表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/74

14・愛し愛された女の一生

 事の真相と今後の方針を確認して使者としての務めを終え、イーガルに帰国して。

 御父様とザット王子に報告を終わらせれば、双方から盛大な『呆れ』を頂いた。

 まぁ、その気持ちは良く解るが。


「では、エイシャの身分回復の打診も・・・」


「あぁ、公に娘としたかったんだろうな」


「ギブロアのことは?」


「予想外だったそうだ。あくまで、望んでいたのはエイシャの幸せだと」


「報われませんねぇ」


「まったくな」


 ジダン王子の執務室。

 相も変わらずそこに集まってお茶をしつつ、話の内容はルードイ国王の事。

 ギブロアは継承権剥奪のうえ、その身を拘束されて幽閉された。二度とその地より出ることも無く一生を過ごすことになるだろう。まぁ、ミジャンの時のように、そのうち『自殺』の知らせが届くだろう、というのがジダン王子とザット王子の共通の見解だ。

 ルードイ国は、エイシャが王妃となったその時より国としての機能が停止する。新たに、イーガル国の一領地、王妃の受領地となることで双方が合意をした。意外なことにギブロアの弟たちからの反対は無く、臣下に下ることを二つ返事で了承した。第二王子には将軍職が与えられ、第三王子はイーガルへ見識を広げるために留学することが決まったそうだ。

 ザット王子とジダン王子のやり取りを聞きつつ、こちらも盛大な溜息をグッと堪える。


「では、これで心置きなく婚儀に臨めますね」


 ザット王子のその言葉に、堪えていた溜息が漏れた。

 そう、帰国したエイシャを待ち受けていたのは、満面の笑みの御母様と侍女たち。

 婚儀の日も差し迫り、衣裳やその他の手配も終わり、後はエイシャ本人を磨くだけ、という訳の解らない理由で拉致られ、全身ピカピカに磨きこまれた。

 いくら隣国とはいえ、他国に赴いて疲れていた体には気持ちよかったのだが・・・。

 エステとマッサージを同時にやられたようで、疲労感が半端ない。お風呂で磨かれ、香油でマッサージされ、スキンケアを施され。挙句、ベッドはジダン王子と同じという・・・。



―――そりゃぁ、移動中もルードイでも同衾でしたが!!



 婚儀の前に同衾など、と思っていたが、ココでは別に構わないらしい。一応、まだ手を出すな、という御母様からの注意勧告はされてはいるが。

 抱き締められるし、キスもする。際どいところまでもする。なんつーか、限界に挑戦、みたいな。ギリギリで踏みとどまるジダン王子の理性を称賛するべきか、踏みとどまれる程度のエイシャの魅力に嘆くべきか悩むところだ。

 いや、決して最後までを希望しているわけじゃないが。


「どうした、エイシャ。疲れたか?」


 溜息を聞きとめたジダン王子がエイシャに触れる。自身の胸元にあるエイシャの頭を愛おしげに撫でる。

 くえっしょん。エイシャはどこに居るでしょう?


「いいえ、大丈夫ですわ、ジダンさま」


 その手に擦り寄るように頭を動かし、上目づかいでジダン王子を見る。

 あんさー。ジダン王子の膝の上です。


「母上の玩具になっているのですって? 無理はしていませんか?」


 気遣わしげなザット王子の言葉にも、大丈夫です、と返して。

 それよりも、この状態へのツッコミが欲しいと思うのは贅沢だろうか・・・。

 ソファに座るジダン王子の膝の上。横抱きにされて、愛おしげに髪を梳かれて、時折降ってくる口づけを受けながらのお茶。色々間違ってると思うのは私だけか?

 なんつーか、ザット王子も、お茶の用意をしに来た侍女も、仕事の話を持ってきた文官も、誰も何も言わず、反応すらされないと間違っているのはこっちじゃないかとすら思えてならない。こわいわぁ・・・。


「やっとエイシャを妻にできるな」


 直接エイシャの耳に吹き込まれるジダン王子の甘い声。

 熱をもったその声に、歓喜するのはエイシャのココロ。

 魂は既にこの体から出ているはずなのに、そう感じるのは鈴がエイシャと同化しているからだろう。記憶にあるココロが、条件反射のように反応するのだ。



―――これが仮初めだと忘れそうになるなぁ。



「これからは、片時も側を離れるな」


 常に隣に在り続けよと、真摯に告げられる。


「ずっとお側に居りますわ」


 だから、決して離さないでください、と甘える。

 ザット王子や侍女の視線が気になるが、それは無視することにして。

 これからの人生、どうせベタベタのデロデロに甘やかされるに決まってるんだ。早々に開き直った方が得策。

 だから、というわけではないが。ジダン王子の耳に、そっと囁いた。


「     」


 その言葉に、ジダン王子は数瞬停止して。


「エイシャっ」


 煽ってくれるな、と唸るように言いながら、力いっぱい抱きしめられた。



 これが、愛し愛されたエイシャの本当の始まり。





 この後、無事に婚儀をあげてエイシャはジダン王子の正式な妻になった。皆から祝福され、ジダン王子から愛され、幸せしか無いような夫婦生活。

 婚儀から一年たたないうちに、第一子の男の子を出産。妊娠期間も出産後もジダン王子は浮気することもなく、それどころか益々愛情深くエイシャを包み込み、じきに第二子、第三子の双子の男の子を出産。この頃、御父様が退位し、ジダン王子が国王として即位。同時に第一子のシグルが王太子となった。

 絵に描いたような幸せな毎日を当たり前に送るエイシャ。王妃という地位に立ち、国王陛下の唯一の妃という地位に立ち、揺るぎ無い足場を手にしていた。世継ぎの心配も無く、周辺諸国との関係も良好。側室の必要性もないまま、エイシャはただ愛し愛される日々。

 即位の忙しさも落ち着いた頃、三度目、四人目の子供を妊娠。王妃という地位に立ってからの懐妊に国中が沸き、生まれたのは第一王女。待望の女の子に夫も息子たちも大喜びで可愛がった。


 そんなエイシャの一生は、病によって終止符を打たれたのだ。子供たちの手が離れ、穏やかな日常を送っていたエイシャを脅かしたのは心臓病。日に日に弱っていく心臓の鼓動に、日に日に強くなっていく痛みに、エイシャの“終わり”を悟った。






 空になった食器を片付け、ぐぐっと伸びれば、ちぢこまっていた身体が伸びた。

 行に入る前に身体を清めようとバスルームに向かう。



―――二日もお風呂に入ってないとか考えるのはやめよう!!



 シャワーを浴びて行の支度をすれば、いつの間にか現れた死神ヤエ様。


 しばらくは自分の肉体で過ごさせてやる、と偉そうに言われたと思ったが気のせいだったのか。

 それとも、また、うっかり、間違って殺してきたのか。



―――どっちにしろ、私にはろくでもないことに違いない!! が。今更この主に何を言っても無駄だ・・・。



 文句を言ったところで改善されないのはわかってるんだ。

 この主の雑用になって、学んだことの一つ。


「ヤエ様、いかがなさいました?」


 手を止めてヤエ様を見上げれば、面白く無さそうな顔。


「雑用、もう少し驚いたらどうだ?」


 あぁ。私の反応が気に入らないのか・・・。


「そうはおっしゃられてもヤエ様。もう十年の付き合いですから、今更です」


 突飛な行動には慣れてるといえば、チッと舌打ちされた。

 10年前から変わらない童女の見た目と、このギャップにも慣らされた。


「まぁいい。今度はブタにでも飛ばしてやる」


「嫌がらせのためにわざと殺してくるのはやめてください。それと、人類以外はヤエ様の管轄ではないと存じ上げておりますので」


 そう、死神様にはいくつかの管轄が存在するらしいのだ。そのいくつかの分類の中で、ヤエ様は人類担当。

 見た目が爬虫類だろうと海中生物だろうと、人類と分類される生物しか殺せない。

 それだけは安心した。


 魚とかになって三枚に捌かれるのも、ゴキ〇リになって駆除されるのも嫌じゃないか!!


「チッ おもしろくない」


 昔はあんなにからかいがいがあったのに、と言われて脱力する。

 


―――こーゆー人だよ、死神様は!!



「それよりもヤエ様、何か御用があったのでは?」


 一向に進まないので、痛い頭を抑えつつ聞いてみる。



―――聞きたくないけどっ!!

 


「あぁ。雑用、仕事だ。サッサと行くぞ」


 そう言って、鎌を振り下ろそうとするヤエ様。


 やっぱり聞きたくなかった!!

 しばらくはこの身体だって言ったじゃないか!! とか。

 せめて豪華なご飯を食べてからがいい!! とか。

 シャワーじゃなくて湯船に浸かりたかった!! とか。

 色々あるけど、とりあえずは!!


「まって、ヤエ様!! せめて布団に行かせてくださいー!!」


 マイペースなヤエ様に待ったをかけて、何とかベッドにたどり着いた。

 


―――布団じゃないと戻ったときに洒落にならないぐらい痛いんだ!!



 横になったのを確認して鎌を一振り。ぐにゃりと歪む空間に、引っこ抜かれた魂。

 ソレをつまんで、ポイッといつものように捨てられた。

 魂を身体から抜くことも、次元の歪みに入れることも、死神様にしか出来ないらしい。

 まぁ、ポイポイそんなことが出来ても嫌だが。


「じゃあな、雑用。がんばれよ~」


 これもいつも通りに、ヤエ様の声が響く。


「はーい」


 と返事をして、衝撃に耐えるために目を瞑った。



 エイシャ編終了。お付き合いありがとうございました。


 次話よりフリーリア編開始。

 どうぞお付き合いください。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ