にっこり笑えば、平伏すジニム。

 美女が平伏す姿は倒殺的だなぁなどと思いながら見つめてしまう。

 騎士だったのだから、肌は日に焼けて浅黒く、茶色い髪は痛んでいるが、顔の造形はいいし、身体も引き締まっていて均等が取れている。

 フリーリアがごく平凡な容姿なので、余計にその美しさが引き立つ。


「ジニムはさっき、わたしにその身を差し出した、と言った」


「御意」


「じゃあ、ジニムはわたしのもの?」


「御意」


「わたしに忠誠を?」


「この身の全てにかけまして」


 躊躇うことなく出てくるのは全て肯定。素晴らしい!!


「では、わたしの・・・護衛になってくれますか? 今わたしに付いているのは、国王に忠誠を誓う、この国の護衛ばかり。守り神として、このフリーリア領の領主としてのわたしを守ってはくれるけど、わたしに忠誠を誓ってはいない。同姓の、それもわたしに忠誠を誓ってくれる護衛が必要なの。ジニム、わたしだけの騎士になってくれますか?」


 国に富をもたらす豊穣の女神・・・・・には、国王の命令で護衛団が派遣されてきた。

 それは、この戦でフリーリアが死なないように、という利益のためで、戦が終わればどうなるかわからない。

 欲にまみれた国王のことだから、このままフリーリアを自由にはしておかないだろう。

 最悪、生き神として王宮にでも監禁されるに違いない。

 そんなことされてたまるかってことで、フリーリア・・・・・を守る者が欲しい。


「わたしの命に代えましても、お守りいたします、我が女神」


 ジニムの国の礼なのだろう。

 方膝を付き、左右反対側の肘を掴み、目の高さまで上げて、誓う。



 私の好きに生きればいいフリーリアの人生を、過ごしやすいものにするための初めの一石を投じた。



「ありがとう、ジニム。わたしのことはフリーリアと名前で。

 さあ、そうと決まれば、ジニムはお風呂と着替えね。お風呂はその扉の奥。着替えはその間に用意しておくわ」


 有無を言わさずに連行。文句が出る前に扉を閉める。

 着替えはフリーリアの物で良いだろう。ムームーのような寝着なので、少々の体系の違いは問題ない。

 短剣の刺さった枕は捨てて、短剣はジニムに返そう。

 深夜なので人を呼んで片付けさせるのは気が引けたので、さっさと自分で片付ける。


 フリーリアは護衛団が赴任してきたとき、この砦の一室に迎えられていた。

 フリーリア領として自治領を設立させたときに、領主として立派な館が領民によって用意されていたが、そこよりも一緒に居たほうが守りやすい、とこっちに入れられたのだ。

 フリーリアの世話係の侍女も一人用意されていたが、もともと平民出のフリーリアは自身の世話を焼かせること無く、食事と住居の世話だけを頼んでいた。


「フリーリア様・・・」


 一通り片付け終わったところでジニムに声をかけられた。


「ジニム。良く似合う。もともと着ていた服は捨ててね。他国の服を着た者を騎士とすることはできないから。明日にでもテオに服を用意させるわ。それまでは、我慢してね」


 ジニムが手にしていた服をサッサと捨ててしまう。

 呆然と立っているジニムの手を引き、ベッドに座らせた。


「色々と詳しいことは明日にさせてね。今日はここで一緒に寝ましょうね」


 キングサイズより大きいベッドなので問題ないだろう。

 無駄に大きい寝具は好きだ。

 ジニムの隣に横になって、おやすみーと声をかけても、一向に入ってこないジニム。



―――うーん。固まってる。



 えいっと手を引いて、強引に転がす。そして、一言。


「ちゃんと寝てね」


 覗き込んでにっこり笑えば、真っ赤に染まるジニムの顔。



―――そんな反応されると私が困る!!



「おやすみ」


 気づかないふりで横になった。

 うん、これが一番だ。


 緊張したジニムの身体から力が抜けたのを感じて、そっとため息をついた。




 さて、フリーリアとして生きていくのに、状況の確認でもしますか。



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